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様々な掃海・掃討の手法と掃海艇が触雷しない理由-自衛隊の機雷掃海(後編)

機雷の恐ろしさについては前編で取り扱いました。では、次はその機雷をどうやって無力化するのかというお話です。

潜水艦も機雷も、海の中にあり海上や空からは見えません。海中の物体を探すには音(ソナー)を使うのが一番だという話は、別の記事にてご説明した通りですが、機雷は音を出しません。それでもアクティブソナーなどで見つけることは出来ますが、ただでさえ見つけにくい潜水艦よりさらに小さくて見つけにくいのが機雷です。

そのため、機雷を除去するための手法としては、主に「機雷を見つける」方法と「機雷に見つかる」方法があります。それらは一体、どんな手法なんでしょうか?

前編:自衛隊の機雷掃海-どんな船舶も見逃さない、恐るべき機雷の探知技術

機雷掃海と機雷掃討、見えないと諦めるか意地でも見つけるか

「機雷掃海」と一般には言われますが、機雷を見つけて破壊する「機雷掃討」も含めて「掃海」と言われることがあります。

機雷掃海は機雷が未発見状態のまま纏めて無力化する事を言いますが、機雷掃討は機雷を発見することを前提として無力化する作業の事を言います。

何が違うんだということですが、機雷は本来、発見することが極めて困難な爆発物でした。ソナーの技術が発達していない時代から機雷が存在し、どこにあるのか分からないまま機雷を無力化しなければいけなかったのです。

そこで、あるかないか分からないものを纏めて除去する方法が編み出されました。

いきなりですが、ここで質問です。金属探知機が無い状態で地雷原を通りたい場合はどうしますか?

慎重に進むのも一つ手ですが、手っ取り早い方法があります。ブルドーザーに頑丈なブレードを装着して、地雷原を進むのです。つまり、かたっぱしから掘り返して爆破させながら地雷原を進めば良いのです。爆破させてしまえば、その場所にはもう地雷が無いということなので、ブルドーザーの後ろを歩いて安全に進めます。

実際には戦車にブレードを付けて地雷原を進んだようですが、実は機雷掃海の発想もこれに似たものが使われています。機雷のワイヤーを纏めて切断したり、囮を使ってわざと爆発させたり、とにかくどこにあるか分からないけど無力化出来る作戦です。

アクティブソナーや磁気探知機の性能が上がってからは、小さな機雷でも「見つける」ことが出来るようになりました。さらに、明らかに付近にありそうな場合は、無人機を使って探すことも出来るのです。場所が分かれば、動かない機雷を除去するのは簡単ですね。

機雷をピンポイントで見つけて排除する事を、「機雷掃討」と呼んで区別しています。


(機雷掃討 – 海自:機雷掃海隊群より)

しかし、機雷には様々な種類があり、設置方法もたくさんあります。なによりも広大な海の中に隠されているものを探せというのは、いくら軍隊であっても難しすぎるお話。装置は進歩しても、機雷探知機で機雷を見つけられなかった時の手法はあまり進化していません。

次からはその手法について解説していきましょう。

係維掃海、ワイヤー付きの機雷をまとめて無力化するには?

機雷で最もメジャーなものは、海底からワイヤーを伸ばして設置するタイプ(係維機雷)です。

機雷が船舶を探知する方式は様々ですが、海上の船舶を破壊したければ海上付近に機雷を設置するのがセオリーでしょう。しかし、機雷がふわふわと海面を漂ってもらっても困る。なので、錘を海底に沈め、そこから水に浮かぶ機雷をワイヤーで海上付近まで伸ばす係維機雷が機雷としては最適です。

それはつまり、こう言った機雷の多くがワイヤーを海底から伸ばしているということです。だったら、長いハサミを用意して海中を進ませれば良いのです。ハサミでワイヤー切れば、機雷は浮いてきます。それを破壊すれば良いのですね。

