タンパク質である酵素を口から入れると何が起こる?-酵素のしくみ(2)

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前回は酵素の基礎的な機能やメカニズムについてご説明しました。しかし、酵素の働きのしくみが分かっても、体の中の酵素の働きなんて実感もないしよくわかりません。酵素の働きが気になるのは、やはり健康サプリメントなどに関わる時ではないでしょうか?

酵素のサプリメントを摂取すると調子が良くなる。けれども、酵素を口から入れても意味がないという話も聞く。そこで、今回は酵素の構造と口から酵素を入れた後に起こる出来事について解説していきたいと思います。

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酵素はアミノ酸で作られているタンパク質の一種

酵素の構造は20種類のアミノ酸がベースになっています。このようなアミノ酸によって作られている物質は総じてタンパク質と呼ばれます。一部例外もありますが、酵素もタンパク質の一種だと考える事が出来るでしょう。

酵素がアミノ酸で作られていると言っても、2,3個のアミノ酸ではありません。アミノ酸によって作られた長い鎖のような物質が複雑に絡みあうようにして作られています。毛糸を丸めた毛玉のような形をイメージしてもらっても構いません。この毛糸玉のようなぐちゃぐちゃした物質が酵素です。酵素に限らず、ほとんど全てのタンパク質が同じような毛玉的な構造になっています。

こうした毛玉が沢山集まって細胞のような物質が作られ、生物を形成していきます。タンパク質から人間が出来るというと驚きますが、究極的には、生き物はみんなアミノ酸が連なった毛玉です。

さて、「タンパク質」と「酵素」というキーワードから連想されるのは、胃酸の中に含まれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一種である「ペプシン」ではないでしょうか?

ペプシンを含め、タンパク質分解酵素はタンパク質を細かく分解してその機能を失わせてしまう力があります。これは肉や豆を分解して栄養にするのに必要な酵素ですが、酵素であるタンパク質も分解されてしまうことを意味しているのです。

胃酸の中にはタンパク質分解酵素が大量に含まれていますので、口から摂取した酵素は胃酸の中に含まれるタンパク質分解酵素によって分解されてしまうということになるでしょう。

全ての酵素が分解されるわけではない

大半のタンパク質は胃酸による強酸性により形状が変化します。毛玉が緩やかに解けてくるのをイメージすると良いでしょう。そうして、毛玉が解けた所で糸状になった部分をタンパク質分解酵素が分解するのです。つまるところ、毛玉をバラバラにしようと思った時に一旦毛玉を崩してから、糸の部分をチョキチョキと鋏で切るような感じでしょう。

この胃酸とタンパク質分解酵素のコンビネーションは最強で、ほとんどのタンパク質はこれにやられてバラバラになります。肉類や酵素はもちろん、細菌やウイルスの類も壊滅的な被害を被るでしょう。

しかし、このコンビネーションでも無事なタンパク質があります。それは、タンパク質分解酵素そのものです。当たり前といえば、当たり前ですが、タンパク質を分解する酵素自身が分解されていては意味がありません。

タンパク質分解酵素は胃酸による強酸で解けにくい構造をしていて、多少解けても簡単には分解されないようになっています。逆にアルカリ性に近づくと解けやすくなるので胃酸が弱まった時に共食いすることがありますが、タンパク質分解酵素が活発に活動できる環境でタンパク質分解酵素が同類を分解してしまうことは殆どありません。

また、酵素の中にはタンパク質分解酵素と似た構造しているものがあり、胃をしれっと通過してしまうものがあります。それも腸で最終的には分解されてしまうのですが、全ての酵素が胃で分解されるわけではないのです。

分解しきれないものがある

また、胃酸とタンパク質分解酵素で胃の中に入ったタンパク質全てを完全に分解できるかというとそうではありません。

悪性細菌を大量に経口摂取してしまうと食中毒になるのが良い例です。タンパク質分解酵素はかなりの勢いでタンパク質を分解しますが、体内に入った全てのタンパク質に確実に作用するわけではありません。胃の内容物が多ければ胃酸が薄まってタンパク質分解酵素の働きが弱くなりますし、そもそもタンパク質の絶対量が多ければどうしようもないのです。

