人工知能に仕事を奪われる人ほどスキルを習得したがらない

就業者のスキル習得意欲の低さ

ところが『情報通信白書平成28年度版』を見ると、そのシナリオ実現の妨げになりかねない調査結果が記載されています。

同白書の第1部4節には、必要とされるスキルの変化と求められる教育・人材育成のあり方と第された箇所があります。ここには、「ICTの変化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」という別の研究報告からの抜粋が載せられています。

この調査は日本と米国の就労者それぞれ1000人ずつを対象に、今後自分が習得したい人工知能活用スキル、また自分の子どもに習得させたい人工知能活用スキルにはどのようなものがあるかについてのアンケート調査です。

ここからうかがえるのは、日本の就労者のスキル習得意欲の低さです。

グラフを見ると、「特に習得したい/させたいスキルはない」と答えた割合が実に40%近くに上っているのがわかります。

白書内では言及されていませんが、元となる研究発表では対象者の1000人の内訳とそれぞれのグループの回答率が別々に表記されています。

対象となった1000人は、人工知能に代替される可能性が高い職業(事務員や運転手等)と低い職業(医師や教師、システムエンジニア等)の2グループから500人ずつ選出。両グループの回答比率を見ると、なんと人工知能に代替される可能性が高い職業のグループの方がスキル習得意欲が低いという結果が出ているのです。

AI関連の知識やスキルの習得が進まなければ、技術の普及の妨げになりかねません。ところがAI技術の導入が遅れれば人手不足は解消されず、今後AI導入を進めてくる諸外国と比べた国際競争力も相対的に下がってくることが予想されます。国際競争力が下がれば経済状態は悪化するでしょう。

総務省の想定ではAIの早期普及が国際競争力を押し上げ、それにより雇用も増大すると見込んでいますが、そこが崩れ去ってしまいます。

国内の就労者のスキル開発以前の、学習の重要性についての啓発が急務なのは間違いないでしょう。

もちろん、個人に対する啓発も重要ですが、人工知能の利用環境整備に向けた組織的な動きも重要になってきます。例えばリクルートホールディングスの対応としては、まずは人工知能の専門家を業務に当たらせる、次に専門家の人数を増やし、各部署に配置してのコワークを進める、最後にシステム化を行うことで、社員全員が人工知能を使える環境を構築するという3段階の組織改革を進めています。

同研究発表での有識者調査では、AI実用化と導入を進める政策を取るべきとする意見が過半数を占めるなど、企業や政府の取り組みの重要性もこれから増してくることでしょう。

AIが人間の仕事を奪うかどうかそれ自体については様々な研究が発表され、統一した見解というものは存在していません。
しかしだからこそ楽観論に飛びつかず、個人個人が一定程度AIの知識習得や活用アイデアの案出に努め、政府や企業主導のリソースを最大限に活用していくことが、AIと人間のよりよい未来に向けて重要になってくるのではないでしょうか。