問題は長いハサミをどうするかですが・・・実は、底びき網漁の手法を利用したユニークな手法が存在します。


(係維掃海 – 海自:機雷掃海隊群より)

上図を見ただけで概要が把握できれば良いのですが、簡単に説明するとこういうことです。

所々にカッターが付いたワイヤーを海中に下ろし、そのワイヤーを機雷に付いているワイヤーに引っ掛け、カッターでワイヤーに切断する。

昔から使われているシンプルな手法です。問題はワイヤーを横に広げるやり方ですが、2隻でワイヤーを伸ばすと言う方法もあるにはあるのですが、大抵は水中凧(沈降器、展開器)を下や横方向に付けたものを利用してワイヤーが左右に伸びるようになっています。

この水中凧の仕組みですが、水の流れと凧の傾きを利用して意図した方向に動くようにしている面白い機器です。上図でも棚が斜めについた本棚の様な物が見えますが、これが水中凧として機能します。中空になっている部分を水が通ると、斜めになったパーツが水の抵抗を受けて任意の方向に動こうとします。水中凧と呼ばれるのは、凧が風を受けて空に上がるように、水中凧は水を受けて自在に上下左右に動けるからなのです。

こうしてワイヤーを左右に広く広げ、ワイヤーを機雷に引っ掛けて「機雷を見つける」機雷掃海といえるでしょう。

ちなみに、この手法の欠点はワイヤーがついていない機雷は除去できないということ。海底付近設置してある(短係止機雷)ものや海底に設置してある(沈底機雷)機雷には通用しません。

ワイヤーがついていないということは、それらの機雷は海底付近にあるはずなので、それらは感応機雷と呼ばれる「ぶつからなくても爆発する」機雷です。そのため、別の方法で除去することが出来ます。

感応掃海、見えない機雷を囮を使って除去する手法

感応機雷と言うのは、磁気・音響・水圧・電位の変化を探知して爆発する機雷です。

これらの機雷は極端な話、船が通っていなくても、これらの変化を検知したら爆発します。それを利用して、囮の船を使って爆発させるのです。磁気と音響が主流になっているので、これに対応した囮を使うのが一般的です。

囮の船というのは要らない船と言う意味ではなくて、船に似た磁気・音・水圧・電位を発生させる装置の事。これらの囮を探知した機雷が、本物の船だと勘違いして爆発すれば、それで機雷掃海は成功です。これが、「機雷に見つかる」機雷掃海と言えます。

囮装置は爆発で吹っ飛びますが、安価に作られているので、船が破壊されるのと比べれば遥かに損害は軽微です。


(感応掃海 – 海自:機雷掃海隊群より)

現代の機雷はほぼすべてが感応機雷であるため、ワイヤーがついていてもいなくても、この方式で掃海出来ます。

ただし、機雷が賢く、囮だと気付くような機能がついていればこの限りではありません。ワイヤーがついていれば係維掃海が使えるのですが、米露のような先進国が使うような超高性能機雷などは海底付近に沈められているのでワイヤー切断が使えず、しかも音・磁気・水圧など全ての手法を総合的に使って敵を探すので、偽物には引っかかりません。

さらに、こういう高性能機雷はただ爆発するのではなく、敵を発見したら移動を始め、敵に十分に近づいてから爆発するようになっています。これらの高性能機雷を破壊するには囮装置も大幅に高性能化させざるを得ず、高価な装置を囮にして機雷掃海を行う時代になってきています。

機雷掃海艦艇の構造、機雷に見つからない木造やプラスチック製の船

ワイヤーを使って機雷を切断するにも、囮を使って機雷を切断するにも、その装置を使う艦艇が必要です。

普通に考えれば、掃海艦艇は機雷があると思しき場所で作戦を行うので、これらの掃海艦艇は極めて危険な状況で活動する事になります。囮を使う分にはヘリコプターなどが使えますが、使える装備には限界があるので、能力としては限定的。主力はあくまで掃海艦艇になります。

