弾道ミサイル防衛7つの疑問(後編)-突然の飽和攻撃に対処出来るか?

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大量に発射された場合はどうしようもない

「一発や二発ならともかく、十発や二十発の飽和攻撃には対処のしようがない」

これも事実です。

イージス艦単艦で多数の目標を追跡できるとしていますが、これは大気圏内の戦闘機やミサイルの話です。相手が大気圏外の弾道ミサイルとなると、レーダーを集中的に照射しなければならず、同時追跡は難しくなります。

また、多数の目標を一度に迎撃できる能力の高い「パトリオット・ミサイル3」の部隊も展開している周辺しか防衛できず、一度に複数の都市を狙われれば漏れてしまうでしょう。

しかし、人工衛星・地上レーダー・支援艦など、弾道ミサイルを追跡する事のできる多数の偵察兵器が連携してミサイルを追跡すれば「スタンダード・ミサイル3」で一度に複数の弾道ミサイルを迎撃することは可能です。要するに、イージス艦を迎撃ミサイル発射台として運用し、追跡と誘導は別の偵察兵器に任せるのです。

日本のイージス艦は現状6隻、将来的には8隻、定期点検を含めても常時4隻前後のイージス艦を展開できます。これでは少し心もとないですが、米国の太平洋艦隊にも10隻以上のイージス艦が存在しており、日米合わせれば十数隻のイージス艦を展開できることになります。偵察部隊だけではなく、イージス艦の数自体も合わせればかなりの数になるでしょう。

これに都市防衛の「パトリオット・ミサイル3」部隊を加えれば、弾道ミサイルを二十発くらい撃たれたとしても、少なくとも大都市だけなら守り切れそうです。

しかし、広島・長崎のように最重要都市以外には「パトリオット・ミサイル3」の部隊が展開できず、イージス艦隊が撃ち漏らした弾道ミサイルがそのまま落ちることになります。

この手の飽和攻撃は量より質を重視する日本の自衛隊が最も苦手とするところ。北朝鮮の飽和攻撃ならたかが知れていますが、圧倒的物量を有する中国に飽和攻撃を仕掛けられれば苦しい戦いになります。

残念ながら、このケースでは何十万人という犠牲を覚悟することになりそうです。

ですが、一発なら誤射?でも二十発では誤射で済みません。米国を加えた全面核戦争の勃発です。

弾道ミサイル防衛は「核兵器から国を守る」ではなく、「一人でも多く生き残る」戦略に変わります。

この戦争で生き残る(人類が滅亡しそうですが)ためには、大都市圏と基地を守るための弾道ミサイル防衛の部隊が必須となるでしょう。その間に国民をシェルターに避難させたり、放射能対策に奔走することになります。

核ミサイルが落ちたとしても出来る限りの人間を救い、未来に向けた戦いをできるようにするのが、弾道ミサイル防衛の役割と言えるでしょう。

途中で分裂されたら防げない

「弾道ミサイルには多弾頭方式が存在し、ターミナル段階で分裂した弾頭を全て迎撃するのは不可能」

これも一種の飽和攻撃です。実際、分裂した弾頭を全て迎撃するのはかなり難しいです。

ショットガンのように一つの大きな弾頭の中に沢山の小さな弾頭が入っている弾道ミサイルがあり、これはMIRVと呼ばれます。これは終末段階の直前で分裂し、一発で複数の目標に着弾させることが出来る非常に凶悪な核兵器です。

分裂してしまったら最後、都市防衛ために展開された「パトリオット・ミサイル3」でも全て撃ち落とすことは難しいでしょう。

分裂されると非常に厄介な核兵器ですが、分裂する前に迎撃することは可能です

上昇中・頂点・下降直後の段階であれば、まだ弾頭は分裂していません。この段階で迎撃することができれば、多弾頭型のミサイルでも無力化することができます。しかし、比較的早い段階で迎撃しなければいけないことから時間の勝負となり、少しでも対処が遅れたら分裂されてしまって迎撃不可能になるでしょう。

実はこの多弾頭型弾道ミサイルの迎撃も研究されていたのですが、開発コスト増加の懸念から凍結されています。

ミッドコース段階で分裂前に攻撃が可能な「スタンダード・ミサイル3」ならともかく、多弾頭型ミサイルは着弾直前に迎撃する「パトリオット・ミサイル3」にとっては天敵と言える存在です。

また、既に下降が始まっている段階で分裂前に撃墜しても、複数の核弾頭の幾つかが生き残っている可能性もあります。これらは精密な誘導がされていないので誰もいない場所に落ちる可能性もありますが、決して無視できるものでもありません。

できれば、下降開始前に落としたいところです。

弾道ミサイルも進化する

「少しでも弾道ミサイルに対策を施されれば、迎撃ミサイルは使い物にならなくなる」

確かにそうでしょう。

既に弾道ミサイルは迎撃ミサイルを欺瞞するダミーを放出するようになっていますし、迎撃ミサイルを回避するために特殊な軌道をとることもできます。

欺瞞用のダミーは観測機器の精度を向上する事で対策ができますが、急に軌道を変えたりフェイントを掛けられたりすると厄介です。必然的に一つの弾道ミサイルに対して、囲むような形で複数の迎撃ミサイルを飛ばさなければいけなくなりますし、対処が難しくなるでしょう。

しかし、それならそれで迎撃ミサイルも改良するだけです。

今はまだ迎撃ミサイルの運用にはかなり高度なシステムが必要がですが、技術が進歩すれば小型のシステムで運用ができるようになるはずです。より多くの迎撃ミサイルを一度に運用できるようになれば、回避機動や多数のミサイルを使った飽和攻撃にも対処できるようになります。

既に迎撃ミサイルの性能は飛躍的に向上しており、「スタンダード・ミサイル3-ブロック2A」は射高1000km以上、射程2000km以上とされています。カタログスペックだけを見れば大陸間弾道ミサイルの迎撃も可能であり、多弾頭型であっても早期撃墜で対処出来る可能性があります。

それでも、全ての弾道ミサイルを迎撃できるレベルではありません。

弾道ミサイルと迎撃ミサイルの進化競争はまだまだ続きそうです。