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はやぶさ2の進化!小惑星1999JU3へ向かうためのイオンエンジンとは?少ない推進剤で少しの加速を得る宇宙のエンジン

小惑星イトカワから世界で初めてサンプルリターン(サンプル採取後、地球に持ち帰る)ミッションに成功したはやぶさの後継機である「はやぶさ2」が2014年11月30日(12月1日以降の打ち上げに延期)にH2Aロケットによって打ち上げられる。小惑星の名前は1999JU3。到着は2018年を予定している。

ミッションそのものははやぶさとほぼ同じで、形状なども初代はやぶさに酷似しているが、様々な点に改良が加えられている。大きな変更点としては、アンテナ強化・エンジン強化・観測機器の増強・観測方法の追加などである。

初代はやぶさは数々のドラマを生みながら満身創痍の中で何とかイトカワのサンプルを持ち帰った。特に、メインエンジンであるイオンエンジンは4基すべてが破損してしまった事が知られている。今回ははやぶさ2のイオンエンジンについて迫っていきたい。

イオンエンジンの改良

初代はやぶさが搭載していた4機の「μ10」イオンエンジンは全て故障してしまった事が知られているが今度はどうなっているのだろうか?

初代はやぶさの建造から11年が経ち、問題の一つであった耐久性は素材改良や設計の見直しなどによって大幅に改善している。簡単に壊れるようなことはないだろう。そして、推進力が25%近く向上したことで行動範囲が広がり、余裕を持ってミッションに望める様になっている。

しかし、そもそもイオンエンジンとはどういうものなのだろうか?

左がはやぶさのイオンエンジン、右が打ち上げなどに使う化学ロケットエンジン)
(出典:ISAS_日本の宇宙開発の歴史)

左がはやぶさのエンジンだ。宇宙で使うエンジンと言えば、右の一般的なロケットエンジンを思い浮かべるかも知れない。これは、所謂化学燃料を使った化学ロケットであり、加速力はありとあらゆるエンジンの中でも最大。しかし、圧倒言う間に燃料を使いきってしまう事が大きな課題となっていた。

イオンエンジンの原理

宇宙に持っていける燃料には限りがあり、優先されるべきは加速力ではなく、その効率だ。

化学ロケットは化学反応によって燃料を急激に膨張させ、それを後ろに押し出すことで加速する。しかし、燃料は反応時に乱雑に動き回りながら運動エネルギーを消失しながら後方に噴射されるため、非常に無駄が多かった。

そこで、生み出されたのがイオンエンジンだ。イオンエンジンは推進剤(主にキセノン)を陽イオン化して、電磁気力によって加速させる。つまり、プラスのエネルギーを持つ推進剤を、マイナスの電気エネルギーで後ろに吐き出すことで加速するという事。吐き出された陽イオンは吐き出された直後に陰イオンと結合して中性化され、噴射後に引っ張られるということはない。

この方法の優れている点は推進剤を吐き出すための電気的エネルギーが太陽によって無尽蔵に得られ、推進剤は一律に後方に噴射されるために無駄が少ないという点だ。

イオンエンジンの速度と効率

ただし、推力は極めて低く、μ10の場合は一基あたり0.01Nしか無い。はやぶさ2の重量が600kgなので、加速度は0.0000167 m/s2となる。非常にわかりにくいので、単位を時間に変換すると・・・0.06m/h2 となり、実に一時間で時速6cm分しか加速しない計算となる。

一時間で時速6cmにしかなら無いとは恐ろしいが、宇宙には空気抵抗などが存在しないので、軌道さえ間違えなければ減速する事はない。加えて、スイングバイと言う地球などの天体の公転速度と重力を利用した加速方も存在し、エンジンだけで加速する必要はないので、無理に高い推力のエンジンを積む必要はない。

4基のエンジンが付いているが、同時に使えるのは3基まで。というのも、電源が3基しか積んでいないためだ。電源を積めばそれだけ重くなるというのもあるが、これは同時に3基も使えれば十分な加速力が得られるということを意味している。

そもそも、イオンエンジンの最大の利点は推進剤の持ちだ。一時間に数グラムしか推進剤が減らず、それが65kgも入っている。つまり、数グラムで時速6cmの速度を得られると考えれば非常に推進効率が良いと言える。イオンエンジンを使った加速は数日から数ヶ月単位で行われるため、そう言った単位で考えれば十分な加速度を得られる。ちなみに、3基同時にずっと使ったとしても数年は使い続けられるだけの燃料があるということになる。

宇宙の旅はのんびりと

イオンエンジンというのは長くゆっくりのんびり使って加速するエンジンという事だ。燃料が無くなるよりも早くエンジンが劣化してしまうのが問題とされるほどで、電源の方が数が少ないのは1基は予備のエンジンだからというのもある。

エンジンの加速力は極めて小さいが、必要な速度の大部分は打ち上げ時に得られていて、さらにスイングバイなどで燃料を使わずに追加で加速する方法もある。そして、目的地に着くのは打ち上げから3年半が経ったころ。彗星探査機のロゼッタなどは、スイングバイのために地球に近づいた時に、打ち上げから何年も経っていたせいで隕石に間違われて大騒ぎになったほど、宇宙の旅はゆったりとしたものなのだ。

のんびりとしている分、少しの速度のズレが命取りとなる。太陽系を移動する場合、常に太陽の重力の影響をうけ、常に太陽を中心にして一定の軌道を描く事になる。この軌道が目的地に辿り着く道のようなもので、基本的にはスピードの加減速で調整する。時速数メートルのずれでも、数ヶ月放置すれば、目的地から何十キロも遠ざかっているということもザラにあるのだ。

小惑星を詳しく調査するためには小惑星を周回する軌道に乗る必要があるが、小惑星の重力が極めて小さいため、離れすぎるとすぐに軌道から外れて遠ざかってしまう。近づきすぎれば墜落だ。もし、ランデブーに失敗して通り過ぎたら、イオンエンジンの推力ではすぐにUターンすることなど出来ず、太陽などの天体を使ってもう一周する覚悟がいるが、多くの場合2回目の挑戦はありえない

 とは言え、完璧に計算された加速と軌道で、今回もはやぶさ2は上手く小惑星の軌道に乗ってくれるはずだ。2014年11月の打ち上げで、ランデブーは2018年。東京オリンピックほど遠い話ではないものの、はやぶさ2のイオンエンジンの活躍を楽しみにしたい。

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