化学電池の中でも、一次・二次電池と言うのは最もポピュラーな種類です。
一次電池と言うのは充電できない電池の事で、市販されている乾電池などがこれにあたります。一方、二次電池は充電できる電池で、ニカド電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池なども二次電池です。
分類するのは簡単ですが、これらがどうして充電できたり出来なかったりするのかについてはよく知られていません。実は、一次電池でも充電自体は出来るのですが、充電するために作られた二次電池との間には、大きな違いがあります。
電気を作る電池(化学電池)のしくみ
一般的に使われている電池の殆どが一次・二次電池に分類され、これらは全て「化学電池」と呼ばれる種類の電池です。
この化学電池と言うのは、物質の化学的特性を利用して発電する電池の事を指します。要は、化学反応を利用して電気を取り出している電池の事です。
「電気を取り出す」と言うのは、主に電気を流して電流を作ると言う意味ですが、電流というのは電子の移動の事を指しています。つまり、電池は何らかの方法で電子を移動させる能力を持っているということになるのです。そして、注目するべきは化学反応の多くが電子のやりとりを伴うという点。
電子のやりとりを上手くコントロールして、電子が増える方と減る方を用意してやれば電流は生まれる事になりますね。
そして、電流が流れる化学反応を理解する上で大切なのが、物質の電気的特性です。上はボルタ電池が電気を発生させる際の図です。
一般的な電池は、主に「陽極(プラス)」「陰極(マイナス)」「電解液」で構成されます。陽極はその名の通りプラスの電気を持っていて、陰極はマイナスです。また、電解液と言うのは化学反応を促す物質で、多くの場合液体です。
この三種類の物質が上手く絡み合って電気が流れるのですが、この図の場合は陽極が銅板、陰極が亜鉛板になり、電解液は塩酸ということになります。電流の向きと電子の動きは真逆になるので気を付けましょう。
上図の反応を簡単に説明すると、うすい塩酸の中に亜鉛板と銅板が導線に繋がれて塩酸に浸されると、塩酸の塩素イオン(Cl)が亜鉛板から亜鉛(Zn)を奪ってZnCl2を作るのですが、その際に亜鉛が持っていた電子2つが亜鉛板に置き去りにされます。そして、銅板では塩酸の水素イオン(H)が、銅板の電子を2つ奪って水素(H2)を作ろうとします。
この反応が起こると、亜鉛板に電子が余ってマイナスになり、銅板に電子が足りなくなってプラスになります。すると、マイナス側から電子がプラス側に流れることで、電子の流れ(電流)が生まれるのです。
電池は陽極・陰極・電解液で決まる
先ほどの例から分かるように、陰極側で電子が余るような反応が起こり、陽極側で電子が減るような反応が起こらなければ電池にはなりません。
放っておいてもその反応が起こるなら良いのですが、普通はそんなことは起こりませんので電解液を使って反応が起こるような環境を作ります。また、ボルタ電池の場合は電気が流れないようにスイッチを切っても少しずつ銅や亜鉛が塩酸で溶けていきますので、長時間使うような電池には使えません。
実用的な電池を作るためには、電子が沢山余る陰極素材と、電子が沢山減る陽極素材、スイッチを入れた時だけ反応が起こるような電解液が必要になるということです。陰極でより沢山電池が余れば、陽極により沢山の電池が流れる事になり、電池のパワーが増すのです。
そこで、電池の性質を分けるのが、極に使われる金属の「イオン化傾向」です。
イオン化と言うのは元素に含まれる電子が減って「イオン」になる現象のことですが、イオン化傾向が強いほどこの現象が起こりやすい金属ということが出来ます。
基本的には、陰極側にイオン化傾向の強い金属を使い、陽極側にはイオン化傾向の小さい物を使うのが基本です。
ちなみに、イオン化傾向のリストは以下の通り。
<イオン化しやすい>
リチウム
カリウム
カルシウム
ナトリウム
マグネシウム
アルミニウム
マンガン
亜鉛
鉄
カドミウム
ニッケル
スズ
鉛
銅
水銀
銀
白金
金
<イオン化しにくい>
金や銀などは滅多にイオン化せず、イオン化させるには逆にエネルギーを投入する必要があります。その一方でリチウムやカリウム等は、水に付けておくだけでもイオン化してしまうほどイオン化しやすい金属です。
ただし、これは一次電池の場合で、二次電池の様に充電を想定されている電池の場合は、リチウムイオンバッテリーのように初めから「イオン化」した物質を使って、イオン自体に電子のやりとりをさせることもあります。というのも、充電時には電圧を逆に向きに掛けて、元の状態に戻すのですが、イオン化したものを元の金属に綺麗に戻すのは困難であり、予期せぬ反応が起こる可能性が高いからです。または、金属そのものをイオン化させるのではなく、水酸化イオンなどをつかって金属自体がイオン化しないようにしています。
また、イオン化傾向の差が大きければ大きいほど電池の電圧が高くなるという特徴もあり、リチウムと亜鉛では3倍程度電圧に差がでることになります。
アルカリ電池とニカド電池
「充電出来ない電池」を一次電池、「充電できる電池」を二次電池と呼び分けています。つまり、「充電池」といえば二次電池の事を指すのですね。
一次電池の中にも充電自体は可能なものがありますが、長時間充電したり、何度も繰り返し充電していると高確率で破損して使い物にならなくなります。そのため、二次電池と言うのは、厳密には「繰り返し充電して何度も使える電池」だと考えた方が良いですね。
この二つにはどのような違いがあるのでしょうか?
