そうりゅう型潜水艦輸出問題、遂に日独仏対決へ!どうしてこうなった?

以前、コリンズ級潜水艦更新問題で日・独・仏三国の潜水艦について比較する記事を書きましたが、2015年5月6日、どうやら本当に三国で受注協議に入ることが分かりました。

つい先月まで、そうりゅう型が最有力候補とされながら、どうしてこのような事になったのでしょう?

それには、豪州の国内造船業の事情と日本の武器輸出事業に対する営業力の乏しさが関係していました。

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そうりゅう型の最有力が覆った理由と経緯

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(そうりゅう型潜水艦_JMSDF

実際の所、依然としてそうりゅう型潜水艦が最有力なのには変わらないのですが、どうやら豪州の国内造船業の反発が豪州政府の想定を超えて大きくなったことがあるようです。

元々は豪州の新型潜水艦は国内で生産される予定で、アボット豪首相自身も公約として掲げていたほどです。しかし、次期潜水艦の計画が進むに連れて豪州の造船技術の未熟さが露呈し、豪州政府は潜水艦を輸入する事を決断しました。

その際に最有力に上がったのがそうりゅう型潜水艦。

豪州は原子力潜水艦を運用できませんので、ディーゼル機関と電池で動く通常動力型潜水艦が必要でした。世界各国で通常動力型潜水艦は作られていましたが、実はその大半が航続力の短い小型潜水艦。航続力が長く、静粛性の高い高性能潜水艦を探した所、日本のそうりゅう型しか見つからなかったのです。

豪州としては、日本から設計図を貰って自国の造船業でライセンス生産(一隻作るたびに日本にライセンス料を渡す方式)したかったのですが、日本のそうりゅう型潜水艦は世界屈指の日本造船業が誇る最先端技術が詰まっており、外国へ安易に渡すことの出来ない技術が多く、「日本で作って輸出するならできる」を前提としたのです。

それで、反発したのが豪州の造船業。あちこちでそうりゅう型潜水艦バッシングが始まり、そうりゅう型潜水艦の性能は豪州の要求ラインに達していないとクレームをつけてきました。

さらに、それに追い打ちをかけるように、日本の武器輸出に関する営業力不足が露呈、し独仏の兵器産業の熱烈アピールもあり、それなら日独仏潜水艦の条件を比較して決めるとしました。

日本の営業サイドと開発サイドの温度差

米誌などの報道によれば、日本サイドは武器輸出に積極的ではないと見られているようです。しかし、その表現は正確ではなく、造船業のみならず兵器開発に携わる開発サイドは諸手を上げてこの輸出を成功させようと積極的に動いています

まず、最新兵器を輸出する場合、自国の技術流出を恐れて輸出型は多かれ少なかれ各種部品がダウングレードされたものが使われます。米国が日本に兵器を輸出する際にも同様の措置が取られることがあり、その際日本は国産品の部品を使う事で性能を落とさず運用しています。

しかし、今回のそうりゅう型の輸出では、それら輸出向けのダウングレード措置が殆ど行われないようです。また、輸出の際にはまだ海自でも運用していないリチウムイオン電池を搭載したそうりゅう型の最新モデルを輸出するようで、事実上オーストラリア海軍の潜水艦隊は装備的には日本の海自と同等のレベルに達すると思われます。

いくら豪州が日本の同盟国だと言っても異例の措置であり、開発サイドの積極性が伺えます。

なにより武器輸出が成功すれば、今後日本の技術投資は加速し、開発サイドはさらに高性能な兵器開発が可能になるのです。

ところが、日本の営業サイドは極めて消極的でした。

武器輸出三原則が緩和される前、日本の兵器産業では、企業理念として「他国に兵器を輸出しない」と言う原則があり、ある意味それを売りにして、「戦争に関わらない健全な企業イメージ」を作ってきた経緯があります。また、企業としては兵器以外の部門も無視することが出来ず、従来の原則に反することで別の部門の販売に影響する事を恐れているのです。

また武器輸出自体が初の試みということもあり、所謂業界の「常識」や「販売ノウハウ」を知りません。政府としてもそれは同じで、武器輸出を推し進める専門組織などが存在せず、独仏の武器輸出関係の専門チームが素早く動き出しているのに対して、日本では「誰が行くんだ?」と二の足を踏んでいるような状態です。

開発サイドは「売りたい」のにもかかわらず、営業サイドは「どうすりゃいいの?」とグズグズしているような感じです。

(次ページ、そうりゅう型が選ばれる可能性はあるのか?)