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自撮り写真(セルフィー)を集めると何が見える? Selfiecityの挑戦と発見を探る

 Selfie―セルフィー:自分自身を撮影した写真。もっぱらスマートフォンやwebカメラで撮影されソーシャルメディアに投稿されるものを差す。――オックスフォード英語辞典

  鏡を前にスマートフォンを構えて自分の顔を映す写真は自画取り写真と呼んだ方がまだ通りがよさそうではあるが、オックスフォード英語辞典が「2013年を代表する英単語」に選出したのを機にメディアの注目が集まり、セルフィーという呼び名は日本でも浸透しつつある。外国人観光客がスティックの先にスマートフォンを取り付けて自分の写真を撮っている姿ももう珍しくはない。

 スマートフォン一つあれば撮影から共有までを手軽に行えるセルフィーは日常的に行える自己表現の一つである。日常会話で自分の考えを述べたり、その日着る服を選んだりするのと同様に、意識的なものと無意識的なものを含め人間が日々行っている“メッセージの発信”の一形態と考えてもいいだろう。

 ここで一つ疑問が浮かぶ。
 セルフィーが自己表現の一種であるのなら、地域や文化毎に何か傾向がありはしないだろうか。自分の写真を撮るという行動自体は世界中どこに行っても変わらないとはいえ、そこに表現されているものに地域差がありはしないだろうか――。

Selfiecityの挑戦

  Selfiecityというウェブサイトを運営している調査チームがその疑問に真っ向から取り組んだ。ソーシャルメディアに投稿された膨大な数の画像から、いくつかの都市ごとに一定数のセルフィー画像を選別し、表情や年齢層、性別、顔の傾け方などのデータを採ったのだ。
 結論から言えば、確かに都市ごとの差は存在した。これからその詳細をみていこう。

  Selfiecityチームはまずスマートフォン向け写真共有サービスであるインスタグラム(Instagram)から画像をランダムに65万6千枚収集。その後ニューヨーク、サンパウロ、ベルリン、バンコク、モスクワの5都市にターゲットを絞り、各都市で撮影された写真をそれぞれ約2万枚、ニューヨークのみ約3万枚、合計して約12万枚を無作為に選出した。

  それからセルフィー画像の絞り込みに入る。
 絞り込みにはアマゾンの運営するクラウドソーシングサービス「Amazon Mechanical Turk」を利用。これは単純作業をオンラインで発注し、希望者がそれをこなして対価を得るサービスで、ソフトウェアでは行いにくい大量の作業を素早くかつ比較的安価にこなすことができる。調査チームはこのサービスを活用し、まず人間の目でセルフィー画像を抽出した。それから、セルフィーだと判定された画像をさらに都市毎に1,000枚にまで絞り込む。

 ここで再びMechanical Turkの登場だ。今度は経験のある作業員に対し、セルフィー画像かどうかの判別だけでなく、年齢の推定および性別の判定までを含めて作業を発注。1度目の利用よりも詳細な観察が必要なため、腕のよい作業員に向けて発注された。

 次にこの1,000枚のセルフィー画像を表情分析用のソフトウェアにかける。ここで目と鼻と口の位置関係、そして表情の差異を分析する。

 最後にSelfiecityの調査チームが1枚1枚画像をチェックし、これまでの分析結果にミスがないかを確認する。こうして最終的に、都市ごとに640枚のセルフィー画像が選び出された。

  1都市につき数万枚の画像を640枚まで絞り込んだ調査チームは、そこから何を発見したのだろう。主立った発見は以下のようになった。

1.セルフィー画像の数は全体のおよそ4%

 調査チームが分析に使った約12万枚の画像のうち、セルフィー画像は全体のおよそ4%に留まった。多くは車やペット、風景に友人などを取った写真で、都市ごとに少しばらつきはあれど、セルフィー画像の数は意外に少ないことが判明した。

2.女性の割合が多い

 こちらの結論は特に意外なこともないが、都市ごとに比較してみれば面白いものが見えてくる。

バンコク

55.2%

ベルリン

59.4%

ニューヨーク

61.6%

サンパウロ

65.4%

モスクワ

82.0%

 男女比の差が一番小さいのがバンコクというのは意外な結果であるが、それよりも際立つのはモスクワの結果だ。女性の割合が82パーセントという極端な偏り方は偶然ではないだろう。この背景にあるのは文化的なものか、ジェンダーをめぐる社会的要因か、はたまた経済的なものか、今後調査が行われればその一端が見えてくるにちがいない。

3.年齢層は20代が主、そして男性の方が平均年齢が高い

 やはりというか何というか、若年層が多数を占めている。これは大方の予想通りの結果だろうが、男性の方が年齢層が高いというのは少々意外に思える。
 都市ごとの年齢の中間値をまとめてみよう。

都市名

女性

男性

バンコク

20.3

22.7

ベルリン

23.7

26.3

モスクワ

23.3

25.7

ニューヨーク

24.3

26.7

サンパウロ

22.3

25.0

  比較するとここでもバンコクが特徴的なのがわかる。他の4都市より3歳ほど中間値が低い。そして年齢層が一番高いのがニューヨークで、次いでベルリン、モスクワとなっている
このほか、30歳以上の男性は女性よりも多くセルフィーを投稿しているという結果もSelfiecityのサイト上で言及されている。これもまた興味深い発見だ。

4.女性は男性よりも首を傾ける角度が50%大きい

  笑顔で小首をかしげて撮った写真は、まっすぐ立って映した写真よりもなんだか活き活きして見える。女性ほどそう思わせようとする傾向が強いのか、このような結果が出た。
 顔の傾け方のデータについてもう少し詳しく見てみよう。下の表は都市ごとの平均値である。

都市

男性

女性

バンコク

8.0度

10.6度

ベルリン

7.8度

11.2度

モスクワ

7.1度

11.8度

ニューヨーク

7.6度

11.0度

サンパウロ

10.4度

17.0度

 今まで目立たなかったサンパウロがここでは際立っている。男性の平均的な角度が他の4都市の女性に匹敵する数字であり、女性の平均値は群を抜いた17度。身振り手振りなど、身体的な表現に対する意識の違いがあるのだろうか。

  Selfiecityのwebサイト上にはこの他、研究結果について論じた記事やブログ記事、および都市ごとのデータをグラフに表し、視覚的に概観することのできるコーナーが設けられている。
 英語のwebサイトではあるが、興味があれば覗いてみるのもいいかもしれない。

 http://selfiecity.net/(Selfiecityページ 英語)

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