世界上位の軍事力を誇る諸外国が輸入に興味を示すそうりゅう型潜水艦が潜水艦では世界最強なのではないか国内で囁かれる中、実際にはどれほどの能力があるのかを比較してみましょう。
原子力潜水艦は除き、世界トップクラスの通常動力型潜水艦(ディーゼル・エレクトリック方式)を下記のようにピックアップしました。
212型潜水艦(ドイツ)、ラーダ型潜水艦(ロシア)、スコルペヌ型潜水艦(フランス・スペイン)、そうりゅう型潜水艦(日本)、039A型潜水艦(中国)、ゴトランド型潜水艦(スウェーデン)、キロ型潜水艦(ロシア)、コリンズ型(オーストラリア)
比較対象は8種+1種の潜水艦
まず、各国から有名な潜水艦を独断と偏見にて選びました。建造中の潜水艦や開発中の潜水艦は除いており、一隻でも就航している潜水艦だけをリストアップしています。
- 「そうりゅう型」 - 日本
- 「212型」 - ドイツ
- 「ラーダ型」 - ロシア
- 「スコルペヌ型」 - フランス・スペイン
- 「ゴトランド型」 - スウェーデン
- 「039A(041)型」 - 中国
- 「キロ型」 - ロシア(ソ連)
- 「コリンズ型」 - オーストラリア
- 原子力潜水艦 「バージニア型」- 米国
他にもノルウェーのウーラ型などもありますが、スウェーデンの技術を用いている部分もあるので、ゴトランド型だけで十分と判断しています。最新型の潜水艦だけではなく、旧式ながらもベストセラーの「キロ型」や、そうりゅう型の輸出問題で揺れる「コリンズ型」なども比較対象として挙げています。
ちなみに米英は原子力潜水艦しか運用していないため、純粋な比較対象に入れていませんが、通常型潜水艦と原子力潜水艦の性能を比較するために原子力潜水艦であるバージニア型も比較対象として含めています。
比較基準について
難しいのが評価基準ですが、今回は以下の「4+1」の基準において10段階評価で決めていきます。
- 「隠密性」
- 「潜水能力」
- 「行動範囲」
- 「戦闘能力」
- (拡張性)
隠密性は、航行中や停止中の「静粛性」や「排熱の少なさ」意味します。見つかりにくいかどうかというのは潜水艦を運用する上で最も重要な要素です。
潜水能力は、「潜航深度」や「連続潜航時間」に左右されます。つまり、長い時間、より深く潜っていられるかということです。深く潜れれば音が出ても見つかりにくくなり、長時間潜っていられれば空から見つかる可能性が低くなります。
行動範囲は、「最大航続距離」や「作戦行動時間」を考慮しました。より遠くまで、より長い時間活動できるかどうかを表します。敵地深くまで潜入するには重要な要素です。
戦闘能力は、「火力」や「索敵力」を意味しており、攻撃を行う場合にどれだけ静かな敵を発見できるか、攻撃するならどこまで遠くまで攻撃できるかという点で判断します。敵を発見し、攻撃する能力です。
拡張性は、「バリエーション」や「改修計画」によって左右されます。潜水艦は30年前後運用しますが、20年も経つと旧式化してきます。長い期間使い続けられるかどうかは重要な判断基準といえます。ただし、現状の能力とは無関係なので、括弧()表記です。
こうして指標を作りましたが、潜水艦の詳細な能力は極秘事項です。公表されている数字はあくまで目安にしかなりませんし、大半の情報が公表されていませんので、他の情報を加味して推測する他ありません。そのため、かなり議論の余地がある比較だということは理解して頂きたいと思います。
潜水艦比較ランキング結果
得点表
隠密性 | 潜水能力 | 行動範囲 | 戦闘能力 | 拡張性 | |
そうりゅう | 8 | 9 | 10 | 7 | 9 |
212 | 10 | 10 | 7 | 7 | 7 |
ラーダ | 9 | 8 | 7 | 10 | 8 |
スコルペヌ | 7 | 8 | 6 | 7 | 6 |
ゴトランド | 8 | 7 | 5 | 5 | 5 |
039A | 6 | 6 | 7 | 7 | 6 |
キロ | 7 | 4 | 8 | 8 | 3 |
コリンズ | 5 | 4 | 9 | 8 | 1 |
バージニア | 7 | 12 | 15 | 12 | 6 |
得点は以上の様になりました。
このような得点配分になった理由については分析編で詳細に解説していきますが、本記事ではこの得点表を参考に結果を解説していきます。
原子力潜水艦であるバージニア型は通常動力型潜水艦の限界を簡単に超えますので、とんでもない数字になっていますね。
(次ページ:いよいよ、各種ランキングの発表へ)
総合評価
全ての得点を単純に合計しただけの結果は以下の通り。
あらゆる要素を総合した結果ですので、運用方法によって大きく評価は異なってくるでしょう。
1位-43点: そうりゅう(日本)
2位-42点: ラーダ(ロシア)
3位-41点: 212(ドイツ)
4位-34点: スコルペヌ(フランス・スペイン)
5位-32点: 039A (中国)
6位-30点: ゴトランド(スウェーデン)
7位-30点: キロ(ロシア)
8位-27点: コリンズ(オーストラリア)
原潜-53点: バージニア(米国)
僅差ではありますが、総合的に見てそうりゅう型潜水艦が最も優れているという結果になりました。
簡単に解説すると、そうりゅう型は広大な領海を守る能力を持つ大型潜水艦でありながら十分な潜水能力や静粛性を兼ね備えており、スターリング・エンジンを換装する事で大幅なアップグレードが期待されているというのがポイントになります。
ラーダ型や212型も優秀ではありますが、そうりゅう型はラーダ型や212型に求められる任務を遂行する能力があるのに対し、ラーダ型や212型では行動範囲が狭いためにそうりゅう型に求められる任務が出来ない可能性があります。
原潜は見なかったことにしましょう。
しかし、この総合評価だけ見ても潜水艦の本当の価値というのは理解できません。総合評価というのは、実際の戦闘力とは無関係です。
対潜戦闘評価 (隠密性・潜水能力)
潜水艦同士でお互いが万全の準備をして戦った場合、その強さはどのように分かれていくのでしょうか?
