飛べなくなった鳥達(1):大地や水と共に生きる選択、得たものと失ったもの

別の記事で飛ぶ鳥達の特徴について調べてみましたが、実は鳥には飛べない鳥達も数多く存在しています。彼らは鳥としての特徴である翼や嘴などを持ち、確かに鳥としての外見を保っているものの、何故か飛べません。

地球上で空を飛ぶことが出来る動物は鳥達だけであり、空を飛べるというだけで多くの天敵に対して強いアドバンテージを持つことが出来ます。しかし、その空を飛べると言うメリットを捨ててまで、地上で生きる選択をした鳥がいます。

本記事では、そんな飛べなくなった鳥達について、迫っていきたいと思います。

飛べない鳥の特徴

飛べない鳥にはいくつか共通する特徴があります。

1.失われた翼の筋肉
2.揚力発生を無視した羽根
3.木に止まる事を考えない足
4.重たい身体

 これらは全て、飛ぶ必要が無くなったために生じた共通の特徴です。

逆に、飛べる鳥は翼の筋肉が十分に付き、揚力を発生させやすい綺麗な羽根を持ち、木に止まることに特化した足・爪を持ち、そして飛びやすい軽い身体を持っています。飛べる鳥の特徴については、「飛ぶために進化した鳥達(前編):飛び方・体・翼に至るまで、飛行を追い続けた生物」で詳しく説明しています。

飛ぶというのは、生き物として非常にハードルの高い行為です。大きな翼を動かし、軽い身体を保ち、常に風を気にしていなければなりません。飛行能力は、天敵を減らすという大きなアドバンテージと引き換えに大きな代償を払っているのです。しかし、もしその代償を払わなくても天敵を避けることできるとしたら、鳥達はどんな選択をするのでしょうか?

失われた翼の筋肉

飛ぶ必要が無いのであれば、大きな翼を何度も動かす必要はありません。翼を動かすために必要だった大きな胸筋が要らず、その筋肉を動かすために必要だった大きなエネルギーも温存しておけます。

翼を動かすための胸筋は軽い鳥の中でも非常に大きな重量を持ち、それだけ大きな胸筋を支える骨格も、また特殊なものとなっていました。

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上図の青い部分が竜骨突起・胸骨と呼ばれ、この部分に胸筋をくっつけ、翼を動かすための筋肉を動かしていました。この竜骨突起が十分に大きくないと、大きな翼の筋肉を支えられず、飛ぶためのエネルギーを生むことができなくなります。

ダチョウやエミューなどの走ることに特化した鳥達は、この竜骨突起が全く存在しません。大きな筋肉が要らなくなり、そのための骨の成長もシンプルになるため、栄養不足でも飛べなくなるということはありません。

揚力発生を無視した羽根

そして、飛ばなくて良いのなら、翼を形作る一本一本の羽根に気を使う必要もありません。

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 上図の様に、飛べる鳥の羽根というのは非常に精巧に作られており、上手く空気を切って揚力を生みやすい様になっています。しかし、ダチョウを含め、飛べない鳥にはその羽根に揚力の発生を考えない構造が見て取れます。

とは言え、全ての飛べない鳥に共通しているというわけではなく、一部のニワトリのような「少しだけ飛べる鳥」はその羽根にも飛べる鳥と同じく揚力を発生させられるような構造をしています。

揚力を発生させるためには空気の抵抗を生まない滑らかな構造が必要で、これらの特徴はダメージが蓄積する毎に失われます。そのため、多くの飛べる鳥達はこの羽根を何度も生え変わらせ、常に飛行に最適な状態に保つ必要があるのです。

羽根を何度も生え変わらせるためにはその分多くの食べ物が必要になる上、十分な栄養を得られなければ生え変えに失敗し、飛べなくなってしまいます。これは飛ぶための大きな代償の一つであり、羽根に気を使わなくて良くなるというだけでも、鳥はずいぶん生きやすくなるはずです。

木に止まる事を考えない足

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左図は飛べる鳥の足ですが、上手く木の枝に巻き付いて枝の上に止まれるような形になっています。

しかし、右図のようなダチョウの足は指が二本しか無く、二足歩行の得意な猿や人間の様に重さが二箇所に掛かるようになっています。人が走る時には踵をついてからつま先で加速しますが、二足歩行の鳥もそれに近い体重移動を行います。

地上を歩く鳥は指の本数が少なくなり、泳げる鳥は足がヒレの様になる傾向がありますが、空を飛べなくなる鳥は、木に止まる必要が無くなる、止まれなくなるため、様々な形で足の形が進化の過程で変わっていきます。

逆にこの足の形がまだ十分に変わっていない鳥は、多少なりとも空を飛べるか、飛べなくなる進化を遂げたばかりと言えます。

重たい身体

そして、飛べなくなった鳥に共通するのは身体が重いこと。

空を飛べる鳥の殆どが体重1kg以下であり、非常に軽いのが特徴ですが、飛べない鳥はそれを越えます。ダチョウは150kgで、ニワトリは多少飛べるものの2-3kgと重く、野生の痩せたニワトリでも数十メートル程度の飛行が限界です。

基本的に飛べない鳥は、進化の過程で飛ぶ必要がない環境で住み始めるか、飛ぶ以上に大きな利点(走力・泳力)を手に入れた事が原因でまず飛ぶ機会が減ります。そうすることで、摂取した餌が消費されなくなり徐々に大きな固体が増え始めると、種そのものが大型化し始めます。

そうして徐々に飛べなくなり、走力や泳力に特化した身体に変化していきます。

ダチョウであれば巨大な身体と長い脚、ペンギンであれば寒さに耐えられる肉厚、鴨類であれば水に浮きやすくなるように・・・そうして、飛ぶための軽さとそれ以外の能力はトレードオフになり、どちらかを得ればどちらかを失いました

走る能力と泳ぐ能力

飛べない鳥には上記のような共通の特徴がある一方で、飛ぶ以外に様々な生き残るための力を獲得しています。

その主だったものが、走力と泳力です。ダチョウ、エミュー、キーウィは走力を、一部のカモ類やアヒル、ペンギンは泳力を獲得する一方で飛行能力を失っています。

彼らはそれらの能力を得る過程で、どのようにして飛ぶ力を失っていったのでしょう?

そして、飛ばなくなった鳥達の翼は、どのように活用されているのでしょうか?

走力を獲得した鳥達と泳力を獲得した鳥達については、次回以降で取り上げて行きます。

 

飛べなくなった鳥達(2):地上で生きる術を見つけた鳥(ダチョウ、キーウィ、ニワトリなど)

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