猛暑日が増えました。地球温暖化はゆるやかになったというけれど、涼しくなったわけじゃありません。ましてや、市街地ではヒートアイランド現象で余計に熱く感じる今日。アイスクリームや冷却グッズがたくさん売れます。
実はこの冷却グッズ、製品や使っている技術によって「涼しさ」を生み出す「原理」が違います。意外に知られていない、冷却グッズの原理。皆さんご存知でしたでしょうか?
クーラーを含め、冷却にはいろんな方法があります。しかし、ここでは冷却グッズが如何にして、人や物を涼しくするのかについてご説明したいと思います。
「冷やし」の種類
そもそも、一体「冷やす」とはどういう現象なのでしょう?
実は厳密には冷却、もしくは冷やすと言う現象は存在しません。少し説明の仕方が悪いですが、要は何かを「冷やす」と言うのは、「熱を奪っている」のであって、冷やしパワーの様な物を生成しているわけではないと言うことです。
そんなことを知っているよ、と言う方も少し待って下さい。熱と言うのは熱エネルギーですが、火を起こしたり、電気を使ったりして、エネルギーを発生させる方法は沢山あるのですが、実は「熱を使わせる」現象というのはそこまで多くありません。
しかも、常温程度の熱では意味が無い様な「熱を与える」化学反応を除けば、自然界における熱を奪う「吸熱」と言うのはほぼ一種類に限定されます。
それが、皆さん小学校で習う分子の状態変化「融解・蒸発」です。
正しい意味での「冷却グッズ」「冷却装置」は、この分子の状態変化によって「熱を奪う」現象を引き起こしています。
正しい意味で、と言いましたが。後ほどご説明しますが、「冷感」と「冷却」はまた別ものなのです。
冷却グッズの分類
「冷やし」・「冷却」を引き起こす、原理はほぼ一種類ですが、冷却グッズには色々な種類があります。一体どのような種類があるのでしょうか?
大まかに分けると、4つあります。
1. 水分の蒸発を利用「気化熱」で冷却
(例):濡れタオル、発汗、冷却スカーフ
2. 高分子吸収剤を使った氷の融解反応
(例)保冷剤
3. 硝酸アンモニウムや尿素の水との「融解反応」で冷却
(例):叩けば冷える 瞬間冷却剤
4. メントールを使った冷点刺激(冷感利用)
(例)制汗剤
ちなみに、4番のメントールは「冷たく感じる」と言うだけで、冷やしてはいません。
では、一つ一つどんな原理なのか説明して行きましょう。
①水に濡らすだけ、いつでもどこでも気化熱冷却
分子というのは絶えず動き回っているもので、特に液体と気体は自由奔放です。好き勝手に気体になったり液体になったりしています。水の蒸発は100度で起こるなんて言われますが、単に自然界(1気圧)では、それだけのエネルギーがあれば水の大部分が気体になれると言うだけで、100度以上でもこっそり液体になって、すぐに気体に戻ったりしています。
常温では、液体の水が多ければ多めに気体になります(気化)し、気体の水分が多ければ多めに液体になります(凝結)。
なので、故意に布や皮膚などを濡らして、液体の水分が多い状態を作れば、気体になろうとする水分が増えるのです。水が気体になるために必要なエネルギーよりも、身体が蓄えている熱エネルギーの方が多いので、さくっと水は気体になって空気中に逃げて行きます。これが、濡らすと冷える原理なのですね。
ちなみに、水を使っているわけではありませんが、エアコンも気化熱を利用して部屋を冷やしています。ただ、こちらは電気エネルギーを使って、無理やり冷媒と呼ばれる物質(エアコンによる)を液体にしたり気体にしたりしているので、かなりの荒業だと思って下さい。
冷却グッズとしては、水に濡らすだけでいつでも使えるというのが便利なポイントです。
②小さな入れ物に沢山の氷、高分子吸収剤と氷の融解
液体⇔気体とくれば当然、固体⇔液体を忘れてはいけません。ただし、こちらの場合は、液体が勝手に固体になることはほぼありませんので、遊びまわっている気体の連中とはわけが違います。
氷は冷たいですね。というのも、凍った水はエネルギーに飢えています。人体の熱や自然界の空気は氷からすれば、エネルギー過剰なのですきあらばエネルギー奪って液体になろうとします。なので、身体が氷に触れた瞬間エネルギーを奪われ、水が液体になってしまい、冷たく感じます。これが融解現象です。
