糖質と炭水化物:生体エネルギーを生む過程-消化と栄養(2)

炭水化物は人の体内でどうやって糖に変わる?

さて、炭水化物が糖質と同じように扱われるということは、炭水化物がエネルギーになるということを意味しています。糖がエネルギーになることは分かりましたが、どのようにして炭水化物が糖に変わるのでしょうか?

炭水化物の利用方法は生物によって大きく異なるので、この場合は人間を例に考えてみます。

炭水化物が糖に変わる作用は、人間では「消化」と呼んでいます。基本的には、人は炭水化物をブドウ糖(グルコース)と呼ばれるエネルギー(ATP)に出来る一歩手前の状態まで消化し、一つにまとめて(グリコーゲン)肝臓などに貯蔵します。

この炭水化物の消化は、唾液や膵液、腸液によって行われていますが、消化のスピードは炭水化物の種類によって少々異なります。炭水化物も色々で、お米やパン、芋のように穀類を中心とした炭水化物もあれば、砂糖の様な甘い炭水化物もありますよね。

唾液が消化液である以上、噛んで出てきた唾液と炭水化物を混ぜあわせれば、少し分解されて糖になります。そして、お米やパンも噛んで唾液と混ぜると甘くなるように、基本的には糖の大半に対して、人は「甘み」を感じるように出来ています。人や動物、虫が甘い食べ物を好むのはこのためで、人がよく噛んで甘いと感じるものは、多くの生物にとって栄養価の高い食べ物なのです。

そして、砂糖の様に舐めた瞬間に甘いようなものは、炭水化物ではあるものの消化して分解する必要が殆ど無く、すぐにブドウ糖にまで分解されて、腸に入った瞬間そのまま体内に取り込まれます。しかし、ブドウ糖を大量に消費するような状態(頭や体を使う)ではない場合、大量にブドウ糖が入ってきても使い道がありません。そのため、すぐに貯蔵しようとするのですが、肝臓に入らないほど大量に余剰が発生すると、糖質を脂肪に変化させて肝臓の外で溜め込もうとするのです。

また、糖質を脂肪に変化させるにも余計な栄養を使うので、その分栄養バランスが悪くなります。甘いモノを食べ過ぎると太って体を壊すというのは、ブドウ糖が一気に入って余ってしまうからだと考えて貰って良いでしょう。

一方で、お米や穀類の炭水化物は消化に少し時間がかかります。穀類の炭水化物は、糖が大量にくっついた「多糖類」と呼ばれる糖で構成されており、このままでは吸収できません。それを唾液や膵液、腸液で単糖類であるグルコースなどにまで消化するのです。その過程は非常に長く、食べ物を摂取してから少なくとも数時間はかかります。

砂糖などが食べてから1時間経たずに殆ど吸収されてしまうのに対し、穀類の炭水化物はゆっくりと時間を掛けて吸収されるので消費量と上手くバランスが取れており、余剰が出にくくなります。エネルギーの摂取が甘いお菓子などではなく、お米やパンなどを中心にするのはこのためなのですね。

エネルギーと脳の関係を理解する

炭水化物がエネルギーに代わる過程は、簡単に言うとこういうことです。

「炭水化物→糖(グルコースなど)→エネルギー(ATP)」

炭水化物は、一度糖質(糖)に変化してから、エネルギーに変わります。また、糖はエネルギーに変わる前に肝臓などに一時貯蔵され、必要に応じて血液に載せて全身の細胞に提供されます。

また、運動でもしない限り、糖の多くが脳で消費されますが、脳の糖消費は非常に激しいです。筋肉などがアミノ酸の形でエネルギーを蓄えておけるのに対し、脳はエネルギーの貯蔵能力がありません。そのため、脳を活発に活動させたい場合、外部から摂取した糖に頼る他ないのです。

そして、糖のままではエネルギーに変わりませんので、酸素を取り込んでエネルギーに変える必要が出てきます。

心臓や呼吸が止まることで最もダメージが大きいのが脳と呼ばれるのはこれが理由です。呼吸が止まればエネルギー生成に必要な酸素が足りなくなり、心臓が止まれば酸素や糖が脳に運ばれなくなります。

筋肉や内臓であれば、そこまでエネルギー消費が激しくない上に、手近な物質をエネルギーに変えられますが脳は別なのです。そして、脳を過剰に使うと甘いモノが欲しくなるのも、素早くエネルギー化出来る「糖」を脳が欲しているからで、脳がエネルギー不足に陥っているということになります。

肝臓に貯蔵している糖が無くなった場合、脂肪などを分解して糖を取り出すのですが、これが時間が掛かって仕方ありません。棋士などがお菓子を食べながら対局していますが、脳を激しく使うような作業をしている場合、体内の脂肪を分解しても手遅れなので、あのように甘い食べ物や飲み物を摂取するのが効率的なのですね。

普段は穀類でエネルギーを摂取し、必要に応じて甘いお菓子のようなもので脳に栄養を送るというのが、賢い生体エネルギーの作り方と言えるでしょう。