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波力発電はバラエティに富んでいた!意外性のある変わった発電のしくみ-発電技術(2)

波力発電という発電方法があります。海の「波の力」を利用して発電するのですが、波の力をどう利用するのかイメージが掴めるでしょうか?潮の満ち引きを利用する「潮力発電」や海流を利用する「海流発電」とは違います。「波の力」ですので、潮の満ち引きで水位が変わるわけでもなければ、海流のように一定方向に進む水の流れがあるわけでもありません。波というのは水の振動です。単なる水の振動をどうやってエネルギーに変えるのでしょう?

実は、水力発電が水流で水車を回すだけなのに対し、「波力発電」の発電方法は非常にバラエティに富んでいます。波力発電とは一体どんな発電方法なのか、その仕組みと合わせて簡単にご紹介していきましょう。

振動水柱型波力発電

波力発電はまだまだ発展途上の発電方法ですが、その中で実用化されているものの一つが「振動水柱型波力発電」です。

なんとも堅苦しい名前ですが、「振動」は「波の上下運動」で「水柱」は「狭い空間で上下する海面と空気」と考えると分かりやすいでしょう。

この原理を簡潔に表現するなら、「波で空気を押したり引いたりしてタービンを回す発電法」です。

波によって海面が上下しますが、波打ち際などに上図のような大きな壁を作り効果的に波が上下するようにしましょう。そして、海面に大きな桶のようなものを被せて空気を密封するのです。お風呂場に張ったお湯の上で水桶を逆さまに被せた状態をイメージして下さい。被せた桶の上部に空気が通る小さな穴を空けましょう。すると、水面の上下に合わせて空気が出たり入ったりします。

なにやら変わった手法ですが再現するのは簡単です。ペットボトルを半分に切り、蓋を外した飲み口を上にして切り口を水面につけ、波を立てれば飲み口から空気が出入りするので同じ現象が起こります。水面に付けた部分に隙間があるとそこから空気が逃げてしまうので注意しましょう。

原理は簡単ですし、空気を使ってタービンを回すのでメンテンナンスが容易です。しかし、同じ体積で比較すると空気の運動エネルギーは水の運動エネルギーに比べてかなり少なく、波の力を十分に活かしているとは言えません。この方式の発電効率はあまり高く無いのです

越波型波力発電システム

「空気を使うと効率が悪いなら海水の移動を利用しよう!」ということで、「越波型波力発電」という方式も考えられました。

これは防波堤を超えて来た波を貯水池に蓄え、それを引波に合わせて海に戻す際にタービンを通すことで発電します。要するに、「壁を超えてきた波を一箇所に蓄え、それを水力発電の要領でタービンに流す」ということです。

この方式であれば、確かに同じ体積の空気を移動させるよりも効率は良くなりますが、防波堤を超えた波しか利用できない上に波が引いていく運動しか利用できていません。「振動水柱型」が波の上下運動の双方を利用していたのに比べると、電力に変えられるエネルギーが少ないです。

上図だと蓄えた海水を横方向に移動させていますが、海の真ん中に作って海水を下方向に流す方式も存在しています。

面白い発電方法ではあるのですが、扱える水の量が少ないことから実用レベルには達していません。

可動物体型波力発電

「発電は流体でタービンを回すもの」という発想から離れてみましょう。そこで生まれたのが「可動物体型波力発電」です。

これは今まで以上に分かりやすい発想でしょう。要するに、「可動式の物体を波にぶつけて動かして発電する」ということです。

上図では板状の物体を波に突っ込み、揺れるように動く板の動きから電力を作っています。ビート板を海に突っ込んで発電するようなもので、非常にシンプルな発電方法です。ビート板のような小さなものを動かしても仕方ないので、実際に発電する場合にはかなり大きな板を動かすことになるでしょう。

また、下図のように板ではなく水に浮くブイを使う方式も存在します。

水の底に沈める方式で船の邪魔にならず、景観も損ねないのが強みです。水の中に波があるのかと思うかもしれませんが、波の上下運動は海面だけではく水中にも存在します。お風呂で大きな波を立てれば、水中にも波の運動があることが分かるでしょう。ただし、海底に近づくにつれて波の力は弱まるため、海面の波を利用する場合に比べると効率は落ちます。

水に浮くブイを使えるので簡単そうに見えますが、上下運動するブイをエネルギーに変えるためにはワイヤーなどを底に繋いでブイの上下運動を発電装置に伝えなければなりません。

海面近くにブイを設置すると海底深くまで長いワイヤーが伸びることになり魚介類の活動の妨げになりますし、漁網などが絡まる原因になります。一方で海底深くにブイを置くと波の上下運動の力が弱まるため、効率が悪くなります。実用化も検討されていますが、波力発電の主力にするのは難しいかもしれません。

(次ページ: 実用化に成功した新しい波力発電)

Pelamis波力発電システム

  

「水に浮くブイを使うというアイデアは面白いけどワイヤーで底に固定する方法は使いたくない」

そこから生まれたのが「Pelamis波力発電」です。水に浮くブイは波の上下運動の影響をダイレクトに受けますが、問題は波の上下運動をどうやって発電装置に繋げるかです。

