寄生虫フィラリア-オンコセルカ症や象皮病を引き起こす人を狙った寄生虫の生態とは?

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フィラリア感染症の治療とイベルメクチン

フィラリア感染症の治療に対する有効な治療法は、かつては「ジエチルカルバマジン」という薬物しかありませんでした。これはフィラリア成虫もミクロフィラリアも殺せる強力な薬ですが、重大な副作用を引き起こす事も多く、安易に使えない薬物です。

また、手術で成虫を摘出するという方法もありましたが、手術そのものが危険で後遺症を起こす事も多く、医療技術の未発達な後進国で行うのは簡単なことではありません。

そんな中で登場したのがノーベル賞を受賞した大村智さんが開発したイベルメクチン(別名メクチザン)です。

これは一錠でミクロフィラリアを死滅させる上、重篤な副作用もあまりありません。成虫には効かないので根治させられるわけではないのですが、定期的に服薬することで症状が出なくなるため非常に有効な治療薬です。

特に、回旋糸状虫のように成虫自身は無害で成虫が産むミクロフィラリアだけが有害なオンコセルカ症に対しては、最も有効な治療法だと考えられており、今ではほとんど全てのオンコセルカ症に対して用いられています。

ただ、オンコセルカ症とは違って成虫も有害であるリンパ系フィラリア症に関しては、成虫にも効果のあるジエチルカルバマジンが使われますが、必ず成虫を殺せるわけではなく、ミクロフィラリアをイベルメクチンで殺しつつ、ジエチルカルバマジンで成虫を殺すような治療法が行われています。

ミクロフィラリアを抑制することの重要性

これらのフィラリア症の最大の特徴は、「人と蚊・ブユを媒介にして広がる」という点です。

人で生まれたミクロフィラリアが蚊やブユに寄生し、ブユの中で成長したフィラリア幼虫が人に寄生することで感染していく病気であるため、ミクロフィラリアを安全に殺せば感染は広がりません

この上で、イベルメクチンは画期的な発明だと言えます。

成虫は殺せなかったとしても、その子供であるミクロフィラリアを殺せるのであれば、イベルメクチンを定期的に摂取することで症状は抑えられ、感染が広がる事もありません。

成虫が無害であればイベルメクチンを飲みながら成虫が寿命で死ぬのを待っても良いですし、成虫が有害だったとしてもイベルメクチンで症状を抑えつつ時間をかけて治療法を検討する事ができます。

特に、アフリカ大陸などの後進国が多い国では、病気の根治より感染を止めることの方が重要であり、イベルメクチンは非常に重宝されています。

後進国にとってフィラリアというのは、病気そのものよりも病気が村全体に広がり、労働力が減って飢えて人々が死んでしまうことのほうが恐ろしい病気でした。しかし、イベルメクチンによって感染が止められるようになったため、症状の発生は最初の数人で抑えられ、多くの人々が救われる事になります。

日本では全く見られなくなったフィラリアですが、日本では早くから感染を抑える試みが続けられたため、犬などを最終宿主とするフィラリアなどは除き、人間だけを最終宿主とするようなフィラリアは日本からは殆どいなくなりました。

人間以外を最終宿主とするような寄生虫の発生は止められませんが、人間を最終宿主として繁殖するようなフィラリア類に関しては、人間側でミクロフィラリアの発生を抑えることで絶滅させることが可能です。

イベルメクチンがフィラリア症の発生国で一般的に使われるようになれば、ミクロフィラリアが蚊やブユに寄生する事ができなくなり、最終的には人間を最終宿主とする種のフィラリアはいずれいなくなることでしょう。