日本の通常動力型潜水艦であるそうりゅうは世界でも屈指の潜水艦として知られていますが、日本やオーストラリアは潜水艦をどのように使うつもりなのでしょうか?
オーストラリアがそうりゅうを使うにしろ使わないにしろ、求める潜水艦の使い方というのは既にあるはずです。また、既にそうりゅうを採用し、今後何十年かは使っていく予定の日本はそうりゅうを今現在運用中です。そこで、本記事では日本やオーストラリアが求めている潜水艦像やその役割について考えて行きます。
そうりゅう型潜水艦の位置づけ
実を言うと、各国の潜水艦に比べてそうりゅうの立ち位置はかなり特殊です。
原子力を使わない通常動力型潜水艦は電池と燃料で航行するため作戦範囲に限りがあり、作戦範囲を広げようとすれば燃料や動力スペースのために船体が大きくなり、開発・運用コストが跳ね上がります。そのため、殆どの通常動力潜水艦が小型の局地戦タイプであり、大型の通常動力型潜水艦を探すとロシア製であったり、原子力潜水艦の動力部分だけ付け替えたようなやっつけモデルになるのです。
もし、長大な作戦範囲に多彩な兵器運用能力を持つ大型の通常動力型潜水艦を開発・運用しようとすれば、それには高い技術と資金力のある大国以外は扱うことが出来ないでしょう。しかし、それだけの大国であればはっきり言って原子力潜水艦を作ります。
局地戦モデルは小回りが効いて静粛性にも優れコストパフォーマンスも高いメリットがある一方で作戦範囲が狭く、原子力潜水艦はコストはかかりますが圧倒的な作戦範囲を持ちます。この二つは両極端な性質を持ち使い方も分かりやすく、片方は領海付近で敵を向かい撃つ潜水艦、片方は敵国の近くで偵察と攻撃を行う潜水艦とはっきり使い分けられます。
ところが、そうりゅうのような大型の通常動力型潜水艦はどうでしょうか?
作戦範囲は原子力潜水艦に及ばず、高いコストがかかる割には戦闘力は小型の潜水艦と変わりません。良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏という微妙な位置付けの潜水艦です。実際、そうりゅう型を劣化版原潜と呼ぶ声もあります。
そんな、「使い方の分かりにくい潜水艦」を日本やオーストラリアはどう使おうというのでしょうか?
日本の潜水艦運用
日本の潜水艦の任務は大きく分けて二つ。
一つ目は敵潜水艦や水上艦の監視。
二つ目は海峡や港湾周辺の安全確保。
まず、監視というのは言ってみればストーキングや軍港・海峡付近での潜伏です。敵の軍港周辺で待機して、敵の潜水艦や水上艦が出てきたら後をつけて、どこに行くのか、何をしているのかを観察します。
これは戦争中でなくても一般的に行われていることで、自衛隊もおそらくやっているはずでしょう。
水中から分かるのは艦船が出す音だけですが、この音は艦船毎に微妙に違います。人によって微妙に足音が異なるように、潜水艦や巡洋艦のスクリュー音は微妙に違うのです。これを音紋と呼びますが、後を付け回して様々な速度域の音紋を取れれば一瞬でも音が聞こえれば何がそこにいるのか分かるようになります。
また、訓練などをこっそり観察できれば儲けものです。相手がどうやって戦うのか、どのくらいの練度があるのかなどが容易に把握できるからです。
こうした訓練は領海内で行うと危ないので、軍艦が侵入しても国際法的には問題のないEEZや公海上で行うことも多く、訓練中に他国の潜水艦が近づいて万が一見つかってもいきなり撃たれたりすることはありません。
日本の潜水艦が港からいなくなっていたら、訓練にでかけたか訓練を見に行ったかしていると思えば良いですね。
次に、安全確保というのは近づいてきた敵を待ち伏せ攻撃する任務です。
はっきり言って日本は海峡が多すぎます。津軽海峡・対馬海峡・宗谷海峡は日本海を行き来するための重要な海峡ですし、関門海峡は瀬戸内海を守るためには絶対に確保する必要のある場所となります。どこか一箇所でも敵の潜水艦の潜入を許せば、敵はいつでも好きな時に好きな艦船を沈める事ができるようになるでしょう。また、海峡に機雷をばらまかれれば無差別に船舶が破壊されます。
津軽・対馬・宗谷海峡は他国の船舶が通過可能な国際海峡ですし、戦時でもない限り入ってきたら即攻撃とは行きませんが、この海峡で他国の軍艦が何をやっているのかは絶対に把握しなければいけません。常に一隻は潜水艦を隠しておきたいところですが、おそらく固定式ソナーなどが配備されているはずなので時々でも良いですね。
