米軍の潜水艦救難と最新の救難システム(SRDRS)-潜水艦救難艦とは?(番外編)

最新の潜水艦救難システムは組み立て式

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(SRDRS_OceansWorks

その新たな手法とは、組み立て式のプラットフォームです。

上の図がその組み立て式プラットフォームの一部で、潜水艇やクレーンの存在が見て取れますね。

潜水艦の救難に必要なのは、沈没した潜水艦に接続し、乗員を救出する潜水艇とそれを運用する設備。さらに、減圧症治療を行うための減圧が可能なカプセルです。

で、あれば。それらを全て運んで、現地で組み立てるようにすれば良いということです。

とは言え、いきなり洋上で組み立てるわけではありません。ある程度の大きさの甲板がある船が必要です。基本的には、大きめのヘリコプター甲板程度の大きさで問題はありません。

その甲板に、潜水艇潜水艇の上げ下ろしをするクレーン、そして潜水艇やクレーンを操作するコントロール室、さらに乗員の減圧症治療が可能なカプセルを積み込み、組み立てます。これは、24時間ほどで組み立てが終わります

運ぶ時間にもよりますが、その場に広めの甲板がある船さえあれば、世界中どこにいても「24時間+空輸時間」で救難作業を始められるのです。

これは非常に画期的なシステムで、「SRDRS(Submarine Rescue Diving Recompression System):潜水艦救難再加圧システム」と呼ばれます。「再加圧」と言うのは、減圧症を防ぐために加圧することを指し、深海に近い圧力環境を作ることで減圧症を防ぎます。

最新型システムの欠点と自衛隊が使わない理由

最新型システムの最大の利点は「どこにでも素早く展開できる」ことですが、欠点もあります。

それは、潜水艦救難艇を空輸し、簡易クレーンで運用するというシステム上小型軽量でなくてはならず、潜れる深度に限界があり一度に運べる乗員の数が少ないという点です。

海上自衛隊の「ちはや」に搭載されている深海救難艇(DSRV)は深度1000m以上潜れますが、SRDRSは600mと大きな差があります。また、「ちはや」の深海救難艇は20数名の乗員を乗せられるのに対し、SRDRSの潜水艇は12名です。飽和潜水でダイバーを深海に投入する能力もありません。

ちなみに、深度1000m以上潜れる「ちはや」の深海救難艇は実に40トンの重さがあり、戦車一台分の重量があります。空輸するとなると、かなり大型の輸送機が必要になりますね。

つまり、「必要最低限の潜水艦救難能力」をパッケージ化して持ち運べるようにしたと言うのが、最新の救難システムSRDRSなので、潜水艦救難艦ほどの救難能力は無いということなのですね。

それでも、素早く展開できるなら自衛隊も使えばいいのに・・・と思うかもしれませんが、自衛隊の潜水艦は日本近海でしか活動しません。そのため、潜水艦救難艦が日本海側と太平洋側に2隻もあれば、多くの場合48時間以内に潜水艦が沈没した海域に到着して救助活動を開始できるのです。

仮に組み立て式の救難システムを導入したとしても、下手をするとパッケージを運んで組み立てている間に「ちはや」あたりが到着して潜水艇を投入してしまうでしょう。

集団的自衛権の関係で、自衛隊の潜水艦が海外で活動するようになればパッケージ型の救難システムも意味があるのかもしれませんが、しばらくは潜水艦救難艦が使われ続けるでしょう。