ブイの中に発電装置を入れても発電装置自身が上下運動しているので、そのままでは上手く運動エネルギーを利用できません。かと言って、海底に固定すると長いワイヤーの設置が課題になります。それを解決するアイデアが「一つ一つのブイを繋げる」ことでした。

  

多数のブイを波の方向に向けて繋げると、ブイは波に合わせてそれぞれ順番に上下運動をします。つまり、ブイの一つが上方向に動く時、他のブイは下方向に動いているということです。するとブイの繋ぎ目はクネクネと何度も上下に動くことになるため、この運動エネルギーを電力に変えます。

これは可動物体型波力発電の「振り子型」と「ブイ型」の利点を組み合わせたモデルと言えるでしょう。波の上下運動を浮力のあるブイで捉え、それを振り子型のようにクネクネとした動きに変えて電力を取り出すのです。

水中でも海面でも使える方式で、電線を長く伸ばせばどこにでも配置できます。既に欧米で実用化されて広く利用されるようになっており、次世代の波力発電の手法としてこれから広がっていくでしょう。

ジャイロ式波力発電

実は「Pelamis波力発電」以外に、全く新しい手法を使った「ジャイロ式波力発電」というものがあります。

これはジャイロ効果を利用して発電しているのですが、ジャイロ効果と言われてもなんだかよく分かりません。ジャイロ効果は原理の説明が少々難しいのですが、言ってみれば「物体が傾く力を利用して発電する」方式だと考えて下さい。

海面の波に船やブイを浮かせれば、波の力で船やブイはゆらゆらと傾きます。この傾きに合わせて効率よく動く物体があれば、それで発電ができそうです。発想としては可動物体式に似ていますが、可動物体式は波の動きそのものを利用しているのに対し、ジャイロ式では「傾く力そのものをエネルギーに変えて」います。

まず、下の動画の0:19秒あたりを見て下さい。

傾きに合わせて中の機械が綺麗に回転しているのが分かります。

これだけを見ると「中の機械が綺麗に回転するように人間が傾けている」ように思われますが、実は「傾きに合わせて機械が綺麗に回転するように機械に取り付けられた円盤が回転している」のです。

これだけでは意味が分からないと思うので、まずは「地面を転がるコイン」をイメージして下さい。

地面を転がるコインはすぐには倒れず、円を書くようにくるくると周るはずです。しかし、コインの転がる速度が遅くなるにつれてどんどん傾きは強くなっていき、最後にはパタリと倒れて止まります。さて、転がるコインが中々倒れずにくるくると回転するのは「ジャイロ効果」によるものだというのは聞いたことあるのではないでしょうか。

回転する物体が傾くと、ジャイロ効果によって傾きを打ち消すような向きに力がかかります。コインの場合はコインの端が地面に接しているので円を描きましたが、空中に浮いていた場合にはその場でくるくると周ります。コマと同じ要領です。つまり、傾きを打ち消すためにコインはくるくると回っていたわけです。

さて、「傾きが生まれる」と「傾きを打ち消す力が生まれる」のであれば、常に傾き続ければ常に力が生まれるということになります。しかし、傾きを打ち消してしまうのがジャイロ効果ですので、ずっと同じ方向に傾いていては効率的に力を作り出せません。

そこで海の波を考えてみて下さい。波は常に上下に動き、海面に浮く物体に傾きを与えています。そして、この傾きを回転(自転)する物体に与えると、ジャイロ効果によって傾きを打ち消す向きに力が生じ、くるくると回り出します。

色々な場所が回っているのでややこしいですが、お盆の上で傾いてくるくると回るコインがずっと転がり続けられるようにお盆を傾けるイメージ(実際にやると難しい)で良いでしょう。海の場合はお盆と違って波で作る傾きをコントロールできませんので、コインの転がる速度(自転する速度)を変えています

自転する速度が変われば傾きを打ち消すために生まれる力が変わります。打ち消す力(回転速度)と傾きの力は同調させなければなりませんが、傾きがコントロールできないのであれば、回転速度をコントロールすれば良いのです。こうして内部の機械が回転する力を常に生み出し続け、モーターを回して発電します。

ジャイロ効果を生み出すためには回転盤を回す(コインを自転させる)エネルギーが必要ですが、ジャイロ効果によって生まれるエネルギー(機械自身が回る力)はそれ以上ですので十分なエネルギーを作れます。

なにやら難しそうな発電方式ですが、こちらも既に実用化されています。

まとめ

ここまで5つの方式を説明してきましたが、波力発電の方式は本当にバラエティに富んでいることが分かります。これだけあれば日本にピッタリ合うものを見つけられそうですが、波力発電に力を入れているのは日本ではなく欧州です。

日本は海に囲まれているものの波力(波の高さや振動数)が小さく、波力発電によって作れるエネルギーが欧州に比べると小さいのです。一方で英国周辺の海は大きな波力を保有しており、波力発電に最適です。結果的に英国は世界で最も波力発電に注力している国となり、投資も盛んに行われています。

残念ながら日本では流行らなさそうですが、こうした発電方式もあるということは知っておいても損はありませんね。

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