サイトアイコン Stone Washer's Journal

日本武士と西洋騎士の強さを徹底比較(1):5つの視点から総合的に考える、武器編

「武士(侍)と騎士が戦ったらどちらが強いのか?」
そんな比較が何十年も前から行われて来ましたが、なかなか答えの出るものではありません。全てが過去の別々の世界で起きた出来事だからです。しかし、それでも武士や騎士の生き様やその姿は強さの象徴として知られているため、誰もが気になる点です。

既に様々な比較記事や議論がインターネット上で散見されますが、それぞれが武器や鎧の比較であったり、生き方や技術の比較に終止し、なかなか納得行く答えに巡り会えません。そこで、本記事では出来る限り幅広い視点から、武士と騎士の強さについて考えてみました。

武士や騎士における強さとは何か?

まず、彼らが何をもって「強い」とするかから考えましょう。

「強い」というのは、基本的には何かが「優れている」ということです。では、何に優れているのか。

それは彼らの役目から考えると自ずと答えが出ます。彼らは主君に仕える立場であり、主君を守り、主君の望みを叶える使命があります。そのために、武士や騎士は自身の「知力」と「武力」を駆使して存分に活躍することでしょう。

しかし、武士と騎士の比較をする上で、「知力」の比較はまず無理でしょう。それこそ、文化や求められる知性が違うため、比較のしようがありません。そこで、必然的に「武力」の比較になるわけです。

武力の比較をするのも容易ではありませんが、主君を守らなければならない上に、彼ら武士や騎士はいわゆる戦いを生業とする人間です。彼らが負ける時は戦えなくなった時。つまり、「戦う能力を失うか、死んだら負け」ということです。単純な話ですね。

また、「武士道とは死ぬことと見つけたり」という言葉がありますが、何も犬死しろという意味ではありません。どちらかというと、「死を恐れずに勇気を持って行動しろ」的な意味に近く、死ねという意味ではないのです。

話を戻して、「動けなくなるか死んだら負け」だということは、最後まで戦闘力を維持していた方が勝ちということです。つまり、生きていたとしても「敗走」したり、「捕虜」になったり、「体力を喪失」した場合には負けと言えるでしょう。

どうしてこんな回りくどい定義が必要なのかというと、勝敗が決まるのは何も相手を武器で殺した時だけではないからです。

大怪我を負わせれば十分ですし、武器を壊したり、身動きを取れなくするだけでも勝ったと言えるでしょう。さらに、敵だけが武士や騎士の戦闘力を奪うとは限りません。「飢え」「寒さ」「暑さ」など、自然のあらゆるものが武士や騎士の戦闘力を奪います。

良くある比較だと、「武士の刀と騎士の鎧どっちが強い?」というような物が多いでしょう。しかし、鎧や武器の性能だけを見ても、「武士と騎士の強さ」は比べられません。それを着た人間が実際に戦場に出てみたらどうなるかを考えてこそ、正しい比較が出来るのです。

どんな視点から比較をするべきなのか?

さて、実際に比較する前に、簡単に比較項目について確認します。

足りない可能性もありますが、比較項目は上の5つです。

当然ながら、武器の攻撃力や扱いやすさは比較せざるを得ません。また、鎧の防御力や動きやすさも重要です。これに関しては、その重要性について説明する必要はないでしょう。なんといっても、それを使って戦うのです。装備の良し悪しが戦いの結末を分けるのは至極当然の論理です。

あまり比較される事がありませんが、過酷な環境下でもその装備を使って戦えるのかという点での適応能力の比較を忘れてはいけません。現代の戦争でもそうですが、過酷な環境だと能力を発揮できなくなるのであれば、当然能力から差し引いて考える必要があります。

どんなに優れた武器を持っていたとしても、彼らの戦い方がそれにマッチしていなければ意味がありません。また、いくら優れた装備を持っていても、その装備で行える戦術が限られていたのでは簡単に対応されてしまいます。幅広い戦術や技術も強さを考える上では大切です。

そして、基本的に武士と騎士で全く比較に上がることが無いのですが、費用や消費についてです。第二次大戦が良い例ですが、ドイツ陸軍とアメリカ陸軍のどっちが強いかと問われれば、勝ったアメリカ陸軍が強かったと答えるのが正しいでしょう。しかし、ドイツ陸軍の装備は世界屈指でした。国力の差もありますが、複雑で高価な装備は数で負けるのです。弱くてもたくさん作れるのであれば、それは優位な点として考える必要があります。

