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日本武士と西洋騎士の強さを徹底比較(5):総合比較、結果的にどっちが強い?

過去4回に渡って比較してきましたが、そろそろ武士と騎士はどっちが強いのかについての議論に決着をつけたいところです。しかし、比較するにしてもいろいろと条件を決めなければなりません。

互いに別の文化と目的の中で育ってきた存在であり、例えるなら飛行機と車のどちらが便利かという質問に近いです。この場合、海外に行くなら飛行機ですが、近場にいくなら車が便利という結果になるでしょう。武士の騎士の比較でも似たような問題がありますので、条件についてはかなり細かく精査していきます。

結果が比較的明らかなケース

細かく比較する前に、こんなケースなら結果は明らかだよね。というのを幾つか挙げていきたいと思います。どのケースでも、相手があまり想定しないような戦いになるため、フェアな戦いにはなりません。

攻城戦 → 騎士

まず、日本の建物は大半が木材で作られており、これは石垣を除けば城も同じです。一方で西洋は大半が石造りであり、圧倒的に堅牢に出来ています。さらに、西洋の攻城兵器は堅牢な城を破壊できるように様々な兵器が開発されており、破壊力もかなりものです。

武士と騎士が互いに攻城戦をやれば、勝つのはほぼ間違いなく騎士でしょう。ただし、日本の城が建物が木製なのは地震に対しての耐久力が高いからで、石造りの建物は地震に対して極めて脆弱です。日本で互いに城を作って勝負するとなれば、地震が来てから攻めれば武士が勝てそうですね。

ジョスト(馬上槍試合) → 騎士

離れた場所から騎馬に乗ってランスで突き合う形の一騎打ちです。この場合、馬の上から落ちた時点で負けという判定になるため、騎士は歩かない前提で一人で起き上がれないような分厚い鎧を着ています。

もし、この形式の一騎打ちをやろうなんて話になったら武士に勝ち目はありません。馬のサイズも違うし、槍や防具の威力も違います。いっその事、槍を投げれば良いんじゃないですかね。

居合い戦 → 武士

お互いに納刀した状態から刀を抜いて決闘する形の一騎打ちです。普通は初撃で決着がつきますが、決着がつかなければそのまま斬り合いが始まります。武士の刀は抜刀術に最適な形状になっており、抜刀速度や抜刀術においては武士の右に出るものはいません

鎧を着ていない状態ならもちろんのこと、鎧を着ていたとしても騎士はかなりの苦戦を強いられるでしょう。鎧を着ていると騎士の抜刀速度は大分遅くなりますので、初撃に耐えられても初撃で斬られる部位によっては大きなハンデを背負います。ロングソードで戦うのは少々厳しいでしょう。

一騎打ちの場合

強さを比較するなら、互いに最高の装備を整えた武士と騎士が一騎打ちをすれば良いはずです。もちろん、互いに武器の扱いに長けた達人が戦います。

リング上で一騎打ち → 騎士

剣道やフェンシングのようなイメージで、定められた場所で互いに鎧を着て自由に武器を持って戦います。相手を殺害したら勝ちとしましょう。飛び道具はナシです。武士は槍を両手に持ち、腰に刀の一択です。

騎士はハルバードにロングソードか、盾にハンマー系か迷うところですが、どのケースでも騎士が有利でしょう。仮に互いに両手剣のみだったとしても、騎士が有利と考えられます。どんな武器を選んだとしても、平地の狭い場所で戦うとなれば騎士は相手に専念できますし、大盾を持ってじわじわとコーナーに追い詰めて機動力を削ぐような戦い方も出来るでしょう。

武士の鎧に対して騎士の武器の大半が有効ですし、武士の刀や槍の完成度が高いとはいえ騎士の防御力は十分です。足場の心配もなく、逃げ場のないリング上では、最悪鎧や盾の重量を活かした体当たりで決着がつきかねません。そもそも、大盾で半身を隠してパイクで突かれたら手も足もでないでしょう。

一応、武士も装甲の隙間を狙った攻撃や槍による鋭い突きで騎士を倒すことが可能ですが、百戦やって勝ち越せるかと言われるとそれは難しいと言わざるを得ません。

広大なフィールドで一騎打ち → 武士

次は実践形式のなんでもありの一騎打ちを考えてみます。馬に乗っても良いですし、飛び道具もありです。場所は自然の中で、どこに行っても良いという形です。

すると、武士は弓騎兵を選択することになるでしょう。一方で、騎士は重騎兵となります。この場合、槍を持って突き進んでも逃げながら弓を放つ武士に中々追いつけません。最悪、馬をやられてなぶり殺しに合うでしょう。重騎兵と弓騎兵の戦いは弓騎兵が有利であることは歴史が証明しています。