実は、電極に使われている素材や電解液、その構造に違いがあります。
一次電池であるアルカリ電池は
陽極:二酸化マンガン(MnO2)
陰極:亜鉛(Zn)
電解液:水酸化カリウム水溶液(KOHaq)
二次電池であるニカド電池は
陽極:水酸化ニッケル(NiOOH)
陰極:水酸化カドミウム(Cd(OH)2)
電解液:水酸化カリウム水溶液(KOHaq)
電解液以外は全く違う物質を使っていますね。
アルカリ電池が、マンガンを使っているのでマンガン電池かと一瞬思ってしまいますが、マンガン電池とアルカリ電池の違いは電解液がアルカリ性(水酸化カリウム)か酸性(塩化亜鉛)かの違いしかありません。どちらもの二酸化マンガンを使っている電池であり、アルカリ電池の正式名称はアルカリマンガン電池です。
マンガン電池はさておき、ニカド電池とアルカリ電池の最大の違いは、充電できるか出来ないかにあります。しかし、アルカリ電池も無理やり逆の電圧をかければ実は電力は戻ります。
しかし、アルカリ電池の二酸化マンガン(MnO2)は、使用後にはMnOOHと言う水素が増えた状態になっています。これに電圧を掛けて逆の反応を起こして、MnO2に戻そうとすると、余ったHが集まってH2になってしまうのです。元々は水素イオン(H+)の状態だったのですが、H2になってしまうと二酸化マンガンと反応しません。その上、気体が電池の中で発生して膨張し、最終的には結合部などから電解液が漏れ出します。
<アルカリ電池の充放電:陽極>
放電時: 2 MnO2 + 2 H2O + 2e– → 2 MnOOH + 2OH–
充電時: 2 MnOOH + 2OH– → 2MnO2 + 2 H2O + 2e– [OR] 2 MnO2 + H2 + 2OH–
一方、ニカド電池では水酸化ニッケル(NiOOH)が、Ni(OH)2になる反応が起こります。これを元に戻そうとすると水素(H)が余るのですが、実際には水酸化イオン(OH-)として動きまわり、反応の直前に水素イオン化して別の物質と結合しているため、Hは水素化せずに水になります。そのため、充電しても気体が出ずにそのまま何度も充放電を繰り返せるのですね。
<ニカド電池の充放電:陽極>
放電時: NiOOH + H2O + e– → Ni(OH)2 + OH–
充電時: Ni(OH)2 + OH– → NiOOH + H2O + e–
水素がでていないように記述していますが、実際には若干の水素が発生しています。ただし、その量はアルカリ電池などとは大きく異なりますし、発生した水素はある程度抜けるようになっています。
また、使われている電極の金属のイオン化傾向の違いから、アルカリ電池の電圧が1.5Vでニカド電池が1.2Vと無視できない出力の差があります。ライトなどに使うのであれば、アルカリ電池が良いでしょうね。
一次電池と二次電池の違い
充電というのは、電池が初めて生まれた時の用途から見ると非常に特殊な機能です。前回の記事でご説明した二次電池を除いた全ての電池で、「充電」などという機能を持った電池は存在しません。
電池というのは、「電気エネルギー以外のエネルギー」を「電気エネルギー」に変える装置です。それを、「電気エネルギー」を使って、「元のエネルギーに変える」のです。二次電池の場合、「化学エネルギー」で「電気エネルギー」を作る電池に「電気エネルギー」を使って「化学エネルギー」に戻すと言う作業です。やっている事自体は、化学反応を逆向きに発生させるだけ。
言うのは簡単ですが、化学反応で燃えて炭になった木を元の形に戻せないように、化学反応を綺麗に逆向きに発生させることは極めて難しいのです。しかし、ニッケルやリチウムなどは条件さえ整えば可逆反応が可能であり、自然の中では稀な可逆的な化学反応を人為的に起こすことに成功しています。
とは言え、実際には完璧な可逆反応とはなりません。人為的にせよ何にせよ、化学反応にも物理的な現象であっても、エネルギーが完全に補完される完璧な可逆現象は存在しないと言われています。
車の塗装が剥がれて塗りなおしたところで完璧に元通りにはならないように、ニカド電池もリチウムイオン電池も、充電時に発生する化学反応では元の状態とは少し異なった形に戻ります。それが繰り返される内に、電力が落ち始め、最終的には使えなくなります。
一次電池と二次電池の違いというのは、「どれくらい逆向きの反応が綺麗に起こるか」と言う部分の違いしかありません。アルカリ電池も少しは充電できますが、数回やったら壊れます。ニカド電池も充電できますが、数百回やったら壊れます。大きな差ではありますが、あくまで程度の差でしかないのですね。
覆水盆に返らずではありませんが、放電した電気を元に戻そうと思っても、完璧に元通りになることはありません。