線維芽細胞とは?iPS細胞の原料にもなり、皮膚・筋肉・骨にまで変わる人が元来持つ万能細胞

線維芽細胞と言う細胞の名前を聞いたことがあるでしょうか?

聞き覚えのある人は、おそらくiPS細胞や再生医療関連のニュースで聞いたことがあるのではないか思います。線維芽細胞は傷や人体組織の修復と密接な関わりがある細胞であり、人体のありとあらゆる場所に存在します。

怪我などをした際には、非常に重要な役割を担う細胞修復の要とも言える細胞なのですが、傷を直すと言えば「血小板」が真っ先に出てくるように、線維芽細胞の働きについてはあまり良く知られていません。本記事では、そんな線維芽細胞について簡単にご説明していきたいと思います。

あらゆる細胞になる可能性を持つ細胞

線維芽細胞は、あらゆる再生医療の基本になっているとも言える細胞です。

線維芽細胞は指を切った時には皮膚に変わり、肉離れの際には筋肉になり、骨折した時には骨になります。文字通り、ありとあらゆる細胞になることが出来る万能細胞で、これがなければ怪我は決して治らないと言っても過言ではないでしょう。

あまり大雑把に言って誤解を有むといけないので補足しますと、線維芽細胞と一口に言っても存在する場所などによって微妙に違う性質を持っているので、厳密にいうとただ一種の細胞と言うわけではありません。言ってみれば、様々な細胞の元になる似たような性質を持つ細胞を総称して線維芽細胞と呼称しているだけです。

加えて、線維芽細胞がいきなり筋肉や骨になるわけではありません。線維芽細胞自体は小さな細胞なので、単体では他の細胞に成り代わることなど出来ません。他の線維芽細胞と繋がったり、自身でコラーゲン(タンパク質の一種)を生成したりして、修復に必要な仮の細胞(肉芽細胞)へと変わっていきます。一旦仮組みした細胞が、その場所に応じた形に徐々に変わっていき、最終的に骨や筋肉、果ては神経細胞(末梢神経など)にまで変わっていきます。

筋肉や皮膚に細胞が変わるのは理解できても、骨などの硬質な細胞に変わるのは不思議ですね。とは言え、爪も皮膚細胞が変質したものですし、骨に至っては毛細血管も通っていて神経も通っています。人体の全ては、何らかの細胞から成り立っているものなのですね。

再生医療への応用と万能細胞としての利用

どんな細胞にも変われる細胞。そんなものがあるなら、最初からそれを使えば良いと思うかもしれません。

確かに線維芽細胞は様々な細胞に変わることが出来ますが、臓器を丸々複製したり、ごっそり無くなった筋肉や大きな損傷を受けた内蔵の修復、腕を新しく作り直せるほどの能力はないのです。何にでもなれるとはいえ機能としては非常にシンプルで、炎症反応を検知したら自然とそこに集まっていき、喪失した細胞の代わりに組織を作る。ただそれだけの細胞で、自律的に必要性を判断して新しい細胞になっているわけではありません。

とは言え、大きな可能性をもつ細胞であることは間違いなく、様々な再生医療への応用が進んでいます。

iPS細胞の原料としても有名で、初のiPS細胞はマウスの線維芽細胞からでした。人のiPS細胞も人の皮膚から摂取した線維芽細胞を使って作られています。同じ万能細胞であるES細胞との最大の違いは原料であると言っても過言ではなく、ES細胞が卵細胞を原料に使っているのに対して、iPS細胞は線維芽細胞を使っているため原料の採取も培養も非常に簡単です。

さらに、iPS細胞の原料としてではなく、直接筋肉や神経の細胞に変えてしまう活用方法も存在しています。細胞の製造期間短縮という意味でも有効ですが、作り出した細胞の質的な向上も図れます。iPS細胞のような万能細胞では、一部の細胞が意図した細胞とは別の細胞に変わってしまう可能性があり、不要な細胞が混じり込むリスクが有ります。そのため、線維芽細胞が様々な細胞に変わる能力を持っていることを活かして、意図した細胞に予めダイレクトに変化させた上で活用するということです。

上述の活用方法は、「線維芽細胞を別の細胞に変えて使う」という使い道ですが、まだまだ研究途上の医療です。しかし、「培養した線維芽細胞を直接人体に投与する」と言う活用方法は、既に様々な治療で活用されています。

怪我の治療ではもちろん、美容などでもよく聞くようになりました。PRP療法は血小板をメインにした医療技術ですが、血小板は線維芽細胞を呼び出す機能を持っており、それに近い医療と言えます。

本来体が持っているものをわざわざ培養してどう使うのかと言うと、「追加投与」して再生促進、もしくは「再修復」を促すと言う使い道です。

つまり、怪我の治りが遅い部分に線維芽細胞を投与すれば修復が加速しますし、荒れた肌に投与すれば線維芽細胞がコラーゲンを生産して潤いある肌を取り戻すことが出来ます。

他にも線維芽細胞を活用した様々な研究が進められており、究極的には古くなった細胞を入れ替えて若返りが出来るとも言われています。

私達の体を支え続けてきた線維芽細胞ですが、今後の研究次第では人の限界を超える可能性を与えてくれる細胞となるやもしれません。