赤ん坊は喋る「練習」をする? 生後1年未満での脳の働きと変化を見る

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グローバル化という観念がすっかり定着し、あえて話題にされることは減りましたが、日本の義務教育でも英語学習の早期化が図られるなど、外国語教育への関心は一層高まっています。

外国語教育の話になるとよく聞かれるのが、ある年齢を過ぎると外国語を習得するのが困難になる、ということ。
これは臨界期仮説と呼ばれています。
言語習得に適した年齢は
3歳までとも5歳までとも言われ、確たる証明はありませんが、外国語の早期教育を重要視する意見の大きな根拠となっているのは確かでしょう。

この臨界期仮説は元々、外国語ではなく母国語の習得過程を研究する上で生まれた概念です。
近年の観測機器の発達に伴い、幼児が言語を習得する過程の研究は過去
10年で飛躍的な進歩が見られました。

最新の観測機器を使った調査により、赤ちゃんは言葉を発しないうちからすでに発音の「練習」をしていること、そしてまた、赤ちゃんの脳には生後1年以内に大きな変化が起きることがわかっています。
赤ちゃんが喋らないうちからどうやって発音の練習をするのか、また生後1年以内に起こる変化とは何か、それを見ていきたいと思います。

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言葉の練習は喋る前から始まっている

赤ちゃんが行う発音の練習は声に出るものではありません。
それは全て脳内だけで行われるのです。

話される言葉を聞いた時、人間の脳は大まかに分けて2つの箇所が活性化されます。

一つは両方の側頭部にある、上側頭回と呼ばれる箇所。
ここにはウェルニッケ野という部分がありますが、ここは他者の話す言葉の理解に関わる部分です。
言葉を聞くと同時に言語理解に関わる部位が活性化するのは、ごく当然のことですね。

もう一つ活性化される箇所は意外にも、言語の発話に関係する箇所。
それはブローカ野という部位で、言語の発声や手話の動作に関係してくるのです。
言うなれば喉や舌など言語を表現する動作に関わる運動神経の中枢であり、ここから送られる信号が実際に喉や舌の筋肉を動かし、言葉が発せられるというわけです。

言葉を聞いた際に言語理解に関わる部分と発話運動に関わる部分が同時に活性化する理由については、”アナリシス・バイ・シンセシス”(Analysis by Synthesis)という仮説が提唱されています。

この仮説は、人間は耳から入った言葉をウェルニッケ野で理解すると同時に、その音を自分で出すための筋肉への指示をシミュレートすることでその言葉をチェックしているとするものです。
こういった脳の活動が存在すること自体は、大人の脳の活動をfMRIで調べたデータですでに立証されていました。近年の脳磁図を使った実験で、生後1年以内の幼児にも同じ活動のパターンが現れることがわかってきたのです。

幼児の場合、この活動は入力された言葉のチェックを行う以上に、聞いた言葉を真似て喉や口の筋肉を動かす信号をシミュレートする意味があると考えられています。
生後間もないうちは実際に言葉が出るわけではありませんが、いつか筋肉が十分動き始める時期に備えて、その動かし方の訓練をしているといえるでしょう。

1歳手前で起こる「脳の変化」

上記の連動した脳の活性化は、母国語と外国語を聞いた時でパターンが異なることがわかっています。
大人の場合、母国語を聞いた時は言語理解に関わる部分がより強く活性化する一方、母国語とイントネーションの異なる外国語を聞いた時は、言語を発することに関わる領域がより強く活性化するのです。

新生児の場合はどうでしょうか。
これまでの実験で、新生児はある時期まで、母国語と外国語を聞いた場合で同じ活性化のパターンを示すことがわかっています。

ワシントン大学で行われた実験では英語を母国語とする新生児を生後7ヶ月と11ヶ月のグループに分け、英語とスペイン語に共通な発音、そしてどちらかの言語に特有の発音を聞かせ、その時の脳磁図を取りました。
それぞれの年齢群の結果を比較したところ、生後11ヶ月の新生児は大人と同様に、母国語と外国語を聞いた時で反応のパターンが異なっていました。
しかし生後7ヶ月の新生児のデータを見ると、どちらの言語を聞いた場合でも、言語理解と発話運動を行う領域は同じ程度の反応を示したのです。

これは何を意味しているのでしょうか。
実はまだ詳しくは分かっておらず今後の研究が待たれるところですが、少なくとも言える点は以下のことでしょう。

一つは、生後7-8ヶ月ほどの新生児は、母国語と外国語を区別せずに聞いていること。
もう一つは、少なくとも母国語と外国語を区別する活動に関しては、新生児は生後1年に満たないうちからすでに「大人の脳」になっているということです。

このように新生児は生まれて間もないうちから言葉を学び始め、1歳前後で脳の大きな変化を経験するのです。
子供はそれから2~3年で急激に言葉を発達させていきますが、1歳以前に行っていたこの「練習」こそ、その発達を支える下地になっているのかもしれません。