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米軍の潜水艦救難と最新の救難システム(SRDRS)-潜水艦救難艦とは?(番外編)

前編・中編・後編の三辺で、潜水艦救難艦についての説明をしてきました。

日本の自衛艦が潜水艦救難に関して高い水準の能力を持っていることは間違いありませんが、米軍や豪軍などでは新たな潜水艦救難の試みが行われようとしています。

実は2015年現在、米軍には潜水艦救難艦というのが配備されていません。世界中で活動する米軍の潜水艦を救うには、潜水艦救難艦がいくらあっても足りないのです。

前編-深海救難艇と減圧症、沈んだ潜水艦から乗員を救出する困難と克服する方法
中編-飽和潜水と潜水艦の脱出装具、人が水深100mを越える深海で活動するために
後編-自衛艦「ちはや」と「ちよだ」、多目的に潜水任務をこなす世界屈指の日本の救難部隊

従来の潜水艦救難

以前は、ピジョン型潜水艦救難艦というのが配備されていましたが、それは以下のような大型艦でした。

 
(米軍:ピジョン潜水艦救難艦)

30年前に作られた「ちよだ」より古い艦ですが、船体が二つあるのが分かります。これは、中央の開いた隙間から深海救難艇やレスキューチェンバー(救難ポッド)を引き上げたり、加圧ポッドへの移乗などの作業を行えるように、このような形状になっています。また、潜水艦と艦自身を接続して引き揚げる能力もありました。

「ちよだ」や「ちはや」が艦の中央に穴を開けたのとは対照的に、艦を二つ並べて間にスペースを作ったと言うのは独創的です。実際、この方法はそれ以前のクレーンで重い深海救難艇を上げ下げする方式よりは安定感が高く、作業スペースも広いので、活動効率自体は高かったようです。

しかし、あまりにも艦の速度が遅いことと、敵国の奥深くで活動する米軍の原子力潜水艦を救助するのにこの船を連れて行くのは現実的ではないことから、こう言った潜水艦救難艦は作られなくなりました。

日本の潜水艦は日本の近海でしか活動しませんが、米軍は違います。敵国の奥深く、本土から遠く離れた外洋、北極の氷の下。本国に配備されている救難艦ではどうしようもない場所で救難事案が発生することだってあるのです。

そこで、米軍における潜水艦救難の問題は、潜水艦の救難に別の潜水艦を使うことで克服しました。

深海救難艇だけを運び、潜水艦で運用する


(潜水艦に搭載されたミスティック潜水艦救難艇)

要はでっかい船じゃなくて、救難艇だけで運用しようということです。

このミスティック型深海救難艇の特徴は、潜水艦にその場で搭載して運用できるという点にあります。

上の写真の攻撃型原子力潜水艦に積まれているのがミスティック型救難艇です。潜水艦に潜水艦救難艇が積まれていると言うのは面白いですね。原子力潜水艦であれば艦内の設備である程度の減圧症対策が取れますので、救難艦代わりに使うことができるということになります。

ポイントは、潜水艦に積まれていれば潜って切り離すだけなので「救難艇の上げ下ろしのクレーンなどが要らない」ということ。そして、沈没艦に母艦が接近できるので、往復の時間が短縮できることにあります。また、小型の救難艇だけで良いのであれば「空輸」が出来ます

つまり、潜水艦が沈没した場合、輸送機で救難艇を運んで沈没海域近くの潜水艦に渡しその潜水艦が沈没した潜水艦を探して救助活動を行うという手法です。

何十隻と言う規模で潜水艦を運用し、無限大の動力と高速航行が可能な米軍の原潜ならではの潜水艦救難といえます。この方法であれば、世界中のどこでトラブルが起こっても、近くに潜水艦が展開していれば潜水艦の救難活動を始めることが出来ます。

ただし、沈没した潜水艦の近くに他の潜水艦が展開していないと使えないと言うのは、それなりに制限が多いといえます。そこで、米軍は豪軍が開発した手法を参考に、新たな潜水艦救難システムを開発しました。

(次ページ、最新の潜水艦救難システム)

最新の潜水艦救難システムは組み立て式


(SRDRS_OceansWorks

その新たな手法とは、組み立て式のプラットフォームです。

上の図がその組み立て式プラットフォームの一部で、潜水艇やクレーンの存在が見て取れますね。

潜水艦の救難に必要なのは、沈没した潜水艦に接続し、乗員を救出する潜水艇とそれを運用する設備。さらに、減圧症治療を行うための減圧が可能なカプセルです。

で、あれば。それらを全て運んで、現地で組み立てるようにすれば良いということです。

とは言え、いきなり洋上で組み立てるわけではありません。ある程度の大きさの甲板がある船が必要です。基本的には、大きめのヘリコプター甲板程度の大きさで問題はありません。

その甲板に、潜水艇潜水艇の上げ下ろしをするクレーン、そして潜水艇やクレーンを操作するコントロール室、さらに乗員の減圧症治療が可能なカプセルを積み込み、組み立てます。これは、24時間ほどで組み立てが終わります

運ぶ時間にもよりますが、その場に広めの甲板がある船さえあれば、世界中どこにいても「24時間+空輸時間」で救難作業を始められるのです。

これは非常に画期的なシステムで、「SRDRS(Submarine Rescue Diving Recompression System):潜水艦救難再加圧システム」と呼ばれます。「再加圧」と言うのは、減圧症を防ぐために加圧することを指し、深海に近い圧力環境を作ることで減圧症を防ぎます。

最新型システムの欠点と自衛隊が使わない理由

最新型システムの最大の利点は「どこにでも素早く展開できる」ことですが、欠点もあります。

それは、潜水艦救難艇を空輸し、簡易クレーンで運用するというシステム上小型軽量でなくてはならず、潜れる深度に限界があり一度に運べる乗員の数が少ないという点です。

海上自衛隊の「ちはや」に搭載されている深海救難艇(DSRV)は深度1000m以上潜れますが、SRDRSは600mと大きな差があります。また、「ちはや」の深海救難艇は20数名の乗員を乗せられるのに対し、SRDRSの潜水艇は12名です。飽和潜水でダイバーを深海に投入する能力もありません。

ちなみに、深度1000m以上潜れる「ちはや」の深海救難艇は実に40トンの重さがあり、戦車一台分の重量があります。空輸するとなると、かなり大型の輸送機が必要になりますね。

つまり、「必要最低限の潜水艦救難能力」をパッケージ化して持ち運べるようにしたと言うのが、最新の救難システムSRDRSなので、潜水艦救難艦ほどの救難能力は無いということなのですね。

それでも、素早く展開できるなら自衛隊も使えばいいのに・・・と思うかもしれませんが、自衛隊の潜水艦は日本近海でしか活動しません。そのため、潜水艦救難艦が日本海側と太平洋側に2隻もあれば、多くの場合48時間以内に潜水艦が沈没した海域に到着して救助活動を開始できるのです。

仮に組み立て式の救難システムを導入したとしても、下手をするとパッケージを運んで組み立てている間に「ちはや」あたりが到着して潜水艇を投入してしまうでしょう。

集団的自衛権の関係で、自衛隊の潜水艦が海外で活動するようになればパッケージ型の救難システムも意味があるのかもしれませんが、しばらくは潜水艦救難艦が使われ続けるでしょう。

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