ビタミン・ミネラルは酵素のために必要な栄養素だった-酵素のしくみ(3)

前回の記事では、酵素が健康のためになるかもしれないし、ならないかもしれない。というお話をしました。これは酵素がタンパク質であり、胃で消化されてしまう可能性があるために起こる仕方のないことです。しかし、酵素の他に体に必要な栄養素として挙げられる「ビタミン」や「ミネラル」が酵素が正常に働くために必要な栄養素だということは意外に知られていません。

炭水化物・タンパク質・脂質がエネルギーになるのは分かります。その一方で、ビタミンやミネラルは体の機能を調節する栄養素であるとしか学びません。今回は酵素の働きに必要になる補因子についてご説明していきたいと思います。

関連:
タンパク質である酵素を口から入れると何が起こる?
酵素とは?化学反応を自在に制御する生物界の職人

酵素の中には単独では働かないものもある

酵素は材料(基質)に対して何らかの働きかけをするものです。タンパク質を分解する酵素なら酵素の働きにタンパク質が材料として必要になりますし、デンプンを分解する酵素ならデンプンが必要です。しかし、それだけでは足りない事があります。

酵素の働きを金属加工の職人に例えた事がありますが、金属加工には工具が必要です。これは酵素に言えます。つまり、酵素が正常に働くためには材料以外の別の何かが必要になることがあるということです。

酵素の反応に必要な材料以外の物質で酵素に繋がって働くものを補因子と呼び、特にこれが有機物なら補酵素(コエンザイム)と呼ばれます。ビタミンとミネラルの多くがこの補因子に含まれ、含まれない物質も何らかの形で酵素の反応を促進する事があります。そのため、ビタミン・ミネラルは酵素の働きのために必要な物質と言っても過言ではありません。ちなみに、ビタミンは有機物なので補因子として働く場合には補酵素に含まれます。

何をもって酵素の働きを助ける補因子と呼ぶ?

酵素はあくまで触媒に過ぎず、酵素が媒介する殆どの化学反応で酵素と材料(基質)以外の物質が関係します。しかし、ただ関係するだけでは補因子とは呼ばれません。ペプシンやアミラーゼの仕事には水分子が必要ですが、水分子を補因子と呼ぶことはありません。

これら補因子の最大の特徴は、酵素に直接取り付いて作用する事にあります。まさに、職人が持つ工具のようなもの。これらの補因子は職人である酵素にずっとくっついている事もあれば離れることもあり、「使い捨ての工具」か「繰り返し使う工具」をイメージすると良いでしょう。補酵素であるビタミンは酵素から離れる使い捨てで、ミネラルは酵素に取り付いたまま繰り返し使う傾向が多いです。

ここでは補酵素であるビタミンを使い捨てなんて言っていますが、実際には再利用できるものもあります。さらに、別の酵素によって修理(合成)して使える様になることもあるので、ビタミンがミネラルよりも沢山必要だということではありません。

これらビタミン・ミネラルは本来「炭水化物・タンパク質・脂質以外に必要な栄養素」の内、「有機物をビタミン」、「無機物をミネラル」と呼んでいたに過ぎません。そのビタミンとミネラルの働きを探っていく内に、それらの殆どが何らかの形で酵素の働きに関わっている事がわかりました。

全てではないにしろ、多数のビタミンが補酵素として働き、ミネラルもその多くが酵素に取り付いて酵素の仕事に関与していたのです。ビタミン・ミネラルには酵素の働きを助ける以外にも様々な役割がありますが、体内酵素のために摂取する栄養素だったとは驚きですね。

補酵素としてのビタミン

補酵素としても働くビタミンには「ビタミンB群の全て」「ビタミンC」「ビタミンK」などがあります。これ以外にも、コエンザイムQ10やリボ酸のようにビタミン様物質と呼ばれるビタミンっぽい栄養素も補酵素として働きます。また、補酵素として働かなくとも、酵素の材料になったり、酵素の反応を促進したりするビタミンも含めれば、ビタミンの殆どが酵素と関わりのある栄養素といえるでしょう。

補酵素は酵素の仕事に必要なツールですが、複数の酵素に対する補酵素として働く事も多く、一つのビタミンが不足することによって複数の酵素の働きが妨げられる事があります。そのため、ビタミンが一つ足りなくなるだけで様々な体調不良が同時に発生してしまうのです。

また、ビタミンは補酵素としてだけ働くのではなく、それ以外の様々な形で体の働きに作用します。ビタミンCなどが良い例で、ビタミンCは補酵素としての役割よりも、抗酸化作用、コラーゲンの生成、免疫力の向上など、酵素の材料としての働きが目立ちます。ビタミンCに限らずビタミンの多くが複数の役割を担っており、一つにつき一つの仕事しかしない酵素に比べると、かなりマルチタレントな物質と言えそうです。

多彩な役割を持つミネラル

ミネラルといえば鉄・銅・亜鉛・カルシウムなどですが、補因子として働くミネラルには「鉄」「銅」「亜鉛」「マグネシウム」「ニッケル」などがあります。カルシウムは補因子にはなりませんが、酵素の働きを促進する物質として知られています。ミネラルもビタミンと同じように、補因子としても働きながら体を形作る一部になるなど様々な働きを持っているのが特徴です。

亜鉛がアルコール分解酵素の補因子として働き、鉄が活性酸素を除去する酵素の補因子になるなどはよく知られています。ただ、補因子は酵素が働くために必要なものであって、酵素になるものではありません。ビタミンにも言えることですが、補因子を大量に摂取しても、体内にある酵素の量しか働きません。むしろ、大量にあると却って酵素の働きを邪魔することもあるため、必要な栄養素だからといって大量に摂取するのは控えた方が良いでしょう。

この他にも、エネルギーを作る酵素の補因子になったり、情報伝達を司る酵素の補因子になるミネラルもあります。ミネラルがどれだけ重要な栄養素かというのはこのことからもよく分かりますね。

酵素と栄養素の関係

ビタミン・ミネラルと酵素の間には切っても切れない関係があることが分かって頂けたかと思います。しかし、これは酵素の機能の一部でしかありません

人体の化学反応のあらゆる部分に酵素が関わっているとご説明しました。それはつまり、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維を含む6大栄養素の全てに酵素が関わっている事を意味します。

ご存知の通り、炭水化物・タンパク質・脂質の消化吸収には消化酵素が関わっていますし、食物繊維は腸内細菌が持つ酵素によって消化されています。ビタミン・ミネラルは体内で補酵素や材料(基質)として体内酵素の機能に深く関わっていますし、炭水化物からのエネルギー生成や消化したアミノ酸からのタンパク質合成にも酵素が関わっています。

もし、酵素を健康食品の一部としてしか考えていないのなら、考えを改めた方が良いかもしれません。酵素というのは、私達が考えている以上に人の生活に深く関わっている物質なのです。