口で噛み砕かれた食べ物は、唾液に混ぜられ食道に流し込まれます。ところで、食道と言うのはただ食べ物が通るだけの管と言うだけなのでしょうか?水道管の様に中空の管が口から胃まで伸びているだけでしょうか?
それは違います。食道には筋肉があり、食べ物を能動的に胃に送ることが出来ます。にも関わらず、食べ物は喉や食道の途中で詰まることがあります。さらに、食道を通るのは食べ物だけですが、口と食道と繋ぐ「のど」の部分では吸った空気が通れる様になっています。
ちなみに、「のど」には、「喉」と「咽」で二つの字が当てられていますが、それぞれ意味が少し違います。知っているようで知らない「のど」や食道、一体どうなっているのでしょう。
消化器官のしくみシリーズ
・「歯」-食べ物を噛み砕き、消化を助ける最初の器官
・「唾液(腺)」-炭水化物の消化や口内殺菌を行う
「のど」には二種類ある
「のど」は医学用語では、「咽喉(いんこう)」と呼ばれていますが、「咽」も「喉」も訓読みは「のど」です。実はこの二つ、指し示す場所が異なります。
「咽」は食べ物を飲み込む食道側の「のど」のことで、「喉」は空気が通る気管側の「のど」を示しています。つまり、「咽」は食べ物を飲み込む方で、「喉」は空気が通る喉仏付近や首筋を指す「のど」と言う事になります。
一般に使うのは「喉」の方だと思うのですが、これは喉が体の表側に付いているため、喉を指し示そうとすると必然的に喉を指してしまうからです。「咽」の場合は、鼻の奥から食道付近までの広い範囲を指しますが、どちらも「のど」であることには変わりありません。
ちなみに、風邪を引いた時に腫れ上がるのは「咽」なのですが、ノドが痛いと言いながら首筋を触れる時に触れているのは実は「喉」なのです。まあ、実際には「喉」で、「咽」の意味も含む使い方が一般的ということですね。口に出すと意味不明ですが。
ただし、風邪が原因で声が変わったなどという場合には、「喉」が腫れているということになります。この場合、のど飴などはあまり効果がありません。一応、炎症の部位によって「のど」の炎症に関する名称も違います。「咽頭炎」であれば、食道側なのでのど飴などの効果があり、声質は腫れ程度がよほど酷くない限り変わりません。「喉頭炎」であれば、気管付近の炎症なので声が変わります。
咽頭炎が深刻化して食道が使えなくなっても点滴で完治を待てるので大事に足りませんが、喉頭炎は呼吸不全や肺炎に繋がる恐れもあるため、非常に怖い症状だと言えます。
上図で言う「Larynx」が喉頭部、「喉」であり、「Pharynx」が咽頭部、「咽」にあたります。
さて、ここまで二種類の「のど」について説明してきましたが、ここで主に扱うのは食道に繋がる「咽」です。「喉」の方は、呼吸器扱いなので消化器ではありません。正式には「咽頭」や「喉頭」と呼ぶので、「のど」と言うことはあまりありません。本記事で「のど」と言う場合は、咽頭・喉頭全体をさした咽喉部の事を指すと思って下さい。
空気は肺へ、食物は食道へ
飲食にも空気を取り込むのも、同じ口を使います。
そして、鼻や耳も「のど」に繋がっていて、様々な場所から様々な物が流れこむようになっています。しかし、入ってきたものを同じ場所に送られては困ります。
酸素を肺でなければ取り込めませんし、水や食料は胃を通って腸へ送られなければなりません。そのための食物と空気の仕分け機構が「のど」には備わっているのです。喉頭蓋と呼ばれる喉の蓋は、空気を取り入れる時は開き、食べ物を飲む時は閉じるようになっています。
ちなみに、食べ物を飲み込む際に気管が閉じていれば良く、空気を吸う際に食道が開いていても問題ないので、気管側に蓋がある一方で、食堂側に蓋はついていません。そのせいで、食べ物の匂いがダイレクトに呼気に反映されてしまいます。
時折、飲み物が肺に入り咳き込んだりするので、「最初から別にしてくれ」と言いたいところですが、飲食時に肺を使った吸引や異物の吐き出しに「空気」は非常に有効な道具です。蕎麦やお茶を啜るのも、口に入った素早くゴミを吐き出すのも、気管と食道が「のど」で合流しているからこそ為せる技です。
さらに、「のど」が気管や食道に繋がっているのは免疫と言う部分でも非常に有効な手法で、体の外から入ってくるものには多数の小さな異物や細菌が含まれています。それら異物は、口内の唾液や鼻の粘膜、肺の免疫機構で処理されるようになっています。
