注射器といえば、看護師が患者の腕をペシペシ叩きながら血管を探してプスリとやるものだと思っていませんか?
確かに静脈注射が必要な場合はそうです。ですが採血でも無い限り、予防接種などのケースでは静脈注射は必要ありません。そう言う場合は、痛みの少ない肩などにプスリとやることが殆どです。しかし、実は最近では様々な注射器が開発されてきて、より安全に簡単に注射ができるようになっています。
ひとつはペン型注射針「ナノパス」。人間の痛点より針の直径が小さく、上手く刺されば全く痛みを感じません。
そしてもう一つが無針注射器「Stratis」。ジェットインジェクターのことですが、かつては鉄砲注射と呼ばれ、神経を傷つけるとされて無くなってしまいました。ところが、この度新しくてより安全なタイプが開発され、普及し始めています。
汎用型注射器―万能だが、万能故に・・・
一般的に注射器と言われれば、これを思い出すかと思います。
現在医療現場で使われている注射器の殆どがこれですが、これ一本で採血から薬剤注入まで自由自在です。ものにもよりますが、汎用タイプのものであればどこにでも刺せるように針が長く、さらに内容物の粘性に関わらず扱えるように太めの針になっています。
看護師や医師のスキルにもよりますが、刺されればかなり痛い上に見た目も非常に痛々しい代物です。子供が見たら泣き出す上に、大人でもこのビジュアルから針を怖がる人もいるようです。
洗って使えるのが便利なところでもありますが、針が付いているので誤って医療関係者に針が刺さる事も多く、廃棄したとしても廃棄の途中で清掃関係者に刺さる危険性も高い。針が使われたのが健常者なら良いが、病人に使われる事も多く、重篤な感染症が広がる原因にもなりやすい。
アフリカのエボラ出血熱の被害でも、この注射針が誤って医療関係者に刺さってしまった事で感染してしまったと言うケースも報告されています。汎用性が高く、非常に使い勝手の良い注射器だが未だに課題が多いのです。
ペン型注射器―痛みも少なく使い方も簡単
そこで開発されたのがペン型注射器。上の図は実際に使用している様子ですが、なんと拳で握ってそのまま足に指しています。
基本的には使い捨て。モノによっては通常時には針が見えず、上図の様に押し付けると針が出てきて体に注射されるようになっています。使い終わったら針が隠れるため廃棄も容易。一方で、針が短くピンポイントに血管を狙って差すようには作られていません。勿論、採血などにも使えません。
よく使われるのは、頻繁に注射する必要があり、その度に病院に行っていられない要な場合。「インスリン注射」や「ホルモン注射」などがそれに当たります。自己注射でも安全に注射する事ができます。または、緊急時にすぐに使える様に「アドレナリン注射」や「解毒剤注射」にも使われます。
「エピペン」などはその代表的な製品で、スズメバチなどのアナフィラキシーショックの反応を抑制するために医師から処方される事があります。アナフィラキシーショックの場合には、一分一秒を争うため、病院に行っていては手遅れになります。そのため、予め処方しておいて、緊急時にすぐさま使用できるようにする必要があるのです。
日本の医療メーカーであるテルモが超極細のペン型注射針「ナノパス」を開発しました。これは、痛点を避けるようにして注射することが可能という恐るべき代物でした。
どういうことかというと、痛みを感じるセンサー部分を避けて注射することで、痛みを全く感じずに注射ができるということなのです。運悪く痛点の真上から針を指してしまった場合には痛みがありますが、普通の針に比べたら雲泥の差があるようですね。
無針注射器―流体の圧力を使うジェットインジェクター
針がなければ痛くない!ということで、上が新しく開発されたジェットインジェクター「Stratis」シリーズ。
アメリカで最近使われるようになり、インフルエンザの予防接種などに使われている。使い方は、先端を体に押し当てスイッチを押すだけ。
残念ながら体に穴を開けなければ薬剤を注射出来ないので、こちらも結構な痛みがあるようです。
注射の原理としては、スプリングで圧縮された薬剤が高速高圧で皮膚の非常に狭い範囲で噴出され、その威力によって皮膚に穴を開けて薬剤を体の中に流し込みます。
かつて普通の注射より痛い上に、神経を傷つけるとして使用禁止になった「鉄砲注射」の進化型です。
上の鉄砲注射の見た目からすると、普通の注射より恐ろしい上に、かなり危ないモノを注射されそうなイメージがあります。針を使わないので、いちいち注射針を入れ替える必要が無かったり、注射が楽ちんになるというメリットがありましたが、患者にはデメリットしかありませんでした。
新しい「Stratis」の見た目は、Wiiのゲームでも遊べてしまいそうです。こちらは、鉄砲注射時代の問題点は克服され、痛みも普通の注射と変わりません。
残念ながら、患者側のメリットとしては針が体にぶすりと刺さる場面を見なくて済むぐらいしか無いのですが、看護師からするとかなり予防注射が楽になります。廃棄の際にも針の心配をする必要がなく、安全かつ簡単に注射を進める事が出来るようになります。
全てのニーズに答えられる方法はまだない
以上、3種類の注射器についてご説明しましたが、残念ながら患者・医療機関側の相法のニーズに答えられるような注射器はまだありません。
例えば、汎用タイプは使い勝手が良いというのは素晴らしいのですが、針の扱いや患者が感じる痛みなどの問題が多く、どうしても不満が残ります。
一方、ペン型は患者側に大きなメリットがあるものの、用途が限られてしまうのはかなり使い勝手が悪いです。ジェットインジェクターなども、かなり限られた用途でしか使えそうにありません。
経口薬は胃を通る上に、吸収が遅く、使える薬品がかなり限られます。効果的に且つ、汎用的に薬剤を体に投与する方法としては、注射に未だに一日の長があります。しかし、体に穴を開けて薬剤を流しこむという手法である以上、患者側には当然抵抗がありますし、針の扱いには十分気をつけなくてはなりません。
昔に比べると注射器の技術も随分と進歩したものの、子供たちが注射を嫌がる光景は、もうしばらく続きそうです。