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豪州潜水艦輸出問題、そうりゅうはスウェーデンや英国の助力を得てドイツに対抗

コリンズ級潜水艦更新にあたり、そうりゅう型潜水艦が輸出されるかどうかが大きな話題になっていますが、ドイツやフランスの売り込みを受けて日本もようやく動き出したようです(NewSphere)。

日本のそうりゅう型潜水艦輸出に際して最大の懸念は豪州国内世論の反発でした。というのも、そうりゅうを輸出する場合、日本で建造されて完成品が豪州へ輸出されることになるため、豪州国内の造船業界において雇用が大幅に失われてしまうのです。これに対して、ドイツやフランスは豪州国内での潜水艦建造を認めており、豪州国内の造船業界ではアジアの造船拠点に豪州を選ぶと約束したドイツの216型を特に推しています。

豪州国内の報道機関の中には、日本のそうりゅうが最有力とされていたことから一転して、ドイツの216型を最有力視する見方もあるとのことです。急に形勢が悪くなった日本に残された対抗策は、スウェーデンや英国の軍需産業と協力するという選択肢です。一体、どうしてこれが日本の対抗策となるのでしょうか?

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そうりゅう型潜水艦を豪州で作れない理由


(そうりゅう型潜水艦_JSMDF)

スウェーデンや英国の軍需産業の力を借りるという選択肢について考える前に、なぜ日本のそうりゅう型は豪州で作れなくてドイツの216型は豪州で作れるのかという点について考えてみましょう。

まず、ドイツの216型は計画中の潜水艦であり、過去の輸出実績からみて輸出モデルの潜水艦はドイツ本国のオリジナルよりワンランク劣る性能になると見られています。216型が豪州で採用された場合、当然この輸出モデルが建造されるわけですが、性能は間違いなくオリジナルに劣るものになるでしょう。

また、豪州の造船所の技術レベルはコリンズ級の技術レベルからして決して高いものではありません。高性能潜水艦の建造は宇宙船を作る技術並みに高度なものが要求されると言われていることからしても、216型を豪州国内で建造しても豪州政府が望む性能を得られるかどうかは怪しいと思われます。ある意味、ドイツを選ぶというのは国内雇用のために様々な点で妥協するということです。

他国の例では、ドイツの潜水艦212型の輸出モデルである214型が韓国海軍で採用されていますが、韓国の造船所の技術レベルが低いために稼働率が低く、性能を抑えた輸出モデルでありながら想定されたレベルの性能が出ていないと言うのも問題になっています。豪州に216型が輸出されたとしても、同じ問題が起こる可能性は高いでしょう。

実際のところ、豪州政府や豪州海軍は運用実績があり輸出モデルによる性能劣化の少ないそうりゅう型の採用を望んでおり、米国の後押しもあって国内世論の反発がなければ有無を言わずにそうりゅう型を採用しているところでした。しかし、この良好な運用実績は日本の造船所で作られたそうりゅう型で達成されており、輸出モデルによる性能劣化が少ないのも日本で建造するのが前提だからです。

豪州でそうりゅう型を建造するとなった場合、豪州の技術レベルに合わせた仕様に変更したり、国外に出したくない技術を隠すために性能を下げた設計を新たに作ることになるでしょう。それでは豪州の求める性能は達成できませんし、日本は輸出版劣化モデルを作るノウハウもありません。また、日本で作らない以上日本国内の軍需産業のメリットも少なくなります。

そういった理由で日本は自国生産での完成品輸出を考えていましたが、ドイツが想像以上に積極的に216型の輸出提案をしてきたことから状況が一変しました。

スウェーデンや英国の軍需産業と協力する日本

このままではドイツに採用が決定してしまうという懸念もあり、日本でも何かしらの対抗策が必要になりました。

豪州で建造しないにしても主要部分や機密性の高い部分を日本でつくり、残りを豪州で作って仕上げるという方法もあります。どちらにせよ、メンテナンスやちょっとした改修は豪州で行う必要があるので、そういった面で豪州における雇用創出のアピールをすることはできるでしょう。

しかし、自国の技術を可能な限り秘匿しながら外国で仕上げたり改修するという経験は日本にはない上、豪州の造船所や軍需産業との繋がりは殆どありません。そこで考えられたのが、豪州で大きな影響力を持つ他国の軍需産業と協力するという方法でした。

そこで候補に上がったのは、ドイツやフランスと利害関係が無い上で豪州に拠点を持つ企業3社。
スウェーデンのサーブ社(コックムス)。イギリスのバブコック・インターナショナルとBAEシステムズです。

実はサーブ社はコリンズ級潜水艦の建造に関わったコックムスの親企業であり、潜水艦建造に関しては世界トップレベルの高いノウハウを持っています。また、イギリスのパブコックやBAEは英国の原子力潜水艦や艦船の建造に関わっており、豪州にも拠点を持っています。つまり、三社とも高い技術力を持ちながら、豪州に雇用を生むことが出来る立場にあるのです。

コックムスが協力したコリンズ級潜水艦は各方面から批判を浴びていますが、基本設計は決して悪いものでありません。むしろ、並の潜水艦より優れたものでした。というのも、スウェーデンのコックムスで培われた技術は現代潜水艦技術の中でも世界トップレベルで、その技術はコリンズ級だけではなくそうりゅう型にも受け継がれています。

単に、その技術を使いこなすだけの技術が日本にはあって豪州にはなかったということなのかもしれません。

最強の陣営でドイツに挑む日本

通常潜水艦型の技術では世界トップレベルのコックムス。そこに原子力潜水艦の建造実績があり、大規模な造船所を豪州に有するBAEシステムズやバブコックが加わり、豪州へのそうりゅう型潜水艦輸出協議に参加するのです。これは技術的・品質的な観点からみれば、明らかに強力な陣営と言えるでしょう。

一方、ドイツやフランスは大規模な国内雇用を埋めることを売りにしていますが、どちらも計画中の潜水艦であって技術的な不安は依然として残っています。

国内雇用の創出を武器にした独仏に対し、日本は英瑞を引き連れて品質を武器に戦います。まだまだ協議は始まったばかりですが、一体勝つのはどの国になるのでしょうか?

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