弾道ミサイル防衛を素人向けに解説(前編)-スタンダード・ミサイルとGBI

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北朝鮮がミサイルを発射する度に弾道弾迎撃ミサイルである「パトリオット(PAC-3)」「スタンダード・ミサイル(SM-3)」が話題になります。しかし、軍事に詳しい人でも無い限り、その具体的な違いなんて分かりません。テレビでミサイル防衛の戦略を説明されても極めて簡潔な内容でしなく、「へえ、そうなんだ」で終わってしまって何故そのような戦略になっているのかが分かりません。

また、ミサイル防衛には批判的な意見も多く、本当に今の技術で守れるのかどうかも不安が残ります。そこで、軍事についてよく知らないような方にも簡単に分かるように、弾道ミサイル防衛のしくみについてご説明していきましょう。

弾道ミサイルと普通のミサイルの違い

いきなり初歩的な話になりますが、まず「ミサイル」と一口に言っても色々あります。例えば、「対空ミサイル」「対戦車ミサイル」「対艦ミサイル」「巡航ミサイル」「弾道ミサイル」「迎撃ミサイル」などなど。

「対◯◯ミサイル」と言われたら、まず飛行機や戦車や艦船を破壊するためのミサイルを思い浮かべて下さい。小型なものが多く、目標に向かって真っ直ぐ飛ぶ(例外あり)のが普通です。また、「巡航ミサイル」は比較的大きな折りたたみ式の翼がついていて(例外あり)、飛行機のように空をゆったり飛びながら長距離を飛行して目標を攻撃します。

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(航空機搭載型の対空ミサイル)

一般的に戦場で使われるミサイルの殆どがこれら小型のミサイルですが、ここで扱う「ミサイル防衛」というのは「弾道ミサイル」のことを指しています。

一方、「迎撃ミサイル」はその弾道ミサイルを迎撃するミサイル。もしくは、その他の小型のミサイルやロケット弾を迎撃するためのミサイルです。「対ミサイル用ミサイル」というわけですね。ここでは、「迎撃ミサイル」といえば、「弾道弾迎撃ミサイル」のことを指します。

一昔前まではこんな前置きなんて必要なかったのですが、最近では様々な種類のミサイル・ロケットを迎撃するミサイルが増えていて、小型のミサイルを迎撃することを指して「ミサイル防衛」と呼ぶことも増えてきました。今回はこれらの小型ミサイル・ロケットに対するミサイル防衛は扱いません。

こうした「普通のミサイル」と「弾道ミサイル」の違いは、ハッキリ言ってしまえば「大気圏まで上昇するかしないか」にあります。宇宙に出るか出ないか(厳密には宇宙ではないのですが)と考えても良いですね。

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(巨大な大陸間弾道ミサイル)

写真は米国の大陸間弾道ミサイル「タイタン」です。見るからに宇宙まで飛んでいけそうな見た目をしています。技術的には打ち上げロケットと似たようなものなのですが、この弾道ミサイルには核兵器が搭載されていて、宇宙に上がった後は大気圏に突入して地表に落ちてくるのです。

弾道ミサイルの「弾道」とは放物線軌道のこと。弾道ミサイルは発射直後に一気に上昇して加速し、しばらく勢いに任せて飛んだ後、一気に降下して目標に向かって飛んでいきます。この軌道が放物線を描くので、弾道ミサイルと呼びます。そのため、厳密に言えば弾道ミサイルとその他のミサイルの違いは放物線軌道を描くかどうかにあるとも言えるでしょう。

そしてこの違いが、弾道ミサイル防衛を考える上で非常に重要になってきます。

弾道ミサイルをどこで撃墜するのかが重要

弾道ミサイルの軌道を図にすると、以下のようになります。

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(弾道ミサイルの軌道_核情報)

まさしくこれが放物線軌道です。この図では、左から発射して右に着弾するような軌道を描きます。

普通の大砲の軌道に似ていますが、まっすぐ飛べるはずのミサイルがなぜわざわざこんな変わった軌道を描くかというと、宇宙には空気がない(薄い)というのがポイントです。大気圏外なら空気抵抗が存在せず、燃料も使わずに超高速を維持したまま遠くまで飛べます。これを利用して一気に目的地まで移動し、一気に降下します。降下時の速度はそれこそ隕石のようなもので、迎撃も非常に難しいです。

この軌道の内、ロケットを使って一気に上昇する初期段階を「ブースト」、ロケットを使いきって慣性で飛ぶ中間段階を「ミッドコース」、大気圏に突入して目標に向かう終末段階を「ターミナル」と呼びます。

3つの段階毎に弾道ミサイルの状態は大きく異なり、それに応じて別々の迎撃兵器を活用しなければなりません。

ブースト段階は敵国の領内に近いため、日本のような国が迎撃することはまず無理でしょう。戦略そのものは考えられていますが、実際に配備されているものはなく、ここでは扱いません。となると、考えるべきは中間のミッドコース段階と最後のターミナル段階です。

飛んでいる時間的に言えばミッドコースが一番長いため、ミサイル防衛においては最も重要な段階です。一方、ターミナル段階は着弾直前であり、最後の防衛ラインとなるため無視できません。

大気圏外を飛ぶ「ミッドコース段階」で迎撃する

ブースト(初期)段階とターミナル(終末)段階はほぼ「大気圏内」を飛びますが、ミッドコース(中間)段階では殆どが「大気圏外」を飛翔します。厳密に言えば、これは高度500km未満の微妙に薄っすらと大気のあるエリアも飛ぶのですが、ここでは便宜上「大気圏外」としておきましょう。

このミッドコース段階は、時間的に一番長く余裕のある段階です。しかし、余裕があるとはいえそこは大気圏の外。空気が非常に薄く、地上から遠く離れたエリア。そこで、克服しなければならない課題が二つあります。

一つ目は、空気を使わずに動きをコントロールできること。

二つ目は、大気圏外の超高空まで飛翔すること。

空気が薄いので、普通のミサイルや飛行機のように空気抵抗を利用した動きの制御ができません。また、そもそも十分な高さにまで届かなければ迎撃は不可能です。

ミッドコース段階で弾道ミサイルを迎撃するためには、この問題を克服した迎撃ミサイルが必要になります。

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