海峡はもちろんですが、港湾の防衛も非常に重要です。港湾に近づいてくる敵のルートを予測して待機し、近づいてきたら攻撃するのも潜水艦の任務です。
(次ページ: 日本がそうりゅう型を必要とする理由)
日本がそうりゅう型を必要とする理由
実は海峡や港湾の安全確保に関してはそうりゅう型でなくても可能です。待ち伏せ攻撃を行う場所が自国の拠点に近いため、小型の潜水艦でも十分同じ任務が出来るのです。また、待ち伏せなら多くの燃料を使うこともありませんし、広い作戦範囲は要りません。
日本が潜水艦にそうりゅう型を必要とする一番の理由は敵艦の追跡任務です。
日本は四方を海に囲まれているため、どこからでも敵の船舶が接近する事ができます。相手が真っ直ぐ日本に進んで来れば良いのですが、一度太平洋に出てから日本に近づいて来ることもあれば、対馬海峡から日本海に入り宗谷海峡を出て太平洋をぐるっと回って沖縄の隣を通るかもしれません。
特に、軍港や海峡に接近せずに遠巻きに監視するような動きをしている敵潜水艦を見つける事は難しく、そうなる前に先に見つけて追跡することが必要になります。それ以外にも、日本の領海から遠く離れた海域に展開する空母や艦隊を監視するにも作戦範囲の広さは重要になってくるでしょう。
東シナ海、日本海、西太平洋全体をカバーできる十分な航続距離が無いと日本の潜水艦として活躍する事はできないのです。地中海やバルト海、北海のような小さな海での運用が主になる欧州の潜水艦とは違います。
オーストラリアの潜水艦運用とそうりゅうの能力
オーストラリアもまた日本と同じく四方を海に囲まれている国ですが、日本と比べると若干事情が異なります。
というのも、海に囲まれていても船舶の通る航路が東南アジア方面と北アメリカ方面に集中しており、四方全てを守る必要がないのです。その代わり、珊瑚海や東南アジア周辺の海域はオーストラリアにとって重要な海域になってくるため、特に警戒が必要になるでしょう。
そう考えた時に厄介なのが東南アジアと南シナ海なのです。
東南アジア周辺の海域は入り組んでおり潜水艦にとっては難所でもありますが、船舶の往来が集中するため、敵を補足するには絶好のポイントです。また、南シナ海は開けているものの各国の海軍が活発に活動する地域で監視は必須。
ところが、どちらもオーストラリアからかなり遠いのです。
日本と違って進行ルートがある程度は絞れるため、航続距離の短い船で待ち伏せ戦術を行うのも良いですが、それなりの数が必要になります。それよりも、監視も兼ねて航続距離の長い潜水艦を入り組んだ東南アジア方面に配備しておく方が効果的でしょう。要するに、オーストラリアにとっての主戦場が本国から遠いため、航続距離の長い潜水艦が必要になるのです。
日本と豪州とそうりゅう
日本の潜水艦としては追跡能力が重要な一方で、オーストラリアの潜水艦としては遠くの戦場に展開できる能力が必要。そのどちらに関しても、そうりゅうは十分にこなしてくれる能力を持っています。
さらに、もう一つ無視できないのが米国製兵器の運用能力。
オーストラリアの兵器の多くが米国製であり、コリンズ級潜水艦に使われている魚雷や対艦ミサイルも米国製です。となれば、それをそのまま流用できるような潜水艦が理想でしょう。そうりゅうは魚雷こそ日本製のものを使っていますが、米国製の魚雷や対艦ミサイルも十分運用可能なので要求を満たせます。
日本もオーストラリアも中国海軍を警戒していますが、実際にそうりゅうを運用するとなっても使い方は少々異なってくるでしょう。
オーストラリアとしては戦場はあくまで東南アジアや南シナ海であり、オーストラリア方面に近づけないことと、オーストラリアに関係のある船舶を守ることが主任務です。一方、日本にとっての主戦場は東シナ海であり、日本に近く油断なりません。実際に戦争になった場合には、中国の軍港付近に潜水艦を配備して積極的に敵の動向を探ることになるでしょう。
同じ潜水艦でも求められる任務は少々異なったものになります。
日本には専守防衛があるため原子力潜水艦は使えません。また、オーストラリアも技術的、国柄的にも原子力潜水艦は使えないのです。そのため、ある意味万能である意味器用貧乏なそうりゅうが必要とされるのかもしれませんね。
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