深度調節装置の不具合で、深く潜り過ぎて爆発しなくなっていた米潜水艦の魚雷。潜水艦乗り達が魚雷の不具合を証明するために、様々な苦労をした末にようやく不具合が修正された。
しかし、米潜水艦の魚雷不具合問題はまだ終わっていなかった。
Mark6磁気起爆装置
太平洋戦争開戦からアメリカの潜水艦乗り達を苦しめてきたMark-14魚雷の不具合が確認され、その対応策が周知された1942年夏。雌伏の時は終わりを告げ、これから華々しい戦果を上げられるものだと、潜水艦乗りたちはそう思っていた。
しかし、その予想は儚く覆される。深度調節の問題は解消されたはずなのに魚雷の不発や早期爆発は起こり続け、海軍兵器局にはまたもや潜水艦乗りの悲痛な声が溢れた。
深度調節の問題に隠れていた問題は実は1つではなかった。今度の犯人は魚雷の起爆装置。Mark-6と呼ばれる起爆装置の、磁気信管の問題が見落とされていたのだ。
問題の中身と顛末の前に、磁気信管とは何かについて話しておこう。
磁気起爆装置の原理
Mark-6の磁気信管は地磁気の乱れを検知し、船に接近すれば爆発するようにした信管だ。
方位磁石が北を指すことからわかるように地球にはどこにでも磁場が存在するが、船のような巨大な鉄の塊の近くでは磁場が局所的に乱される。磁気信管はこれを利用したもので、発射後に地磁気の乱れを検知すると爆発するよう設計された。これは従来の接触信管とは違い、魚雷が船に激突しなくとも十分接近すれば爆発するという特徴があった。
類似の技術を使った磁気機雷も世界大戦初期にドイツによって開発されて実用化され、鹵獲された機雷の技術が連合国に渡っている。その結果、大戦末期に行われた飢餓作戦で日本は大きな被害を被る事になる。実際に触れなくても爆発する機雷は、海上船舶にとって大きな脅威になっている。
なぜ磁気起爆装置か?
この磁気信管は技術的に難しいもので、構造も当然複雑になる。接触信管の技術が完成されていたのにあえて磁気信管を開発したのには理由があった。
接触信管は船の側面に魚雷を激突させて爆発し、舷側にダメージを与える。一方の磁気信管は激突させなくても爆発するため、船の少し下を通るように発射することで船底にダメージを与えることができた。
こうすれば船の設計上重要な部分である竜骨を痛めつけることが可能で、さらに船底に穴が空けば舷側の穴よりも浸水被害が大きくなるため、攻撃効果が高くなる。加えて第一次大戦以降、戦闘艦用の対魚雷防御として内部に空間を設けた増設バルジが普及していたため、艦側面に装備されたバルジをかわして打撃を与える目的もあった。
起爆装置の不具合原因
磁気信管の原理自体は必ずしも無理のあるものではなかったが、設計の際に地磁気の地域差を計算に入れていなかったことが失敗につながった。Mark-6の磁気信管はテストが行われたロードアイランド州ニューポートの地磁気のもとで動作するよう調整されていたため、太平洋戦争における潜水艦隊の主戦場だった低緯度地域では不具合が生じたのだ。
そして実地を想定した状況下でのテストも十分に行われていなかった。これは戦場という悪条件で満足に動作する保証がなかったことを意味しており、当時の潜水艦乗りたちは少しでも魚雷の故障が減るようにと、まるで赤ん坊でも扱うように念を入れて魚雷の点検整備を行った。
2度目ともなれば兵器局はさすがに反省したとみえて、今度は現場からの報告を無視することなく、ある程度積極的に調査と改善を試みた。しかし最終的に磁気信管の問題は解消されず、ついに1943年7月24日、アメリカ太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツが指揮下の潜水艦と駆逐艦に対して魚雷の接触信管だけを使うよう命令を下す。
太平洋戦争開戦から1年半が経過していたこの時に至るまで潜水艦艦長が独断で磁気信管をオフにすることは認められていなかった。当然秘密に行っていた例もあるわけだが、公になれば軍法会議にかけられる可能性まである行為で、上官に知られた結果実際に厳重注意を受けた艦長もいたという。
ただ、この接触信管の不良のお陰で、数多くの日本の船舶が命拾いしているのもまた事実だ。
こうして磁気信管を諦め、接触信管を使うことで問題は解決されたかに見えたが、実はまだこの話は続には続きがある。
【後編に続く】