弾道ミサイル防衛7つの疑問(前編)-高空・高速のミサイルと落とせるか?

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「ミサイル防衛は税金の無駄」「スタンダード・ミサイルではテポドンを落とせない」なんて言われることがあります。高額な研究資金がつぎ込まれる「弾道ミサイル防衛」には様々な批判がつきまといます。ミサイル防衛について、「どんな批判があるのか」「何故そんな批判をされるのか」「その批判は正しいのか」について、これから詳しく解説していきましょう。

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弾道ミサイル防衛でよくある7つの批判

弾道ミサイル防衛にはどんな批判があるのか、よく出てくるものをリストアップしてみました。

  1. 迎撃ミサイルの命中率が低い
  2. 迎撃ミサイルが弾道ミサイルに届かない
  3. 迎撃ミサイルの速度が弾道ミサイルに比べて遅すぎる
  4. 突然発射されると対応できない
  5. 大量に発射された場合はどうしようもない
  6. 途中で分裂されたら防げない
  7. 弾道ミサイルも進化する

まだまだありそうですが、この全ての批判について真剣に考えていきましょう。

ちなみに「誤解」は存在するのものの、この批判の中に「完全な嘘」は一つもありません。少し的外れなものもありますが、これらの懸念は正しい懸念です。これからも真剣に議論していく必要のあるものが多いでしょう。

迎撃ミサイルの命中率が低い

「スタンダード・ミサイルの迎撃率が実は9%だった」なんて話があります。

これは本当のことです。

ただし、それは対空ミサイルを改良した「スタンダード・ミサイル2(SM-2)」であり、1991年の湾岸戦争時代のデータです。つまり、2016年現在配備されている「スタンダード・ミサイル3(SM-3)」とは根本的に別物のデータということになります。

現在のスタンダード・ミサイル3の迎撃率は最低でも80%以上と見られており、「パトリオット・ミサイル3(PAC-3)」に至っては90%を超える命中率となっています。この命中率はまだまだ向上していくでしょう。

迎撃ミサイルの命中率は実質的に「コンピューターの性能」と「制御装置の精度」に依存しています。

弾道ミサイル防衛では、地上・艦船・衛星のレーダーからの情報を元に瞬時に弾道ミサイルの大まかな軌道を割り出し、ミサイルを発射した後も車輌・艦船の管制システムで調整を繰り返し、最終段階では迎撃ミサイル自体が微調整を行なって弾道ミサイルに突入する流れになります。

つまり、迎撃ミサイルの命中率の鍵になるのは「位置情報の把握と計算」及び「レーダーや制御装置の精度」なのです。

これらを司るコンピューターや機械の性能は時代と共に急速に進歩しています。それに伴い、迎撃ミサイルの命中精度は年々飛躍的に向上しているため、命中率が低いから使い物にならないというのは時間が解決すると言えるでしょう。

迎撃ミサイルが弾道ミサイルに届かない

「大陸間弾道ミサイルは上空1000km以上を飛行するのに対し、スタンダード・ミサイル3は500kmまでしか届かない」

はい。その通りです。

どこまで遠くに届くのかを「射程」と呼ぶ一方で、どこまで高く届くのかを指して「射高」と呼ぶことがあります。大陸間弾道ミサイルの射高は1000kmを超えるものがあり、北朝鮮の「テポドン」なども500km以上の高度まで上昇する事ができるとされています。

これに対して、「スタンダード・ミサイル3-ブロック1A」は射高が500km程度。最高高度に達した大陸間弾道ミサイルには届きません

ただし、最新型の「スタンダード・ミサイル3-ブロック2A」は射高が1000km以上とされており、「テポドン」程度であれば最高高度に達していても迎撃は可能です。

とは言え、最新型の配備は2018年以降。それまではどうするのだという話になりますし、それ以上の高度を飛ぶ弾道ミサイルが迎撃できないのでは困ります。

少し考えれば分かることなのですが、弾道ミサイルをわざわざ最高高度で撃ち落とす必要はありません。

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(弾道ミサイルの軌道_核情報)

