糖質制限食とケトン体が人間と脳に与える影響、炭水化物を摂る本当の理由は?

炭水化物を摂取する本当の理由は?

まず、炭水化物のメカニズムについて説明しましょう。

炭水化物は体内で「糖質」と呼ばれる栄養素になり、この糖質が脳を含め全身のあらゆる細胞のエネルギー源となり、日々の生活の中で消費されていきます。

実は、この炭水化物のエネルギー源として利便性は「糖新生」や「ケトン体」に比べると圧倒的です。

糖新生で脂肪酸からエネルギー供給を受けながらアミノ酸をせっせと分解して糖質を作るのに対し、炭水化物は唾液や膵液の消化酵素を使ってサクサク糖質に変わりますし、砂糖などは消化酵素要らずでそのままエネルギーになります。また、「ケトン体」と違って不要な物質も出ませんし、あらゆる細胞でエネルギー源として素早く消費されるのでエネルギー源としても高品質です。

つまり、炭水化物は非常に良質のエネルギー源なのです。タンパク質や脂質が精製前の原油なら、炭水化物は精製後のハイオクのガソリンみたいなものかもしれません。

しかし、この糖質には大きな欠点があります。体の中に蓄えておける糖質の量が「タンパク質」や「脂質」に比べて極めて少ないのです。

糖質の一部は肝臓に蓄えられるものの、消費も間に合わず許容量を超えると脂肪に変わり、それすらも追いつかなくなると血液に大量の糖質が混ざり込んで高血糖になります。そして、血糖(血液中の糖質)が異常な量になると糖毒性が出て様々な疾患に繋がります。

ちなみに、糖尿病は血糖値を減らす(糖質の消費・貯蔵を促進)するインスリンの分泌に不具合が出る事によって起こるため、糖質を大量に摂り過ぎることだけが糖尿病の原因ではありません。

さて、これを踏まえて炭水化物のメリットを考えてみます。

糖新生やケトン体の活用によるエネルギー供給はそれほど効率の良いものではありません。

炭水化物が良質なエネルギーである以上、脳をフルパワーで働かせたい時や激しい運動をする場合には炭水化物があった方がパフォーマンスが上がるのは当然です。

また、炭水化物は大量に蓄えられないので、脳や体を使う前に定期的に供給されることが望ましいです。

例えば、車を運転するのにわざわざ自宅で原油を精製して車にガソリンを入れて使う人はいないでしょう。面倒でもガソリンスタンドに定期的に通ってガソリンを直接車に入れます。

それと同じで、人も定期的に炭水化物を摂って良質のエネルギーを供給することが推奨されているのです。

しかし、現代の生活では、研究者や棋士でもない限り脳を全力で働かせることはありませんし、スポーツマンや肉体労働者でもない限り激しい運動もしないでしょう。

つまり、普段の生活でさほどエネルギーを使わない現代人がどうしても良質なエネルギーを摂らなければいけない理由はないということです。

余談ですが、体積あたりのエネルギー量という意味では脂肪などの方が実は上です。使い易いかどうかを考えず、体積あたりのエネルギー量だけを考えた場合には脂肪の方が良質なエネルギーといえます。

低糖質食は脳や体に何か影響は無いのか?

しかし、今までずっと炭水化物で良質なエネルギーを得てきた人がそれを減らして代替エネルギーで生活することで何か問題は無いのでしょうか?

別の言い方をすると、植物からもタンパク質や脂質は摂れるとはいえ、雑食の人間が突然肉食的な生活になって大丈夫かということです。

結論から言えば、良かれ悪しかれ何らかの影響が必ず出ます

何の変化もありませんでしたということはまず無いでしょう。体の栄養サイクルが根本的に違うものになりますし、低糖質食は人間にとっては「裏ワザ」的な一種の体質変化の試みです。

狩猟生活を行ってきて殆ど肉食だった人なら何の変化もないはずですが、少なくとも日本人は炭水化物中心の生活を送ってきました。必ず変化は起こります。

まず、炭水化物を中心に生活してきた人と比べて、負荷のかかる体の器官が変化します。

血糖値が上がりにくくなるので、インスリンを分泌する膵臓に負担がかからなくなり糖尿病を予防できます。その一方で、タンパク質を消費した老廃物を排出する腎臓に負担がかかります。また、糖新生は肝臓で行われるため、肝臓にも負担がかかるようになるでしょう。

また、低糖質生活を適切に行えば栄養の使い方が変わり、糖質の代わりに脂肪やタンパク質を消費するので肥満になりにくくなりますし、糖質のとり過ぎによる糖質中毒を防げるようになります。しかし、タンパク質の質(植物性か動物性か)によっては、心臓発作や脳卒中のリスクが高まるようです。

他にも、脳や筋肉へ供給される栄養が減ることによる頭痛・脱力・筋痙攣、及び腸内細菌へ送られる栄養が変化することによる便秘や下痢などが起こる可能性があります。

さらに、糖質の代用品として作られるケトン体も大量に蓄積されてしまうと毒になるため、糖質より絶対に安全なエネルギーということではありません。体の状態を鑑みて調節する必要があります。

こう考えてみると危険な気もしてきますが、これらは体の状態が急激に変化することによる必然的な現象です。医師の元で慎重に低糖質食の指導が行われればこれらのリスクは減るでしょう。

まずは余分な糖質を減らすことから

3つの疑問と答えをまとめるとこのようになりました。

・栄養はどのようにして供給されるのか?
→糖新生による糖質の生成とケトン体の活用によって供給される

・炭水化物を摂取する本当の理由は?
→大量に備蓄できない良質なエネルギーの定期的な供給のため

・脳や体に何か影響はないのか?
→良い影響と悪い影響含めて様々な影響がある

基本的に、肥満も糖尿病もない比較的健康な人であれば、低糖質食は必要ないはずです。また、食後に眠くなったりボーっとするから糖質中毒かもしれないという人でも、いきなり低糖質食に変える必要もないでしょう。

低糖質食というのは、「一般的に適切とされる食事よりも糖質が少ない食事」です。

炭水化物は食事全体の5割から6割程度が適切とされています。まずは、低糖質生活を始める前に現在の摂取量を見なおしてみましょう。

ファストフードはもちろん、パスタや丼物は明らかに炭水化物が過剰ですし、お菓子類はその大半が炭水化物の塊です。飲み物だって、甘みがあれば何らかの形で糖質が入っています。

低糖質食とまでは行かなくとも、実際のところ「余分な糖質を減らす」だけでも糖質は減り、糖質中毒や糖尿病は予防できるでしょう。肥満も本当ならば運動するのが効果的です。

色々試してみて、どうしても駄目なら医師に相談した上で低糖質食を試してみるというのが一番良いのではないでしょうか。