フルプレートアーマーが弓で抜けるのかという話ですが、遠距離では抜けませんが十数メートル前後の距離であれば最も分厚い胸甲でも抜けるという実験結果があります。和弓による実験ではないので威力に優れる和弓であればより良い結果が出るでしょう。また、馬の鎧はそこまで分厚くないので馬を狙っても良いですし、弓で抜けないほど遠い距離から当てるのは難しいので抜けるかどうかの心配は必要なさそうです。

飛び道具を持つ相手に槍で向かっていくのは無謀ですので、重騎兵が弓やクロスボウを持って戦うというかなりアンバランスな選択もできます。しかし、正直フルプレートアーマーを着た状態でどれほど飛び道具を扱えるのか疑問ですし、そういう戦い方をしたという話も聞きません。軽装で撃ちあうとしても、騎射の技量で騎士が武士に勝てるか疑問です。

となると、思い切ってクロスボウを使うという賭けに出るのも良いかもしれません。走りながら装填が出来ませんが、当てやすく高威力なので技量の差は埋まります。ちなみに、射程の差が出るほどの距離ではまず当たらないのでこの場合は無視します。

また、馬や飛び道具を無しにしたとしても視界の悪いヘルメットを被ったまま足場の悪い場所に誘導されたら騎士は負けます。足場が見えるようにバイザーを外すのも良いですが、弱点を晒すことになるので極めて危険です。接近戦が出来れば勝機がありますが、リング上で戦った時ほどの差は出ないでしょう。

(次ページ: 軍隊同士の野戦を比較)

軍隊同士の野戦

戦術や戦費の比較もしているので、当然軍隊同士の決戦についても考える必要があります。そもそも、決闘重視で発達した騎士の装備と違って武士は戦争の中で発達していった装備です。一騎打ちばかりで比較するのはフェアではないでしょう。

条件についてですが、兵力だけを同じにして自由に戦うと騎士は重装騎兵だらけになり、武士は弓騎兵だらけになって一方的な戦いになるでしょう。戦闘開始と同時に武士が逃げながら弓を撃つ戦いは、モンゴル軽騎兵ならともかくあまり現実的ではありません。

そこで、戦費と兵力を揃えるような条件にして戦闘が行われるとしましょう。

騎士は戦費が高くつくため、軽装の下級兵士を入れないと数が少なくなります。同じ戦費でフル装備の武士と騎士を揃えた場合、経済的な装備を持つ武士が数の上で騎士に優るでしょう。いくら重装甲でも、数の不利を補えるほどの能力差はありません。

つまり、騎士側は戦力の中心になるフル装備の重騎兵に加えて、弓やパイクを扱う軽装歩兵や馬のない下馬騎士も編成される事になります。それに対して、武士側は戦費が同等になるようにフル装備の武士に足軽を交えて部隊を編成します。

ごちゃごちゃと説明しましたが、要するに「大規模な会戦を想定しつつ現実的な編成で戦う」ということです。

序盤 → 武士が有利

序盤は遠距離戦です。

矢の打ち合いでは武士が有利で、騎士側の弓兵や軽装歩兵には甚大な被害が出るでしょう。騎士側からの射撃でも武士は被害を被りますが、騎士側の弓兵は下級兵士であり、実質的には足軽と同程度の練度です。弓足軽だけではなく、弓武士も参加している武士側が射程と精度で上回ると見られます。

そして、ある程度接近した所で騎士側の重騎兵突撃が始まるでしょう。ちなみに、武士の方から騎士側に騎兵突撃を行うのは無謀です。応戦してくる重騎兵に勝てるとは思いませんし、突破してもパイク兵が待っています。

加えて、武士側は和弓による遠距離の撃ち合いが有利であり、可能な限り弓で戦力を削るのが得策です。一方、騎士側は和弓による攻撃を放っておくと、重装兵の被害が軽微でも軽装兵が削れられるので重騎兵による先制突撃が必要になります。いっそのこと重装弓兵などを編成すると良いのですが、そんな兵科は聞いたこともありませんし、接近する敵から逃げられなくなったり、動きにくくて精度が下がるリスクもあるので現実的ではないでしょう。

中盤 → 騎士が有利

中盤は騎兵が中心になる機動戦になるでしょう。

急速に接近してくる重騎兵部隊に対して、弓兵の攻撃はあまり当たりません。引きつけて射撃すれば当たるのですが、弓騎兵ならまだしも弓歩兵は接近されると壊滅します。当然、騎士の突撃が始まれば武士の弓歩兵は後退することになるでしょう。