なので、高分子吸収剤が水を無理やりスペースを上手く使えるように水分子を捕獲することで、凍らせた際に、より少ないスペースで、より多くの水分子をエネルギー飢えの状態に出来ます。
分かりやすく言えば、写真の様な保冷剤の中には、見た目以上の水が入っていて、凍らせて溶かすには、見た目以上のエネルギーが必要になってくる。ということです。どれくらいの水が溶けているか知りたい場合は、正確な数値とはいえませんが、中の液体を抜いて、普通の水を入れた時の重量を比較すれば良いですね。保冷剤は普通の水を入れた時より、遥かに重くなっているはずです。要らなくなった保冷剤で試してみましょう。
ちなみに、氷に障って手がくっつくことがありますが、氷に触って氷が水になり、水が指の隙間の隅々まで行き渡ったタイミングで、再び凍ってしまうと、指と氷の間に新しい氷ができちゃうと言うことなんですね。そう言う時は、もっとエネルギーを与えて、ドロドロに溶かしてしまう他ありません。要は溶かせるほどの熱が無かったってことなんです。
冷却グッズとしては、冷凍庫に入れて凍らせると言うステップが必要なのが難点ですが、冷却効果は高く、長く持続する上に何度も使えるのが最大のメリットです。
③水と混ぜろ、硝安と尿素の最強の瞬間冷却
最近増えてきたのは、ホッカイロの真逆とも言える瞬間冷却グッズ。これには、大抵硝酸アンモニウムや尿素が入っています。これらは、水に溶かすと溶けます。いや、溶けるんですけど、溶ける前は固体なんです。ピンと来た方は素晴らしいです。そうなんです。固体が液体になるのは融解現象であり、熱エネルギーが必要なのです。厳密に言うと、状態変化の融解とは少し趣きが違うのですが、同じ融解と呼びます。
え、塩とかも液体になってるけど・・・と思ったら、賢い。塩を水とかしても、ちょっと温度が下がっています。ちなみに、氷にまぶして温度が下がるのもこの現象です。味噌をお湯に溶かしても温度は下がっていないので大丈夫です。と言うのは、味噌は小さな固体の状態で水の中にあるので、別に液体になっているわけではないのです。
別に叩かなくてもこっそり針で穴を開けても反応は始まりますが、外袋に穴を開けると穴から色々出てきてしまうのでやめましょう。
実は、この瞬間冷却剤もどきは自宅で作れちゃいます。硝酸アンモニウムは、上手く使えば爆発物に変身するので簡単には手に入りませんが、尿素は簡単に手に入ります。そう、トイレで紙コップにあなたの・・・ではなく、肥料としてです。最近では化粧品グッズとしても人気ですが、肥料としても需要のある尿素はキロ単位で買えます。安いです。
ちなみに、白い粉をジップロックに入れておくと怪しいので、それについても気をつけなくては行けません。きちんと、表に「尿素」とでも書いておきましょう。それはそれで少し恥ずかしいですけどね。
冷却グッズとしては、高い冷却効果でどこでも使えて、冷凍庫で凍らせたりする必要が無いというのがメリットですが、残念ながら使い捨てです。
④冷点を刺激して感覚を騙す、メントールの冷点刺激
お次は番外編。メントールで、ひんやり気分を味わうグッズです。
シャンプーや制汗剤、様々なグッズに入っていますが、冷えた気分になるだけなので気を付けましょう。特に、熱中症の予防とかには全く効果がありません。と言うか、発汗作用が抑えられて逆効果でもあるので本当に暑い日には使わない方が良いですね。
冷却グッズとしては、手軽に素早くスッキリする。何よりも、気分的なリフレッシュ効果が大きいので、大して暑くないけど、気分的に暑いと言う時に使うと良いでしょうね。
効果を理解し、正しく使う
このように、冷却グッズには様々な種類があり、様々な使い方あります。効果や原理も様々で、状況によってその効果の度合いも異なります。
例えば、蒸し暑く湿度の高い日は、既に空気中に沢山水分があるので、水は蒸発しにくいです。こういう時は、気化熱を利用した冷却グッズは効果が薄く、瞬間冷却や保冷剤を使うのが良いでしょう。
冷凍庫から出したらすぐに冷却が始まってしまう保冷剤では、かばんに入れておいて暑くなったら使うと言う使い方は出来ません。その頃には、溶けきって効果が無くなっています。そう言う時は、水があれば使える気化熱系や瞬間冷却系が良いかもしれません。