小惑星と間違えられた探査機ロゼッタ、チェリャビンスク隕石級の危険性とも

2007年11月8日。地球に接近する天体を観測するカタリナ・スカイサーベイから、それらの情報を統括する米国の小惑星センター(MPC)にある情報がもたらされた。2007VN84と名付けられたその天体が、地球に急接近しているというのだ。

地球に再接近する際の距離はおよそ5700kmにもなる。月と地球の距離が、384,400kmというのだからかなりの近距離だ。何かの拍子に天体の針路が変われば、地球に落ちてくる可能性が極めて高い。しかも、その大きさは直径20m級。これは、チェリャビンスク州で甚大な被害を生んだ隕石と同クラスであり、まともに落ちれば100mクラスのクレーターを生む巨大な隕石となる。

地球に危険が迫っていた。

接近中の小惑星は実は探査機ロゼッタだった

その情報はすぐに公開され、小惑星センターでは局員が観測と調査を続けていた。

小惑星が最接近するのは2007年11月13日。猶予は5日。下の図はその小惑星の軌道を描いたもので、状況は一刻を争う。

2007VN84

衝突コースではないものの、これほど大きな小惑星がここまで地球に接近することは極めて稀だ。小惑星センターの局員たちの中に緊張が走る中、局員の一人、デニス・デニセンコがあることに気づいた。

「小惑星が接近する2007年の11月13日といえば、何か他にも大きなイベントがあった気がする・・・そうだ。ヨーロッパの彗星探査機ロゼッタのスイングバイの日だ!」

着陸機フィラエと探査機ロゼッタのミッション

そこで、ヨーロッパの機関から送れられてきたメールをチェックしてみると・・・確かに、その日にスイングバイを行う事が書かれていた。しかし、たまたまかも知れないので、ロゼッタの侵入軌道を計算してみると・・・見事小惑星の軌道とロゼッタのスイングバイの軌道が一致したのだ。

探査機ロゼッタの本体は直径2.5メートル程度で、仮に地球に落ちてきても大部分が燃え尽きるし、質量も大したことはない。直径20mというのは、ロゼッタが広げた太陽パネルのことだった。

探査機ロゼッタのイメージ画像
201410031

小惑星センターの局員はホッと胸を撫で下ろしたが、一方でわざわざ2007VN84とまで名前を付けて探査機の接近を小惑星と間違えてレポートに載せてしまったことを恥じた。

小惑星センターは今回の件が誤報であることを連絡すると共に、以下の様なコメントを残している。

「今回の一件は、小惑星センター側に探査機の情報が提供されていたにも関わらず発生してしまった。これは、膨大な数の人工天体情報を適正に管理できていなかったために起きた事件であり、全ての人工天体に関する情報は一つのデータベース上で一括管理されるのが望ましい」

ロゼッタのは打ち上げは2004年で、彗星にたどり着くのは2014年。さらに、ロゼッタは2007年の以前に一度目のスイングバイを行っており、今回は二度目だった。このように、探査機のミッションは非常に長く、その多くが地球の重力を使った複数回のスイングバイで機体を加速させている。つまり、毎年の様に打ち上げられる各種探査機が、人が忘れた頃に地球に戻ってくる。

どうやら、この時にはまだ包括的なデータベースが存在しなかったらしく、掲示板の延長線上のようなもので人工天体の情報を管理していたらしい。探査機がまだ少なかった頃はそれで良いが、21世紀になってからは地球軌道の外にでる長距離探査が増えてきている。

掲示板やメールの記録程度では、古い情報を探しだすのは非常に手間だろう。

ロゼッタが行ったスイングバイとは?

スイングバイというのは、大型の天体に発生している重力を利用し、衛星や探査機の針路を変えたり、加減速するために使われる航行技術だ。

細かな説明はWikipedia(スイングバイ)先生にお願いするとして、スイングバイというのは大雑把に言ってしまうと、重力で宇宙船を進みたい方向に引っ張って貰えるように宇宙船を重力圏内に侵入させることだ。

アプローチとしては、地球が進む(公転軌道)方向の後ろ側を横切ると加速、前側を横切ると減速ということ。要は、地球は進行方向側に引っ張ってくれるので、それに合わせて宇宙船を進めてやれば良い。

(Wikipediaから引用)
Swingby-AccelerationSwingby-Deceleration

燃料補給のない宇宙の旅は、このスイングバイが速度を変えるための技術として非常に重要になる。

ロゼッタやはやぶさも例外ではなく、地球や月などを使ったスイングバイで加減速していた。しかし、このスイングバイを成功させるためには、十分な重力が必要であり、それを得るためには機体を可能な限り天体に近づけなくてはなら無い。そのせいで、地球のすぐ側を通る小惑星(地球近傍小惑星)と誤認され、一騒動になってしまったのだ。

一番怖いのは・・・

おそらく、再びこのような誤認事故が起こることはないはずだが、一番恐ろしいのは本物の小惑星を人工天体と誤認すること。

人工天体の多くが、地球に落ちても大きな被害を及ぼすことのない小さく軽いものばかり。しかし、小惑星は人工天体より遥かに重い。国際宇宙ステーションの一モジュール程度の大きさの小惑星でも、地球に落ちれば甚大な被害を生む。

今回の様に、探査機を小惑星と見間違えるのであればまだ笑い話ですむのだが・・・あれから、7年。情報管理が徹底されていればありがたい。