係維掃海も感応掃海も、カッター付きのワイヤーや囮を(一部の無人機タイプの囮を除いて)「掃海艦艇が引っ張って」使います。つまり、掃海艦艇がカッターや囮の前を進むのです。これでは、普通に掃海艦艇が先に機雷に引っかかるのではないかと心配になります。

しかし、実は掃海艦艇と言うのは、普通の艦艇と比べると遥かに機雷に見つかりにくい構造になっています。

磁気に反応する感応機雷が登場して以来、掃海艦艇はほとんどすべてが「木造艦」になりました。必然的に小型の船舶になりますが、大きければ大きいほど機雷に接触する可能性が高まるので、掃海艦艇は小型であることが基本です。さらに、エンジンなどにも静音の工夫が施され、発生する音も最小限に抑えられる様になっている艦。それが機雷掃海艦艇なのです。

近代的なものだとプラスチック製になっていますが、音が木造船より漏れやすいのが欠点です。木造船は木の継ぎ目で振動が吸収されるため、エンジンの振動が海に伝わりにくくなっています。しかし、プラスチックにはそれがありません。製造コストが安くて寿命は長いですが、静音には特殊な技術が必要となります。

ぶつかって爆発する接触型は上述の構造では回避できませんが、比較的小型の掃海艦艇がぶつかってしまうような接触型機雷は海面のすれすれに設置してあるため、機雷の探知装置で発見・回避が可能です

つまり、機雷掃海艦艇は機雷が沢山ある海域で、自身が触雷(機雷を作動させる)することを避けながら、機雷掃海を行っているのです。小型なので機雷を食らったら一撃で致命的なダメージになるので、かなり危険な作業といえます。

機雷掃海隊群の装備と任務

海自は、世界でも有数(トップクラス)の機雷掃海能力を有しています。

自衛隊の機雷掃海部隊は機雷掃海隊群と呼ばれ、以下の様な艦艇を備えています。


(機雷掃海母艦うらが―JMSDF Gallery

「うらが」は機雷戦専用艦としては世界最大クラスであり、機雷を敷設する能力もあります。巨大な金属製であり、機雷掃海を自身で行うのは危険なので主にヘリコプターを運用して広い範囲で掃海活動を行います。常に他の掃海艦艇と共に行動し、他の掃海艦艇に補給などを行うことで、小型の掃海艇が遠洋で活動できるように支援することが可能です。


(機雷掃海艦やえやま―JMSDF Gallery

「やえやま」は木造の掃海艦で、木造としては最大級の軍艦。大型の掃海装備を搭載し、深深度に設置された機雷などを掃海することが出来ます。海上船舶のための機雷掃海というよりは、機雷を避けにくい潜水艦のための機雷掃海が主な任務。


(機雷掃海艇すがしま―JMSDF Gallery

「すがしま」は機雷掃海の主力を担う掃海艇。ワイヤーや囮を使う掃海能力だけではなく、探知して破壊する掃討能力も強化された汎用型木造艦。あらゆる海域や任務に対応できる高性能艦で、海自が有する掃海艇の中で数も最も多い。

このように、様々な種類の艦艇を用途に応じて使い分け、あらゆる機雷戦に対応できるのは世界を探しても海上自衛隊ぐらいでしょう。なぜここまで海自の掃海能力が高くなっているのかについては別の機会にご説明しますが、艦艇・練度共に米海軍より優れていると言う評価もあり、まさに世界一の掃海部隊と言えるでしょう。

機雷掃海・掃討作業は、はっきり言って練度が低かったり、運が悪ければ触雷して掃海艦艇が沈む可能性も十分にあります。それでも、機雷を除去しなければ船が安全に航行出来ません。

危険であっても、平時であっても、必ず誰かがやらねばならず、それらの任務を背負っているのが海上自衛隊の機雷掃海隊群なのです。

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