再生可能な自然エネルギーを使った発電方法は幾つかありますが、その中で最も古くから使われている方法が「水を使った発電」です。ダムを使った水力発電は原理もシンプルで分かりやすく、今でも世界中で使われています。
非常にシンプルな仕組みに見える水力発電ですが、環境を破壊しないようにしつつ効率よくエネルギーを得るための工夫がなされていることはあまり知られていません。水力発電に用いられている意外な工夫について解説していきましょう。
水を流して効率よくエネルギーを得る工夫
水力と言っても、水が石油や天然ガスのように高いエネルギーを持っているわけではありません。単純に水が重力で落下するエネルギーを電気に変えているだけです。言い換えると、「水が持っている位置エネルギー」を電力に変換していると言えるでしょう。
水力発電と一口に言っても色々な種類があるのですが、ここではオーソドックスなダムを使った発電を見ていきます。大きなダムを使わず、落差のある場所まで水路を作る方式もありますが、水を流して水車を回すという基本的な流れはどの水力発電でもさほど変わりません。
(水力発電の原理_イーレックス)
まず、ダムで河川などの水をせき止めるまでは説明する必要も無いでしょう。問題は貯めた水をどうやって電気に変えるかです。これを上から滝のように流してタービンを回しても良いのですが、それだと水が空気抵抗などを受けてしまい力が効率よくタービンに伝わりません。
水は素直に水道管(水圧管路)の中を通しましょう。
この時、取水口からゴミが入り込むと厄介です。大きな木の枝や金属製の廃棄物などが入り込むと、水道管が詰まったり、発電用の水車が壊れたりする恐れがあります。
そこで、スクリーンと呼ばれる異物を止める柵を用意して大きなゴミが入り込まないようにします。お風呂場の排水口に付いている網ようなものですね。ただ、お風呂場なら網に髪の毛が詰まるように、取水口に取り付けた柵にもゴミがたまります。これを指で摘む代わりに除塵機と呼ばれるクレーンのような機材で持ち上げ、外に廃棄することで取水口が詰まらないような工夫がなされています。かなり大掛かりな仕掛けですね。
写真はダムの取水口ではなく、水門の除塵機でしょうか。アームが下に伸びているのが分かります。このアームで持ち上げたゴミはベルトコンペアなどで運ばれて処理されるので、同じゴミが再び取水口に詰まることはありません。このように、除塵機とスクリーンのお陰で安心して水を取水口から取り込めます。
ただ、水を取り入れその落差を利用して発電するのは良いのですが、取水口をダムの高い場所に置くと水不足で水位が下がった時に発電できません。取水口は通常、やや低い位置で水を取り込むようになっています。落差を利用するのに低い位置から水を取り込むというのは不思議な話ですが、心配は要りません。
取水口が低い場所にあっても、上の方に溜まった水が下に向かって力を加えています。つまり、取水口が低く位置エネルギーが少なそうに見えたとしても、大きな水圧がかかっているので十分なエネルギーを得られるということです。水圧も重力によってかかっている圧力ですので、重力の力を利用していることに変わりありません。
これを少しずつ細くなっている丈夫な水道管(水圧管路)に通します。注射器をイメージしてもらうと分かりやすいのですが、空気でも水でも流体が細い場所に向かって進むと勢い(圧力)が増します。これを利用し、ただでさえ強い水圧のかかっている水の勢いをさらに加速させるのです。
ちなみに日本では使われていませんが、この水道管の壁面に緩やかなライフル上の螺旋刻みを入れることで水流に弾丸のような指向性を持たせる技術も海外で考案されています。1割程度は効率が上がるらしいですが本当でしょうか。
何はともあれ、こうして「もの凄い勢い」がついた水流は下図のような水車(タービン)に向かって噴射されます。
このタービンに水流をぶつけて回転させ、モーターを回して誘導電流を生み出す形で発電します。この水車には、上のようなジェットエンジンのような形状をした水車を使うのが一般的です。しかし、昔ながらの水車に似たタイプ(下図)を使うこともあります。
皿のようになっている部分の中央が割れているの特徴的です。これは水の勢いが凄まじいため、上手く水を逃がすための工夫です。また、場合によってはドリルのような変わった水車(下図)を使うケースもあります。
