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太平洋戦争の米潜魚雷が不具合だらけ?(前編):日本を苦しめた米潜水艦搭載のMk14魚雷のトラブル

第二次世界大戦時の米国の潜水艦といえば、何十何百もの日本の船舶を沈め、軍民問わず何万人もの日本人を死に追いやった脅威の兵器。日本の戦艦も米潜水艦を恐れて基地から出なかったほどで、それがどれほどの脅威だったかは言うまでもない。

これら米潜水艦による日本船舶の被害は、戦争中盤から後半に掛けて大幅に増えている。これは、この頃太平洋の支配権が米国に移り変わって来た上、米軍の大量生産による戦力投入があったことが原因として語られることが多いが、実はもう一つ忘れてはならない理由があった。

戦争初期、実は・・・米軍の潜水艦が使っていた魚雷は不具合だらけでまともに使えたものではなかったのだ。

魚雷の不具合

 潜水艦が本格的に戦場に現れるのは第一次世界大戦が始まってからのことだが、その頃から魚雷は変わらず潜水艦の主兵装だった。

 ミサイルが発展した現在においても、対潜水艦用の武器として魚雷は居場所を失っていない。秘密裏に近づいて致命打を与えるという潜水艦の運用に適したこの武器は、日々を過ごす家も同然の艦に並んで、潜水艦乗り達が信頼を寄せるべきものだといえる。万一魚雷がまともに動かなくなれば、それは乗員の生き死ににまで関わる問題となるのだ。

  太平洋戦争下のアメリカ海軍で起きた事件はその好例だろう。

 当時アメリカ海軍では潜水艦用の魚雷としてMark-14という魚雷が使われていたのだが、これが数々の欠陥を抱えていることが実戦において明らかになり、潜水艦隊の戦闘能力を大きく損ねる結果となった。


(Mk14魚雷)

 悪いことにこの問題は長期化し、最終的な解決は太平洋戦争開戦から21ヶ月後のこととなる。

 さらに悪いことには、長期化の原因の一端が、魚雷の設計・製造を取り仕切っていた海軍兵器局(Bureau of Ordnance)の態度にあったことだ。

  太平洋戦争開戦にともない、アメリカ軍は真珠湾やオーストラリアなどを拠点として太平洋に潜水艦を送り込み、日本に対する通商破壊戦を開始した。

 しかし成果が上がらない。そのうえ、不可解な雷撃失敗の報告が山と積み上がっていく。当時の潜水艦乗りにして、後に潜水艦映画の古典『深く静かに潜航せよ』の原作小説を著したエドワード・L・ビーチはこの当時を振り返って、”誇張なしに、開戦初期のアメリカの潜水艦隊は持てる力の15%しか発揮できていなかった。アジア艦隊では、問題が完全に解決するまでの間、魚雷の誤作動の確立は100%に近かった”とまで語る。

  潜水艦乗りは早期から魚雷こそが問題だと分かっていた。狙った方向に向かわない、命中しても爆発しない、ひどいものは魚雷が円を描いて走り出し、自分の艦に命中しかねなかった(実際に避けられずに二隻沈んでいる ※潜水艦「タング」「タリビー」)というものまで、悲痛な報告が数多く寄せられた。

魚雷深度について

 帰還した潜水艦艦長から寄せられた報告を集積した結果、深度調節の不具合が明らかになった。魚雷が設定した深度よりも深い場所を進み、船の下を素通りして行ってしまうのだ。

 1942年上半期にはすでにこの問題は認識されていたにも関わらず、大元の海軍兵器局は無視を決め込んでいた。魚雷は大金をかけて作った先端技術の結晶で、それが故障するなど考えられない。おおかたクルーの訓練が足りないのだろうという一点張りで、まともに取り合うことはなかった。

 こんな中、当時太平洋南西部で活動する潜水艦部隊の指揮官を務めていたチャールズ・A・ロックウッドは現場からの声を重く受け止めた。そして1942年6月20日、確認のため独自に実験を開始する。

 彼は地元の漁師から投網を買い求めて海中に張り、起爆装置を解除した魚雷を撃ち込んで潜航深度を計測。最終的に魚雷は設定深度より10フィート(およそ3メートル)ほど深くを走っていることが確認された。

兵器局の対応

 ロックウッドはすぐさま実験結果を海軍兵器局に提出。しかしあろうことか兵器局はこれを「魚雷の扱い方が悪かったのだろう」と突っぱねて相手にしなかった。

ロックウッドは憤慨したが、諦めはしなかった。彼は実験をやり直し、全く同じ結果を得る。
 ここでようやく兵器局も重い腰を上げ、魚雷の調査を開始。そしてついに魚雷が設定深度より深い場所を走っていると確認され、兵器局は魚雷の設計ミスとテストが不十分だったことを認めた。

 時に1942年8月1日、開戦からすでに8ヶ月が経過していた。

原因

 原因は魚雷の設計そのものにあった。魚雷の深度調節機構の配置がまず問題で、魚雷が水平かどうかチェックするためのその機構が魚雷の軸に対して完全に平行に配置されるべきところ、スペースの問題で少し斜めに配置されていた。さらに弾頭の爆薬量を最初の設計から増やしていったことで重心がずれてしまい、それも深度の狂いに拍車をかけた。

 兵器局による確認の後もこの設計が改善されることはなかった。代わりに雷撃時は魚雷の設定深度を10フィート程度高くするように潜水艦艦長へ通達が下る。これで一応の解決と相成るはずだった。

中編へ続く

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