カンガルーやコアラの生態、有袋類の変わった子育て

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未熟児のまま生まれてくる子供

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そうして未熟なまま生まれてしまった子供はどうなるのでしょうか?

成体が大きな体を持つカンガルーやコアラでさえ、赤ん坊の大きさは僅か1-2cmで体重は1g前後です。少し油断しただけで潰してしまうことでしょう。そのため、カンガルーやコアラは出産時に仰向けになるなどして、子供が袋に入りやすい姿勢を取ります。

親は産道から袋までのルートに唾液をつけるなどをして道を示し、子供は総排泄孔(産道)から出ると僅かな手がかりを頼りに袋を目指して這うように母親の体の上を進んでいきます。この時はかなり危険な状態で、何らかの外的刺激が原因で赤ん坊が死んでしまう事もあります。

無事に袋に入った赤ん坊は、今度は袋の奥にある乳首を探し始めます。乳首を無事に見つけられた赤ん坊は、そこにガッチリと吸い付いて、後はある程度成長するまでそこから離れません

カンガルーやコアラの子供が袋の外から顔を出している光景を時折見かけますが、これはほとんど成長しきった状態になってから見られるもので、袋の中にいる期間の大半が乳首に吸い付いたままの未熟児の状態です。また、この期間には袋の出入り口はしっかりと締まっていて、異物の出入りが出来ないようになっています。

優れているように見える有袋類の子育て

有袋類の子育ては、有胎盤類に比べて母体の負担が少ないのが特徴です。

出産時に大きな子供を体の外に出す必要はありませんし、子宮を大きくしたり胎盤の形成に体力を使う必要もないからです。有胎盤類の場合は出産時に体力を使いきった母体が死んでしまうこともありますが、有袋類では稀です。また、小さな子供を体についた袋の中に入れるので、卵生動物のように卵の状態で外敵に襲われることもありません

妊娠期間も極めて短く、子供は外に出るまでの大半の期間を母体の体外で過ごします。これは大きなメリットで、母体が栄養不足に陥るなどの危機に瀕した際、妊娠期間の長い有胎盤類では母体と子供の双方が危険な状態に陥るケースが多いですが、有袋類では乳を出さないことで栄養を保持し母体を守る事ができます。

ある意味、子供の成長を体外で行うことで母体の生存率が高まっているのです。

一見優れているように見える有袋類の子育てですが、有袋類はオーストラリアを除いた世界中の地域で有胎盤類との生存競争に敗れて大半が絶滅してしまいました。

頭蓋骨が小さいまま出産すると脳が小さくなる

実は、有袋類の育児方法には致命的な欠点がありました。

子供が未熟で小さい状態のまま出産せざるを得ないため、頭蓋骨が十分に成長できず、脳の容量が小さくなるのです。

出産時、有胎盤類の赤ん坊では頭部が非常に大きな割合を占めています。つまり、頭部が大きければ大きいほど出産が難しくなりますが、将来的に大きな脳を持てるようになるということです。これは出産後の成体の能力に大きな影響を生みます。

また、出産後に他の体の部位と比較して頭蓋骨だけがどんどん大きくなっていくことはなく、出産時の頭蓋骨と体の比率に応じた頭蓋骨のサイズとなります。そのため、出産時にできるだけ大きな頭蓋骨を持った子供を産むことが重要なのです

事実、有袋類は同系統の体格を持つ有胎盤類の動物と比較して脳が小さく、多かれ少なかれ身体能力や知能に差が出ています。これが餌の取り合いや縄張り争いに影響し、有袋類が有胎盤類に敗れる結果に繋がったと考えられています。

オーストラリアでは有胎盤類の種類が少なかったこともあり、有袋類が繁栄しましたが、それ以外の地域では有袋類は殆ど繁栄しませんでした。ただし、北米ではオポッサムという有袋類が生存競争に勝ち残って元気に生活しています。

※あくまで頭蓋骨の比率や骨格比的な問題で脳が小さくなるのであって、人間の未熟児だからといって脳が小さくなるということではありません。

有袋類は哺乳類の可能性を見せてくれた

大半の地域で生存競争に敗れて絶滅してしまった有袋類ですが、彼らの子育てからは学ぶものも沢山あります。

実際、有袋類の子育て方法は有胎盤類の子育てよりも優れた部分がたくさんあると考えられており、成体の能力が存分に発揮できないような過酷な環境下であれば有袋類が生き残るのではないかという仮説もあるほどです。

子育ての袋というのは非常に賢い選択なのでしょう。

袋というほどではありませんが、人は未熟児のための保育器を開発しています。この保育器は、子供をしっかり守りつつ栄養などを与えることが出来る機能を持ち、まさに人が作った育児嚢と言えるでしょう。

環境が激変して満足に子供を育てられなくなった時、人々は彼ら有袋類の知恵を駆使して生き残りをかける時がくるかもしれませんね。