これは「螺旋状水車」と言います。この螺旋状水車は落差が小さく勢いがなくても十分な回転を生み出せるため、小さな水力発電施設(小水力発電)で使われる事があります。勢いが強いと逆に効率が悪くなるため、生み出せる水流の速度に合わせて水車を使い分けているのです。
小水力発電では他にも様々な発電方法が考案されており、変わった技術の宝庫と呼べるかもしれません。
(次ページ: 魚達と共存するために)
ダムの存在から魚を守るための工夫
ダムというのは水の流れを止めてしまうもの。完全に止めるわけではないので人間が困る事は殆どありませんが、魚は大いに困ります。
河川を遡上するにしろ、下降するにせよ、高速で回転する水車(タービン)を通れば確実に死にます。また、水車を通らない流路があったとしても、高低差が大きすぎれば遡上が難しくなったり、下降時に弱ってしまう可能性が考えられるでしょう。
ダムの存在で生態系が大きく変われば、魚はもちろん魚を食べている鳥類にも大きな影響が及びます。最終的には人間の周りにも影響が及ぶでしょう。ダムを作って川の流れをせき止めたとしても、自由に魚が行き来できるような方法を考えなければなりません。
そこで考案されたのが魚道です。
写真の奥にダムが見えますね。手前に映っているのが魚道になります。その名の通り、魚のために作られた緩やかな迂回路です。
変わった形状をしているのが分かるでしょう。階段のような形状をした水路の中央に小さな構造物があり、その左右に水の流れが見て取れます。実はこの中央の部分、人が歩くための階段などではなく、水の流れが滞留しているプール状の「休憩所」です。
左右を流れる水路は勢い良く下に落ちているので、遡上中に途中で力尽きればそのまま下に流されていきます。しかし、流れが止まっているエリアがあればそこでゆっくり休むことができるというわけです。滝登りを敢行する魚の中には途中で力尽きるものも多いですが、こういった魚道なら高齢の魚でも気軽に登れます。人間の心尽くしが感じられる魚道です。
こうした魚道はダムの上流と下流を結んでおり、魚達はダムの中を通らずに上流と下流を行き来することができるようになっています。ですが、魚道といういわば魚の「正規ルート」があるにも関わらず、ダムの内部に突入(迷走)してしまう魚も少なくありません。
排水口から入ってくる分には排水の勢いで追い出せるのですが、問題になるのは上流にある取水口です。取水口から入った魚は水圧管の中を高速で移動することになり、そのままの勢いで水車に衝突します。まず生きて帰れません。
取水口にはゴミ止めのスクリーンがついており、大きな魚は通れない一方で、まだ若い小さな魚はこれを通り抜けてしまいます。
これを何とかする必要があるのですが、取水口のスクリーンの目を細かくすると詰まりやすくなって除塵機によるゴミの除去がかなりの手間になりますし、魚が下降する時期だけ発電を止めると稼働効率が悪くなります。
この魚の迷走問題は非常に厄介な問題で、今までにも様々な対策が取られています。
取水口付近バイパスを用意し、取水口に入る前に別のルートに誘導するもの。取水口に目の細かなスクリーンを採用し、こまめに除塵機でゴミを除去するもの。水圧管の手前に目の細かなスクリーンを用意し、別ルートに移動させるもの。
などなど、多くの場合は複数の対策を講じて迷走を防いでいます。残念ながら完璧な方法とは言い切れず、一定数の若い魚が下降時に死亡しているようです。それでも未対策の状態に比べれば遥かにマシで、生態系を維持するには十分な成果が出ているといえるでしょう。
余談ですが、下図のような「ダム穴」は発電用の取水口とは別物です。
ここから取り込んだ水は基本的にはそのままダムの外に放水され、メインの発電には使われません。単純にダムの水位が限界を超えないようにするためのものです。当然、魚を止めるスクリーンなどはついていませんので、不運にも水面付近を泳いでいた魚は巻き込まれて落っこちることになるでしょう。
水位が限界近くまで上がった時なので常に存在する穴ではありませんが、見た目は恐ろしいですね。水面に水を取り込む穴が見えたら、それは水位を調節するための放水用の穴だと思って間違いありません。
さて、ダムの工夫についてはここで終わりです。今回ご紹介した水力発電(ダム式)の工夫は、実際に使われている工夫のほんの一部に過ぎません。長年使われている水力発電には他にも様々な技術が使われており、日々知らずに我々や魚達はその恩恵を受けています。
気になった方は、もう少し調べてみると意外な発見があるかもしれませんね。