ちなみに、比較する際に参考にする年代は「おおよそ15-16世紀前後」とします。というのも、騎士は銃の発達と共に戦士としての価値を失ってしまうからです。両者が最も発達していた時期で比較しましょう。

武士と騎士の武器について比較する

武士の武器

武士の装備は、基本的には刀を腰に下げて槍か弓を持つというスタイルだったようです。

西洋のような武器のバリエーションはありませんでしたが、刀も槍も「斬撃」「刺突」が可能な特性を持っている事が殆どです。武士の武器を考えるとなると、刀と弓の性能に終始します。

刀については、「切れ味がよく」「扱いやすく」「耐久性が高い」という評価のようです。しかし、突く・斬るという機能に関しては一級品ですが、それ以外に特筆するべき特性がありません。言ってみれば、剣としての機能を極限まで追求した武器です。また、一般に刀という「打刀」を指しますが、これは長すぎず短すぎず、十分な戦闘力を維持しつつ携行が容易な刀剣です。槍や弓を持ちながら、いざとなったら刀を抜くという戦い方が出来るの魅力でしょう。

弓については、西洋のものと違ってかなり大きい弓が使われていました。大きいので少々取り回しに難がありますが、射程は長く高威力だったようです。短い弓もありましたが、弓の下側を持つ形で利用したため騎射が可能で、高い汎用性を持っています。

槍については、両刃で「斬撃」と「刺突」の双方が可能という特性があります。西洋の槍は刺突がメインであり、戦い方に合わせた使い方出来るでしょう。また、槍にも長さがあり、騎兵用の短い槍もあれば、歩兵が持つ対騎兵用の長槍もありました。十分な貫通力があり、足軽の主兵装でもあったことから扱いやすい武器でもあります。

まとめると、一つの武器で様々な状況に対応できるようにしているのが武士と言えるでしょう。

(次ページ: 騎士の武器とその比較)

騎士の武器


(ハルバード_reddit.com)

騎士の武器はとにかく種類が多いです。まだまだ沢山あります。様々な国が入り乱れる環境であり、相手に合わせた武器の選び方が重要だったのでしょう。基本装備はロングソードだったようですが、重装歩兵に対してはハンマーやレイピアなどを使い、騎兵が相手ならパイクなどを使っていたようです。

ロングソードは、両刃で先端が細くなっています。「斬撃」と「刺突」の双方が可能で、刀と同じくあらゆる戦場で使われています。ただ、先端が細くなっていく構造上「折れやすく」、反り返しがない分、切れ味もそれほどではありません。

レイピアは、鎧の隙間を攻撃するための非常に細い剣です。フェンシングなどにも使われます。簡単に折れますが、ピンポイントに弱点を狙って攻撃できる特性があります。

ハンマー・フレイル・メイスについては、基本的には鈍器です。強い衝撃によって鎧の内側にダメージを与える事ができます。重装歩兵などに効果的な武器でしょう。また、ウォーハンマーなどは、槌状の部位と爪状の部位があり、爪上の部位で装甲を貫通させる事ができます。フレイルは鎖の先に重りがついており、盾などをかいくぐる形で相手を殴れました。

パイクは、基本的には槍と同じですが、日本の槍とは違って「刺突」がメインです。どちらかというと対騎兵用に特化しており、パイクなどは片側を地面に突き刺し、もう片方を騎兵に向けて陣形を組む形で使うことも可能です。下級兵士の武器というイメージがありますが、ロングソードと共に携行するケースもありました。

ランスは、騎兵用の槍です。これも刺突専用ですが、馬の勢いと重量で突き刺すという使い方をするため威力は絶大です。馬を降りたら使えませんが、相手の装甲に関係なく無力化出来るでしょう。

ハルバードは、長い槍に斧と爪と取り付けたような物々しい武器です。刺突、斬撃、打撃とあらゆる用途に使える強力な武器ですが、重たい上に3種類の武器がついているため、非常に扱いが難しい武器でした。

では、英国ではロングボウなどの長い弓もありましたが日本の和弓に比べると小さい物が多いです。また、複数の素材を組み合わせて作るコンポジットボウなど、小さいけれど射程の長い弓もあります。扱いの難しいものから容易なものまで幅広いのが特徴です。ただし、騎士は狩猟以外で飛び道具を使いません。弓やクロスボウは下級兵士の装備でした。