上の図の放物線軌道の「遠地点」が最高高度にあたりますが、最高高度に達している時間はごく僅か。弾道ミサイルは必ず落ちてくるので、高度が落ちてきた所を迎撃すれば良いというわけです。

迎撃チャンスはその分少なくなるわけですが、目標に向かって高度を落とし始めてからの方が破壊した破片が大気圏で燃え尽きやすく安全なので、弾道ミサイルの迎撃実験では落ち始めてから迎撃する事も多々あります。早期に発見できた場合には、上昇中に攻撃し下降中にもう一度攻撃と、複数回に渡って迎撃する事もできるでしょう。

さらに、「パトリオット・ミサイル3」のようなターミナル段階の迎撃では部隊が着弾地点付近に展開しており、弾道ミサイルが着弾する直前に迎撃するので高度は無関係です。

ちなみに、弾道ミサイルには「大陸間弾道ミサイル」「中距離弾道ミサイル」「準中距離弾道ミサイル」「短距離弾道ミサイル」などがあり、距離が短くなるにつれて最高高度は低くなります。「大陸間弾道ミサイル」以外であれば、高度の問題は殆ど無いでしょう。

迎撃ミサイルの速度が弾道ミサイルに比べて遅すぎる

実は高度よりも大きな問題とされているのがこちらです。

「迎撃ミサイルの速度が秒速3-5km程度なのに対し、弾道ミサイルは最高で秒速8km以上の場合がある」

これも事実です。

どちらも単位が「秒速数キロ」と、想像もつかないほどの速さです。これが時速数キロであれば大した差ではないようにも思われますが、秒速数キロで動く物体のサイズは僅か数メートル(弾頭部のみ)。

高速道路で走る車をイメージすると分かりやすいのですが、同じハンドル操作でも速度が違うと車の曲がり角は大きく変わります。つまり、弾道ミサイルがほんの少し方向を変えただけで迎撃ミサイルは大幅な軌道の修正を強いられるということです。

一本道の道路なら高速で動く車に人が歩いてぶつかるのも簡単ですが、二次元的に移動できる砂漠の真ん中ではかなり難しくなります。宇宙ではそれが三次元的な動きになる上に超高速。迎撃がどれほど難しいことか分かるでしょう。

そして、この弾道ミサイルの速度はその「最高高度」によって大きく変わります。打ち上げ時に燃料の大半を使いきっているので、突入時のエネルギーの多くが自然落下に任されているからです。

「大陸間弾道ミサイル」のような高い高度まで上がる大きなミサイルほど速度が速く、「短距離弾道ミサイル」のような小さなミサイルほど速度が遅いのはこのためです。

先ほど「最高高度で落とす必要はない」と言いましたが、最高高度付近のミサイルは落ちる前なので速度が遅く、比較的落としやすいため、最高高度付近で撃ち落とせるならそれはそれで構わないのです。

とは言え、秒速8kmという速度で飛んでくる物体が撃墜できないのかと言われるとそういうわけでもなく、秒速7kmぐらいの物体を迎撃した実績もあるため、難しくはありますが不可能ではありません。

命中率は落ちるかもしれませんが、発射数を増やすなどして対処することで迎撃できる可能性は高くなります。また、大気圏突入後は速度が急激に落ちるため、タイミングは非常にシビアですがターミナル段階で迎撃する「パトリオット・ミサイル3」による迎撃も可能です。

まだまだ研究が必要ではありますが、少なくとも前編で上げた「命中率」「高度」「速度」の面では、弾道弾迎撃ミサイルの存在が全くの無意味とは言えないでしょう。

(「弾道ミサイル防衛7つの疑問(後編)-突然の飽和攻撃に対処出来るか?」に続く)