そして、これら異物の集合体は「痰」として排出されたり、胃へ流し込んで消毒出来るようになっているのです。痰を口まで持ってきて体外へ排出するしかないのではリスクが大きく、大きな痰が喉で詰まり、酸素の取り入れ能力に影響することもあるでしょう。そう言う場合は、さっさと胃へ流し込んで胃酸で処理してしまうのが手っ取り早くて安全なのです。
痰を吐き出すのは結構ですが、別に飲みん込んだとしても健康上問題はないのでむやみに痰を吐き出すのは止めた方が良いでしょう。痰の不用意な排出は感染症に繋がることもあります。空気取り入れの妨げになり飲み込むと却って危険な場合など、どうしても必要な時や不快な場合のみティッシュ等を使って吐き出すようにしましょう。
逆立ちしたって飲み込める? 食道のしくみ
食道はただの管ではありません。食道を守る粘膜に筋肉が付き、ポンプのような機能を持った優れた管です。
人が食べ物食べると、まず喉の蓋が閉じます。そして、食道側が食べ物を受け入れ易い様に大きく開いて食べ物の道を作ります。食べ物が食道に入ったら、口側の食道が食べ物を締めあげ、胃側の食道が緩んで道を開けます。ケチャップやマヨネーズの容器と同じです。後ろ側を締めあげながら出口に誘導し、固形物を胃へ流し込めるようになっています。
実は、これが食べ物や飲み物を「一度に全て流し込めない」理由でもあります。食べ物はゴクリと小分けにして飲み込みますし、飲み物だって「ゴクゴク」と小さく分けて繰り返し飲み込みます。何故でしょう?
例えば、ケチャップボトルの内容物を一度絞るだけで全部出せるでしょうか?
どうしても中身を一度で出しきりたければ、底の部分を折り曲げながらどんどん潰していくしかありません。しかし、底がなかったらどうでしょう?
そうですね。後ろを絞りながら流し込む機構上、後ろを絞った際に食べ物や飲み物は小分けにされてしまうのです。すると、食べ物の飲み込みは「ゴクリ」と形容されるような小分け状態でしか行えず、水道管の様にずっと流し続けることが出来ないのです。
何故、食べ物が詰まるのか?
餅がのどに詰まったり、食べ物が詰まって死にかける出来事は誰にでも起こる厄介な現象です。これがなければ、安心して子どもやお年寄りにお餅を食べさせることが出来るのですが。
実は、食道やのどには機構上どうしても狭くならざる得ない場所があります。
一つは「のど」で、頭を自由に動かすための首と言う狭い部分に気管や食道がひしめき合っているため、どうしても細くなってしまいます。そして、ここで詰まると気管に酸素が届かなくなるので非常に危険な状態といえます。
二つ目は心臓のやや上あたりで、気管が二つの肺に向かって分岐する部分。ここは肋骨や心臓や肺やら重要部分が多く、気管支が二つに分かれるために大きくなっている場所であり、どうしても食道のために割けるスペースが小さくなっています。
三つ目が心臓や肺の下あたりで、横隔膜がある部分。肺を動かして呼吸をするために横隔膜という筋肉が肺の下部に広がっており、食道はここに開いた小さな穴を通して胃に向かっています。つまり、横隔膜の穴の大きさに制限があるため、食べ物が詰まったような感覚に陥ります。
この中で、二つ目と三つ目はそれほど大きな問題にはなりません。単に「飲み込みにくい」感覚が起こる場所であり、一度に沢山飲み込もうとすると痛みを感じる場所です。これらは食道の中間部にあるため、食道が食べ物を飲み込ませようとする力が十分に働くため、完全に詰まってしまうことは稀です。
しかし、一つ目の「のど」は別です。食道と「のど」の境界部であり、食べ物を飲み込ませる働きが弱く、気管を詰まらせる原因にもなるため、詰まった場合には致命的です。
詰まった場合には、背中を叩いたり、横隔膜を押し上げたりして吐き出すことで詰まりを解消します。背中を叩く動作は、衝撃を与えると同時に食道や気管を締め上げる事にもなるので、詰まりを解消するのに繋がります。横隔膜を押し上げるのも、気管や食道部分の空気を押し上げる動作であり、詰まりの解消に役立つのですね。
食道を通り、胃へ
食道を通った食べ物は、胃へたどり着きます。いよいよ消化器っぽい器官の登場です。
胃はタンパク質や脂質を分解する能力を持つだけでなく、高い殺菌作用を持っています。胃酸がタンパク質を溶解する作用は、食道やのどを破壊するほど強力で、逆流性食道炎などの原因にもなっています。
そんな強力な胃の働きについて、次回の記事でお話します。