意外と重要な「通信手法」「排熱特性」「磁気特性」-潜水艦の機密情報(3)

Pocket

その1」と「その2」で潜水艦の機密情報において本当に重要な部分は網羅できたかと思います。しかし、潜水艦に関わる情報の中には他にも興味深いものが沢山あります。水中にいながら潜水艦はどのように連絡をとるのか。潜水艦が水中でどのような熱を出すのか。潜水艦が帯びる磁気はどんな影響を与えるのか。

潜水艦の情報としてはそこまで重要ではないけれども無視できない。そんな少し変わった部分について、潜水艦の機密情報についての解説も交えながら、「通信手法」「排熱特性」「磁気特性」について簡単に解説していきたいと思います。

通信手法-水中にいながら外部と連絡を取る

潜水艦は常に水に潜っていますが、様々な方法で外部とコンタクトを取ることが出来ます。海面付近に上昇してアンテナだけでも出せれば自由に外部と通信できるのはもちろんですが、深く潜ったまま海面付近に向けてワイヤー型のアンテナを水中で伸ばし、水中にも届くような波長の長い電波を受け取る(返信はできない)事ができます。

これは超長波無線と呼ばれる非常に波長の長いものですが、情報量が少ないので細かい情報は送れません。基本的に電波は情報量の多いものほど水中に届かないので、深く潜れば潜るほど受け取る事ができる情報は少なくなります。レーダーのような電波は「情報量が多い電波」ですので、当然水中深くには届きません。

最近では人間の声のように音波を使って通信する手法も開発されています。これは比較的近距離向けの通信方法であり、艦隊行動中の潜水艦にとっては非常に便利ですが、単独行動をしている潜水艦は使えないでしょう。

また、水中まで届く波長の長い電波を飛ばすには数百メートルを超える長いアンテナが必要(えびの送信所のアンテナは日本最大)で、潜水艦は情報を受け取れても返信ができません。ポケベルではありませんが、潜水艦からの情報が欲しい時には地上から「連絡をくれ」と無線で送り、潜水艦に双方向通信用のアンテナを海面に出してもらって電波を送信してもらう必要があります。

受信だけなら場所はバレないのですが、双方向通信などで電波を発信すると大まかな場所がバレます。さらに、双方向通信用のアンテナは海面付近まで浮上しないと使えません。これはかなり危険な通信です。滅多に行いませんし、通常はほんの一瞬で終わらせて潜航します。しかし、万が一「連絡をくれ」という通信がバレていた場合、対潜哨戒機が現れて完全に見つかってしまうでしょう。

そこで、問題は通信の暗号化手法を秘匿することです。潜水艦に限った事ではありませんが、暗号がバレてしまえば潜水艦に与えられている情報が漏れますし、それによって敵の待ち伏せに遭うリスクも増えます。

潜水艦に向けて送信する電波は他の艦船とは違う特殊なものなので、この暗号・符号に関わる情報はトップレベルの機密情報として扱われているでしょう。まず漏洩するはずのないものですが、「漏洩させない」「漏洩したらすぐに分かる」ようなシステム作りが大切です。

排熱特性-クジラと潜水艦を見分けるために

少し特殊な情報について扱っていきましょう。それは「排熱特性」です。これは言ってみれば潜水艦の「熱の分布」や「排熱量」のこと。

潜水艦を探す方法の一つに熱を持つ物質が発する赤外線を探知するという方法があります。これは飛行機・ヘリコプター・潜水艦・水上艦の他に人工衛星でも使える方法で、極めて広い範囲を捜索できるのが利点です。

ただし、互いに接近していたり、潜水艦が海上付近を移動していなければ分かりません。限定的な使用機会と思われるかもしれませんが、潜水艦が海上近くを移動するということは決して稀なケースではないのです。

16090701

これはグーグル・マップの衛星画像ですが、「海の色」を見て下さい。水深の深い「青くて暗い部分」と水深の浅い「白くて明るい部分」があるのが分かるでしょうか? 日本海溝から東は真っ青である一方、大陸側には白っぽい部分が多く見られます。

潜水艦の任務は偵察や敵艦船の無力化です。その任務を行うためには、多かれ少なかれ必ず陸の付近に接近しなければなりません。そして、その近辺には必ず水深の浅い部分があり、この水深の浅い部分では深くまで潜ることはできないのです。

特に、東シナ海はどこも水深100m前後の浅い海。それこそ深度100mぎりぎりまで潜れれば良いのですが、海底は綺麗な平面ではありません。事前の測量が十分にできていない場合には海底に激突して航行不能に陥ります。

必然的に「確実に安全な浅い深度」で航行する必要が出てくるため、この深度であれば赤外線探知によって発見できる可能性も出てきます。また、弾道ミサイルを発射する潜水艦などは発射直前に海面ギリギリに浮上しますし、巡航ミサイルを搭載している潜水艦も同様です。

その際に重要になるのは、探知した赤外線情報から確実に潜水艦を見分ける事ができるかどうかです。

水中には潜水艦以外にも、クジラやイルカなどの熱源が存在し、クジラに至っては小型の潜水艦並のサイズがあるものもあります。イルカと潜水艦を間違うわけがないと言いたいところですが、深い位置の潜水艦と浅い位置のイルカから発せられる赤外線を上空から見た場合、潜水艦の赤外線が減衰してしまっているので同じ大きさに見えることもあります。

その場合には熱源が潜水艦特有のものであることを確認しなければなりません。もちろん、クジラやイルカ以外にも水中には様々な熱源があるため、潜水艦特有の熱分布や排熱の見え方を確かめる必要があります。

もし、上空から見た排熱特性の情報を完璧に抑えられていた場合、水中深くにいたとしても潜水艦だと判別され、探索用のソナーで特定されてしまう可能性もあるでしょう。特に通常動力型と原子力潜水艦では排熱特性が大きく異なり、赤外線探知ですぐに分かります。

「そうりゅう型潜水艦」の場合、スターリング・エンジンを使って潜航している状態では電池航行時よりも排熱が増えます。スターリング・エンジンの排熱特性は同じAIP機関である「燃料電池」や「閉サイクル蒸気タービン」などとは異なっているため、排熱特性の情報が漏れていれば赤外線情報から艦型を特定されるリスクもあります。

とは言え、よほど浅瀬を航行しているか、感度の良い赤外線監視装置を使っていなければ分からない情報です。排熱の多い原子力潜水艦の場合は別ですが、排熱の少ない通常動力型潜水艦ではそこまで心配する必要はありません。しかし、こういう機密情報もあるということは知っていても損はないでしょう。

(次ページ: 磁気特性)