夏と言えば、昆虫採集。なんていう人はめっきり少なくなった様に思えます。
虫に興味が無い人なんて論外でしょうし、興味があっても、都市圏では虫が取れるような林も少なくなってきたかもしれません。それでも、暑いからと一日中家に篭ってばかりでは、心身の健康に悪そうです。養老孟司さんも、「昆虫採集で”正気”に戻ろう」と言っています。
虫の生息域は少なくなっていますが、その分、小さな林にも、虫はちゃんと生息しています。生き物を大切にするための子供の学習やご自身の運動も兼ねて、昆虫採集はどうでしょう?虫の習性をよく理解すれば、大げさな装備なんて入りません。家にあるものや、ちょっとした道具で昆虫採集は出来てしまうんです。
昆虫採集の場所
昆虫採集と聞いて、光の届かない森の奥深くに入っていく人がいますが、これはやり過ぎです。
取る虫にもよりますが、一般的に人気のある昆虫(カブトムシ、クワガタ、チョウ、セミ)などを取るのでしたら、まだ光の届く林や森に入ってすぐのエリアが良いでしょう。人の手が入っている雑木林などであれば、適度に間伐が行われ、比較的どのエリアにも光が届くようになっているかもしれません。
こう言った習性から、昼なら太陽、夜ならば月明かりが入り込むエリアで活動する習性があるのです。夜は月よりも、人間の放つ光源の方が強いので、そっちに釣られてしまうのですね。
ちなみに、昆虫に人気のある木はクヌギの木です。クワガタやカブトといえば、クヌギの木と言われる程の人気ぶりで、こう言った木が沢山生えている場所であれば、確実に大物がいることでしょう。
何故、クヌギの木が人気かというと・・・実は樹液が美味しいとかではなく、樹皮の凸凹と材質がカミキリムシや蛾に狙われやすく、樹皮が破壊されやすいためなのです。このため、クヌギの木からは高確率で樹液が漏れだしており、それが発酵する事で匂いを出し、虫を寄せ付けているんですね。
逆に言えば、樹液が漏れだしていれば虫が寄ってくるので、クヌギの木だけをマークする必要はありません。
昆虫採集の方法と道具
虫取り網や虫カゴ、麦わら帽子や長靴を全部揃える必要はありません。昆虫採集では、別に捕まえて持ち帰る必要はないのです。ただ単に、飼ったり、見たりするだけなら、お金で買えば良いだけですから。
昆虫を普通の生活で滅多に見なくなった分、自然の中で、しかも近くで手にとって見られると言うだけで非常に貴重な体験です。勝手に家の中に入ってくる害虫以外に、虫を見る機会なんてあるでしょうか?
害虫ばかり観察していては、本当に虫を嫌いになってしまいますよね。そもそも虫は、自然の中で生きている生き物です。野原に飛ぶチョウと、カゴの中で飛ぶチョウ、どちらがより美しいでしょうか?そんなチョウに魅せられて、ラオスで暮らすことを決めた人だっているほどです。
少し脱線しましたが、最悪道具は要りません。
これから幾つか採集方法を紹介しますが、お好みの方法に応じて適宜道具を準備すると良いでしょう。
①虫を驚かせる - 必要な道具: 「なし」
いえ、虫の後ろから大声を出すとかそう言うことではありません。所謂、木を蹴って落とす手法です。迷信の様に思われがちですが、これも立派な採集方法です。
というのも、大型の甲虫類は丈夫で強い分、小型の鳥や虫などには狙われませんが、大型の動物には狙われ易いのです。しかし、大型故に素早く逃げられるほどのスピードが無く、飛翔距離も短く、逃げる事も倒すこともで来ません。
そこで、甲虫類は死んだふりをする様になりました。
セミやチョウなど、飛ぶのが得意な虫には効きませんが、カブトムシやクワガタ虫には効果てきめんです。
昔から手軽に使える手法ですが、無理やり落とそうとして木や虫を傷つけたり、害虫などが落ちてくる可能性もあるので、注意が必要な方法です。
②行動範囲を巡回する - 必要な道具: 「なし」「虫網」
これも良くある方法です。要は、虫がいそうなところを歩きまわると言うだけ。
ターゲットによりますが、カブトやクワガタであれば、樹液が漏れだしている場所。トンボやチョウであれば花や水辺が良いでしょう。チョウもトンボも、飛んでいる時は虫網が必要になりますが、花や枝などに止まって休んでいる時には、比較的に容易に捕まえられます。
オニヤンマなどは、同じ場所を行ったり来たりする習性があるので、一度見たら高確率で同じ場所に戻ってくるので、ただ待っているだけでも良いかも知れません。
③虫をエサや光でおびき出す - 必要な道具: 「光源」「果物・お酒」
木に蜂蜜を塗りつけると言う方法をよく聞きますが、エサでおびき出す際に重要なのは匂いと光です。
確かに蜂蜜や砂糖水の味を虫は好みますが、そのままでは存在に気付きません。なので、匂いの弱い蜂蜜やエサではあまり効果がないのです。