これに対し、接近する重騎兵に対して武士は弓騎兵で接射して応戦しますが、騎士の重騎兵はより大規模で危険度の高い弓歩兵目指して突っ込んで来るため、弓騎兵だけでは十分な被害は与えられません。武士としてはこれを長槍隊で受けるわけですが、綺麗な陣形を組んで突撃されると防ぎきれません。勝機は薄くても武士も槍騎兵を投入して重騎兵の勢いを弱めるのが良いでしょう。

結果として槍騎兵部隊は粉砕されますが、重騎兵の陣形が崩れるため、槍衾を組んだ長槍隊によって重騎兵は甚大な被害を被ります。しかし、人馬共に重装甲を施した重騎兵は重量に任せて一定数は突破に成功するでしょう。

さらに、重騎兵に続く形で近接戦に特化した重装甲の下馬騎士隊も突っ込んできます。長槍隊は槍を打ち下ろす打撃戦法で応戦しますが、長槍は対騎兵・集団戦に特化した武器であり、重装甲歩兵との接近戦にはあまり向いていません。長い槍の内側に入られるとどうしようもないため、最終的には刀を抜いての接近戦になるでしょう。

終盤 → 互角

両軍入り乱れての接近戦が始まります。

長槍隊を突破した部隊に対し、武士は弓歩兵を槍歩兵で護衛しつつ弓騎兵で潰しにかかります。弓騎兵を無視して弓歩兵を目指す重騎兵ですが、「長槍隊による被害が深刻だった場合」は弓隊の護衛に入った槍隊に阻まれて弓兵に届きません。

長槍兵と戦っている下馬騎士は有利に戦況を進めますが、ここで武士側の増援として薙刀兵や槍兵が投入されます。ここで騎士側も弓兵の護衛に回っていたパイク兵などの軽装兵を投入し、歩兵同士の大規模な乱戦が始まるでしょう。大規模な乱戦では背後から攻撃される事も多くなり、下馬騎士の優位も薄れて互角の戦いになります。

この段階では勝敗はまだ分からないでしょう。

決着 → 武士?

勝敗を分けるポイントは「重騎兵を潰せたかどうか」にあるでしょう。

騎士側の重騎兵を潰せるのは弓騎兵と長槍兵のみです。長槍兵の槍衾よって重騎兵が大きな被害を被り、弓騎兵や槍兵で壊滅させられた場合は弓兵力に余裕の出た武士側が弓騎兵で戦力を削ったり、弓武士が抜刀して敵の背後に回りこむ事もできるでしょう。この場合は武士が勝ちます

逆に重騎兵が生存し、弓歩兵に突入されると弓歩兵は潰走しますし、そうでなくとも槍衾を突破した重騎兵が下馬騎士と連携すれば武士側に勝機はありません。

ただ、このケースでは玉砕覚悟で重騎兵を武士の槍騎兵で迎え撃ったため、陣形の崩れた重騎兵は槍衾によってかなり手痛い被害を被りました。槍衾を回避したとしても、大きく回りこむかUターンすることになるため、弓騎兵の格好の的になります。

最終的には、和弓によって敵の突撃を誘い弓騎兵で受けつつ槍衾で突撃を防いだ武士に有利な戦いとなるでしょう。

結論

圧倒的な防御力を誇るフルプレートアーマーを装備した騎士に対し、物量に加えて弓騎馬や長槍の選択肢がある武士が強い

という結論に至りました。

「え、さっきの戦いの結果だけで決まり? 全然、納得出来ないんだけど」
という方もいるでしょう。当然です。

戦い方なんて指揮官によって違いますし、そもそも和弓の性能を過剰評価している可能性も高いです。騎士側が突撃せずに耐える可能性もありますし、槍衾で重騎兵を防ぎきれない可能性もあります。

というか、騎兵は槍衾やパイク兵を避けるのが賢明ですので、先に下馬騎士で槍衾を崩してから突撃するのが理想でしょう。それならそれで武士側が槍騎兵で下馬騎士に突撃したり、弓騎兵で削ったりと考えられますが、まだまだ何がおこるか分かりません。

ですが、実を言うとこのシュミレーションにかかわらず「総合的に見て」武士が優れていると言える点がいくつかあります。

次回、今までの比較内容をまとめて考えていきますが、簡単に言ってしまえば騎士は特定の目的に尖り過ぎていました

 

その6へ続く

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