乳酸菌などの善玉菌を含め、腸内細菌は口から入ったものが腸内で繁殖する形で人と共生しているわけです。胃でタンパク質が分解されると言っても、100%分解されるわけではないと覚えておくと良いでしょう。

もちろん、摂取したタンパク質が少量であれば完全に分解されてしまいます。

口から摂取した酵素が作用するケース

口から酵素を摂取したとしても、胃を通過して腸までたどり着ける酵素が存在することはわかりました。しかし、口から摂取した酵素の大半は胃で分解されてしまい、生き残った酵素もその多くが腸内の消化酵素によって分解されてしまいます。医療で使われる酵素も注射によって直接血中に入れられるのが殆どで、経口摂取の酵素は代替医療として通常の医療とは別物として考えられているほどです。

では、口から酵素を摂取するのは意味がないのでしょうか?

一概に無意味とは言い切れません。口から摂取した酵素が体に何らかの作用をするケースがいくつかあります。

分解される前に酵素が働く

最も多いのが消化される前に酵素が働くパターンです。

タンパク質分解酵素を始め、消化には様々な酵素が関わっています。つまり、体内に初めからある酵素に加えて経口摂取した酵素が消化に携わることで、普通よりも消化を良くしたり普通では消化できなかった栄養素を消化したりできるようになる事が考えられます。

実際、人間が自身で扱えない消化酵素は多く、食物繊維などは腸内細菌によって消化されて栄養になっています。経口摂取した酵素が消化吸収を助ける形で働き、健康に寄与するという可能性は十分に考えられるでしょう。

小さい酵素が分解前に吸収される

人間はサイズの大きなタンパク質を吸収することはできません。そのため、口から摂取した酵素を吸収するためには結局分解しなければならないというケースが殆どです。

分解してしまった酵素を体内で再構成されるかどうかは分からず、多くの場合は別の酵素などに作り変えられてしまいます。しかし、構造がシンプルで小さな酵素が分解前に吸収されるというケースはあり得ます。分子量の小さな酵素を経口摂取した結果、その酵素が血中で確認されたという実験結果もあるそうです。

絶対に酵素が直接体内に入らないとは言えません。ただ、かなり稀なケースですし、経口摂取によって十分な量の酵素が体内に入るかどうかも不明です。あくまで可能性の一つとして考えると良いでしょう。

分解された酵素が別の物質として作用する

単純に、酵素が分解されたことで都合の良い物質になったというケースです。酵素が分解された事で何らかのサプリメントとして作用をする物質になった場合、それがアミノ酸レベルにまで分解される前に吸収された可能性があります。

酵素の中には、作用のメカニズムがよく分からないまま「何故か飲むと体に効く」ということが実験的に証明されているものもあります。こういうケースの中には、分解された結果ある意味偶然作用している物質もあるでしょう。

タンパク質が体内に入ったら全てアミノ酸に分解されるという説明がなされることがありますが、アミノ酸サイズまで小さくしなくても腸内で吸収することはできます。理想としてはアミノ酸にまで分解するのが良いのですが、全てではないのです。

酵素の働きはよく分かっていない

要するに、酵素の大半は胃腸で分解されてその機能を失いますが、体に何らかの形で影響をおよぼすことは十分にあり得るという話です。

それが胃腸の中だけで作用するのか、そのまま血中に吸収されるのか、別の物質になって血中に吸収されるのかはわかりません。ただ、酵素の医学実験の中には消化されて機能を失うはずの酵素の摂取によって体の状態が変化することが度々報告されており、これが全て「実験のミス」や「捏造」とするのは難しいでしょう。

だからといって、飲んだ酵素が体で働くことが保証されるわけでもありません。酵素の働きは現代医学でも完全には解明されておらず、発見されていない酵素の数は膨大です。

安易に、「酵素が絶対に体に効く」とか「酵素はいくら飲んでも無駄」と考えるのではなく、酵素と体のしくみをきちんと理解することで、自分で考えられるようになることが大切でしょう。

次回: ビタミン・ミネラルは酵素のために必要な栄養素だった