光もなんでも良いというわけではありません。大部分の虫には、弱い光が見えません。虫に見えやすいのは、紫外線の様な波長の短い強い光で、最近の白色LEDライトなどではこの紫外線があまり含まれていないものが多いです。
LEDブラックライト
この光を白い布などに当てて拡散させ、夜間に放置すると布に沢山虫が集まります。布に蜂蜜や果汁などを染み込ませて置くと効果は高くなるでしょう。
そして、課題のエサの匂いですが・・・巷で最強と呼ばれているのが、「バナナと焼酎」。
バナナや果物(皮がついたままで可)を柔らかくほぐし、ジップロックなどに焼酎などのアルコール類と共に一晩放置すると良い感じに発酵し始めます。
これをストッキングなどの「柔らかい果物を固定出来て、匂いや果汁が通る何か」で固定し、樹木などにくくりつければトラップの完成です。ストッキングだと網の隙間から匂いや蜜が吸えるので丁度良いのですが、麻布やハンカチに穴を開けて代用するのも良いかもしれませんね。
そこまで手を掛けたくないと言う場合は、プラスチックの使い捨てカップなどにお酒を染み込ませた果物を入れて、地中に嵌め込み、ほとし穴を作ると言うもアリでしょう。ただし、この方法だと、かなり雑多な虫が集まってしまうので、コップを持ち上げて見た時に大変なことになっているかもしれません。
アルコールと果物のコンビが強いのは、アルコールが果物の中の糖分を分解し、発酵して強い匂いを発するからなのですが、そのせいで虫が酔っ払うとかは無いので大丈夫です。ただし、高濃度のアルコールの場合は殺虫効果がアリますので、エサどころではありません。弱すぎても効果は薄いので、安い日本酒や焼酎辺りにしておきましょう。
お子様にお酒を扱わせたくないと言う方もいらっしゃるとは思うので、その場合は市販のエサでも良いでしょう。
④寝ている虫を捕まえる - 必要な道具: 「なし」「ナイフ・ピンセット」
ここまでは、基本的には自由に動き回っている成虫を捕まえる方法でしたが、幼虫などを捕まえて、成虫になるまでを観察するなどという場合には、上記の方法は使えません。
カブトやクワガタであれば、枯れた木や割れた樹皮の隙間などに幼虫が住んでいる事が多いです。基本的には、幼虫のエサは腐り始めた樹皮なので、倒木などが一番の生息場所になります。運が良ければ、穴が開いていたり、隙間から見えたりするので、それを目安にするとよいでしょう。
大きな木の洞があれば、虫が住処にしていることが多いので、運良く見つけられたらライトを当てて中を観察してみてください。問題は怪しい場所を見つけた際の捕まえ方ですが、基本的にはピンセットで引っ張りだすやり方になります。
場所によってはそれが難しい事があるのですが、既に死んでいる細い木であれば、ナイフなどで周囲を削ったり、思い切って割ってしまうのも手です。しかし、大木であれば簡単なことではありません。煙や酢酸エチルで、炙り出すようなやり方もありますが、上級者向けなので初心者にはお勧め出来ません。
ちなみに、セミの幼虫は木の根を食べるために、根っこ付近にいることが多いのですが、外部の環境が成虫になる場所として最適化どうかを確かめるために、地中から出る直前に穴を開けて様子を伺っている事があります。絶好のチャンスなので、木の根付近に穴を見つけたら木の枝を差し込んでみましょう。反射的に掴んだ幼虫がそのまま釣り上げられることがあります。
それをそのまま、木などに移せば、あとはそこで成虫になるまでを観察する事ができるのでお手軽ですね。
生き物の生態を知ること
虫に限ったことではありませんが、虫や動物を観察するには、その生き物の生態を知ることが重要になります。
昆虫採集というのは、ただ虫を捕まえてプチ狩猟気分を味わうだけではなく、自然のあり方を実際に体験してみるということに意味があります。
観光旅行も、ただ行って見て帰ってくるよりも、事前にその場所をよく調べて歴史などを知っておくとより楽しめますよね?昆虫採集もそれと同じで、適当に歩きまわっても虫を捕まえることは出来ますが、虫が何故そこにいるのかを知った上で捕まえられれば、自然を知る上でよりためになるでしょう。
いつくか昆虫採集の方法をご説明しましたが、基本的に、昆虫採集に道具は要りません。
強いて言うなら、必要なのは昆虫に対する知識だけかもしれません。
彼らがどこにいて、何が好きで、何を見ているのか。
虫だけじゃなく、人間だってそうですよね。
お近づきになりたい人がいたら、必要なのはプレゼントや自分を飾る道具ではありません。
大切なことは、相手がどんな人なのか知ることです。
彼らのことをよく知ることからはじめましょう。