様々な掃海・掃討の手法と掃海艇が触雷しない理由-自衛隊の機雷掃海(後編)

係維掃海、ワイヤー付きの機雷をまとめて無力化するには?

機雷で最もメジャーなものは、海底からワイヤーを伸ばして設置するタイプ(係維機雷)です。

機雷が船舶を探知する方式は様々ですが、海上の船舶を破壊したければ海上付近に機雷を設置するのがセオリーでしょう。しかし、機雷がふわふわと海面を漂ってもらっても困る。なので、錘を海底に沈め、そこから水に浮かぶ機雷をワイヤーで海上付近まで伸ばす係維機雷が機雷としては最適です。

それはつまり、こう言った機雷の多くがワイヤーを海底から伸ばしているということです。だったら、長いハサミを用意して海中を進ませれば良いのです。ハサミでワイヤー切れば、機雷は浮いてきます。それを破壊すれば良いのですね。

問題は長いハサミをどうするかですが・・・実は、底びき網漁の手法を利用したユニークな手法が存在します。

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(係維掃海 – 海自:機雷掃海隊群より)

上図を見ただけで概要が把握できれば良いのですが、簡単に説明するとこういうことです。

所々にカッターが付いたワイヤーを海中に下ろし、そのワイヤーを機雷に付いているワイヤーに引っ掛け、カッターでワイヤーに切断する。

昔から使われているシンプルな手法です。問題はワイヤーを横に広げるやり方ですが、2隻でワイヤーを伸ばすと言う方法もあるにはあるのですが、大抵は水中凧(沈降器、展開器)を下や横方向に付けたものを利用してワイヤーが左右に伸びるようになっています。

この水中凧の仕組みですが、水の流れと凧の傾きを利用して意図した方向に動くようにしている面白い機器です。上図でも棚が斜めについた本棚の様な物が見えますが、これが水中凧として機能します。中空になっている部分を水が通ると、斜めになったパーツが水の抵抗を受けて任意の方向に動こうとします。水中凧と呼ばれるのは、凧が風を受けて空に上がるように、水中凧は水を受けて自在に上下左右に動けるからなのです。

こうしてワイヤーを左右に広く広げ、ワイヤーを機雷に引っ掛けて「機雷を見つける」機雷掃海といえるでしょう。

ちなみに、この手法の欠点はワイヤーがついていない機雷は除去できないということ。海底付近設置してある(短係止機雷)ものや海底に設置してある(沈底機雷)機雷には通用しません。

ワイヤーがついていないということは、それらの機雷は海底付近にあるはずなので、それらは感応機雷と呼ばれる「ぶつからなくても爆発する」機雷です。そのため、別の方法で除去することが出来ます。

感応掃海、見えない機雷を囮を使って除去する手法

感応機雷と言うのは、磁気・音響・水圧・電位の変化を探知して爆発する機雷です。

これらの機雷は極端な話、船が通っていなくても、これらの変化を検知したら爆発します。それを利用して、囮の船を使って爆発させるのです。磁気と音響が主流になっているので、これに対応した囮を使うのが一般的です。

囮の船というのは要らない船と言う意味ではなくて、船に似た磁気・音・水圧・電位を発生させる装置の事。これらの囮を探知した機雷が、本物の船だと勘違いして爆発すれば、それで機雷掃海は成功です。これが、「機雷に見つかる」機雷掃海と言えます。

囮装置は爆発で吹っ飛びますが、安価に作られているので、船が破壊されるのと比べれば遥かに損害は軽微です。

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(感応掃海 – 海自:機雷掃海隊群より)

現代の機雷はほぼすべてが感応機雷であるため、ワイヤーがついていてもいなくても、この方式で掃海出来ます。

ただし、機雷が賢く、囮だと気付くような機能がついていればこの限りではありません。ワイヤーがついていれば係維掃海が使えるのですが、米露のような先進国が使うような超高性能機雷などは海底付近に沈められているのでワイヤー切断が使えず、しかも音・磁気・水圧など全ての手法を総合的に使って敵を探すので、偽物には引っかかりません。

さらに、こういう高性能機雷はただ爆発するのではなく、敵を発見したら移動を始め、敵に十分に近づいてから爆発するようになっています。これらの高性能機雷を破壊するには囮装置も大幅に高性能化させざるを得ず、高価な装置を囮にして機雷掃海を行う時代になってきています。