潜水艦の戦闘において最も重要なのは隠密性と潜水能力です。そして、隠密性はより重要といえます。二つの値を合計した上で、同点の場合は隠密性の高い方を優勢としています。ソナーの性能も重要ではありますが、音や熱を出さずに深く潜り続ける能力が最優先です。
1位-20点: 212(ドイツ)
2位-17点: ラーダ(ロシア)
3位-17点: そうりゅう(日本)
4位-15点: ゴトランド(スウェーデン)
5位-15点: スコルペヌ(フランス・スペイン)
6位-12点: 039A (中国)
7位-11点: キロ(ロシア)
8位-9点: コリンズ(オーストラリア)
原潜-19点: バージニア(米国)
すると、そうりゅう型は3位になってしまいました。212型の圧勝です。
電池航行状態では優劣がつけにくいのですが、お互いに相手を見つけられず長期戦になり、AIPを使用し始めた場合、燃料電池の212型やラーダ型と比べると、スターリング・エンジンのそうりゅう型がやや不利になる可能性が高いです。
ゴトランド型が大きく浮上しているのも特徴で、静粛性自体はそうりゅう型と同等です。ただ、最大深度の差でそうりゅう型が有利という結果になります。深く潜ってやり過ごし、先に発見して攻撃することも出来るでしょう。
また、潜水艦が戦闘になった場合、原子力潜水艦にはそれほど大きな優位性はありません。バージニア型は原潜の中ではトップクラスの隠密性を持っていますが、電池駆動の通常動力型潜水艦の隠密性には勝てません。通常型潜水艦もAIP機関を使えば3週間前後は潜航が可能であり、交戦海域に侵入し、戦闘した上で脱出するプロセスは全て潜航したままで問題なく行う事ができます。
作戦能力評価 (行動範囲・戦闘能力)
次に水上艦に随伴したり、敵地で活動するなど多種多様な作戦を遂行する能力があるかどうかの評価です。
これには、行動範囲と戦闘能力が重要となります。行動範囲が狭ければ、それだけで作戦の幅が狭くなりますし、戦闘能力が低ければ攻撃可能な敵の種類が少なくなってしまいます。得点が同等の場合は、行動範囲を優先しました。
1位-17点: そうりゅう(日本)
2位-17点: コリンズ(オーストラリア)
3位-17点: ラーダ(ロシア)
4位-16点: キロ(ロシア)
5位-14点: 039A (中国)
6位-14点: スコルペヌ(フランス・スペイン)
7位-13点: 212(ドイツ)
8位-10点: ゴトランド(スウェーデン)
原潜-27点: バージニア(米国)
こうして結果を見てみると、かなり意外な結果になりました。
コリンズ型が浮上しているのは、作戦行動範囲の広さが理由です。というのも、そうりゅう型やコリンズ型に求められている任務は、本来であれば原子力潜水艦で行うような広範囲の哨戒や陸から遠く離れた海域での戦闘です。
オーストラリアも日本も、広大な太平洋や南シナ海で戦う能力が潜水艦に求められており、他の潜水艦には必要無いような作戦行動能力を持っているのです。オーストラリアが日本のそうりゅう型を最有力としているのもこのためでしょう。
また、ロシアや中国の潜水艦は自国の防衛だけではなく、敵国の領海内に入り込んで巡航ミサイルなどを駆使した積極的な作戦行動も期待されており、比較的高い作戦能力を持っています。その一方で、自国の狭い領海防衛のみに特化した212型やゴトランド型はそれ以外の作戦能力を持ちません。
また、食料が尽きるまで潜航し続ける事が出来る原子力潜水艦の作戦能力は圧倒的です。通常型は勝てません。
総評
日本のそうりゅう型は総合的に最もバランスがとれている潜水艦であり、幅広い任務を単艦でこなす事ができます。一方、212型は戦闘においては紛れもなく最強の潜水艦と言って差し支えない高性能な潜水艦だったことが分かりました。自国の港や船舶を守る上では、この上なく心強い潜水艦といえますね。
また、ロシアのラーダ型やキロ型は作戦能力と戦闘力を両立させた上で、評価には含まれなかったものの「経済的」に優れた潜水艦であることも忘れてはいけません。それにならった中国の039A型も汎用性の高い潜水艦と言えるでしょう。
これらの潜水艦を大きく分けると日本と豪州の広い海域で行動する太平洋指向の潜水艦、スウェーデンやドイツの入り組んだ欧州の沿岸を守る沿岸防衛重視の潜水艦、幅広い任務に対応するロシアや中国の高いコストパーフォーマンスを誇る汎用潜水艦に分かれてくるだろうと思います。
各々の国々のニーズを満たし、各国で確実に任務をこなせるための潜水艦を作った結果、このような結果になったと言えるかもしれません。
日本のそうりゅう型潜水艦は、日本という国が中国やロシアに囲まれ、広い海岸線と太平洋を含めた広大な領海があり、求められる潜水艦の性能が非常に高い水準だったから生まれた潜水艦だと言えます。
【分析編:スコルペヌ型、ゴトランド型、039A型、キロ型、コリンズ型】
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