クロスボウは、弓を持ち手に取り付けた飛び道具で、引き金を引くと矢が飛び出すため、使い方は銃に似ています。弓に比べると発射に時間がかかりますが、素人でも的に当たる上に威力が高いのが特徴です。騎士の武器という形で挙げましたが、基本的には従者などが使う武器です。

非常に様々な武器がありますが、総括すると、環境や敵に応じて武器を使い分けて戦うのが騎士と言えそうです。

比較してみる

単純に「一番強いのがどれか」なんて比較は出来ませんので、用途や特徴別に「強い順に3つ」に並べます。

また、「扱いやすさ」の項目に関してですが、素人が簡単に扱えるという意味ではなく、「一定期間の訓練でどの程度の使い方が出来る」かという点で見ています。

近距離では総合的に見ると刀が最も優れています。斬撃と刺突に高い性能を発揮し、丈夫で軽く、長すぎないので扱いやすく、オールマイティに活躍できるでしょう。一本の刀だけであらゆる戦場を戦えるのが武士といえます。

しかし、武士の武器には強力な打撃武器がありません。武士の鎧は比較的軽装であり、槍や刀で十分な打撃を与えられた事が主な理由だと考えられます。打撃武器が効果的な重装歩兵が相手なら騎士が有利です。適切な武器さえ選べば、どんな相手でも効果的に戦えるのが騎士です。

中距離では総合的に判断するのは難しいですが、単純な強さで言えばハルバードでしょう。扱いは難しいものの斬撃と打撃が強力です。また、騎兵専用ではありますが、ランスもかなり強力です。中距離武器の威力だけを見れば西洋騎士に分があるでしょう。ランスやハルバードを巧みに使えば、戦場を席捲出来るはずです。

しかし、性能的には特筆すべき点はないものの、たった一本で様々な用途に使える武士の槍も魅力的です。槍は騎兵と歩兵双方で使える上、「斬撃」「刺突」に使えます。重装兵には刺突、軽装兵には斬撃で対応するなど様々な使い方が出来るのが強みです。

飛距離で和弓、威力でクロスボウと言ったところです。クロスボウの威力は殆どの鎧を貫通する威力がありますし、コンポジットボウなどを除き、和弓は西洋で使われていた弓の射程を超えています。一方で、扱いやすさは何をもって扱いやすいと考えるかで意見が分かれますが、洋弓は短くて下級兵士でも使えるようになっていたため、比較的扱いやすい武器だったと言えるでしょう。

洋弓にも一応コンポジットボウやロングボウなど、射程や威力が高いタイプのものもありましたが、コンポジットボウは扱いが難しく、ロングボウは騎射ができないなどの欠点がありました。総合的に見ると、和弓は非常にバランスの良い兵器だったと言えそうです。

結論

武器全体を見てみると、「扱いやすさ重視の武士」「威力重視の騎士」と言えそうです。

高温多湿で起伏の多い日本の戦場では、必然的に動きやすい軽装兵が多くなります。そうなると斬撃と刺突で十分なダメージを与えられるため、打撃武器はそれほど発達しませんでした。また、屋内・森林・山地での戦闘を考えて扱いやすさが重視され、オーソドックスな武器が多くなります。相手を殺傷しない目的で僧兵が棍棒などを使っていますが、対重装歩兵向きではありません。

一方、平地が多く乾燥した気候の西洋では、動きにくくても防御力の高い重装歩兵が中心になってきます。すると、重装歩兵と戦うためにどうしても破壊力の高い武器が必要になったのです。軽装兵や弓兵が相手であれば確実に相手を無力化出来る斬撃が有効ですが、重装兵には通用しません。打撃武器に加え、ハルバードやランスのような威力の高い武器が発達しました。

武器だけを見ても武士と騎士の強さは比較できませんが、お互いが防具をつけていない前提で、且つ同系統の武器で比較するなら、「刀 VS ロングソード」「槍 VS ハルバード」「和弓 VS 洋弓」という形になるでしょうか?

どれも良い勝負をするのは間違いありませんが、防具をつけていないのであれば取り回しの良い武器を扱う武士が勝ちそうです。しかし、このように武器だけを比較しても意味がないの明らかです。次回以降、鎧や適応力なども比較していきましょう。

その2へ続く

モバイルバージョンを終了