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人工知能に仕事を奪われる人ほどスキルを習得したがらない

AIが人間の雇用を奪うとする「技術失業」に関する議論がこの数年で活発になっています。論調は研究者によってさまざまで、ほとんど全ての仕事がAIとオートメーションに取って代わられるとするものから、それほど大した影響はないとするものまで百家争鳴の様相を呈しています。

今後どうなるかについては確かにかなりの不確かさがあります。しかし、今後は人間の仕事にAIが深くまで浸透してくることは確かでしょう。そしてAIの普及は経済的にも大きなインパクトとなることが予想され、これからの経済戦略を考える上で外せないピースとなっています。

AIと雇用について、今後日本では何が課題となってくるのか、本記事ではそれを見ていきます。

AIと雇用に関する期待と不安

AI技術と雇用の関係を調査した報告書は数多く存在します。

例えば2016年世界経済フォーラムで発表された「The Future of Jobs」の報告書では、2015~2020年までの5年間に15の国と地域において技術進歩に伴う雇用の喪失数と新規雇用の創出数が算定されています。AIとオートメーションの普及に伴い、事務職などいわゆるホワイトカラー業種と製造業を中心に710万人分の雇用が失われること、一方ビジネスマネジメントや金融、コンピューターや数学、建築や工学分野で200万人の雇用が新規に創出されると予想されています。

コンサルティング会社のPwCが2017年に発表した調査では、2030年までにAIとオートメーションで失業リスクがある労働人口はイギリス全体で30%に上るという予想がなされました。内訳は運送業・倉庫業界56%、製造業46%、小売業44%の割合となっていますが、これは失業リスクがあるという予想に留まっており、必ずしもこれだけの割合で失業が起こるとは限らないとしています。

アメリカに目を向けてみると、フォレスター・リサーチの調査では、2025年までにAIやオートメーションの普及でアメリカ全体の16%が失われ、新たに9%分の雇用が創出されるだろうという結果が出ています。

予想通りになれば、差し引きで全体の7%が失業というシナリオです。雇用喪失が最も早く起きるとみられるのはホワイトカラー層。一方でAI技術職やコンテンツキュレーションなどの分野で新たな雇用が創出されると予想されています。

日本での調査

日本では2017年に三菱総研が同様の試算を行っています。それによると2030年までにAIとオートメーションの普及で、

が起こると予想されています。

差し引いて240万人分の職が失われることになりますが、これを労働人口全体で見た場合、どうなるのでしょうか。

厚生労働省によると、2030年時点での労働人口は5584万人~6180万人ほどと推定されています。

三菱総研の調査と照らし合わせると、2030年には総労働人口全体の約12%が職を失い、8%分の雇用が創出されることになります。

もしも失職した人の再雇用が十分に行われれば、総計として失業者の割合は全体の4%にとどまるという計算になります。

総務省発行の『情報通信白書平成28年度版』では、今後のAI活用は日本の労働人口不足を補うための方法になるとして、積極的な普及が推奨されています。

その根拠としては、AIの普及で減少するのは雇用そのものではなく仕事のタスク量であること、そして新たにAI関連の新製品・新サービス開発で雇用が創出されることが挙げられています。

ここから伺えるのは、AIに触れる機会のある業務がどんどん増えていくということでしょう。

おそらく今すべきことは、AI技術について知識のある人員養成、また「AIリテラシー」とでも呼ぶべき、AI技術や活用についての基礎知識をまず周知させること。その後AI技術が社会に普及してきた頃に、それらを学んだ人たちがAIを活用した新しい仕事に対応していく、というシナリオが理想的な流れでしょうか。

就業者のスキル習得意欲の低さ

ところが『情報通信白書平成28年度版』を見ると、そのシナリオ実現の妨げになりかねない調査結果が記載されています。

同白書の第1部4節には、必要とされるスキルの変化と求められる教育・人材育成のあり方と第された箇所があります。ここには、「ICTの変化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」という別の研究報告からの抜粋が載せられています。

この調査は日本と米国の就労者それぞれ1000人ずつを対象に、今後自分が習得したい人工知能活用スキル、また自分の子どもに習得させたい人工知能活用スキルにはどのようなものがあるかについてのアンケート調査です。

ここからうかがえるのは、日本の就労者のスキル習得意欲の低さです。

グラフを見ると、「特に習得したい/させたいスキルはない」と答えた割合が実に40%近くに上っているのがわかります。

白書内では言及されていませんが、元となる研究発表では対象者の1000人の内訳とそれぞれのグループの回答率が別々に表記されています。

対象となった1000人は、人工知能に代替される可能性が高い職業(事務員や運転手等)と低い職業(医師や教師、システムエンジニア等)の2グループから500人ずつ選出。両グループの回答比率を見ると、なんと人工知能に代替される可能性が高い職業のグループの方がスキル習得意欲が低いという結果が出ているのです。

AI関連の知識やスキルの習得が進まなければ、技術の普及の妨げになりかねません。ところがAI技術の導入が遅れれば人手不足は解消されず、今後AI導入を進めてくる諸外国と比べた国際競争力も相対的に下がってくることが予想されます。国際競争力が下がれば経済状態は悪化するでしょう。

総務省の想定ではAIの早期普及が国際競争力を押し上げ、それにより雇用も増大すると見込んでいますが、そこが崩れ去ってしまいます。

国内の就労者のスキル開発以前の、学習の重要性についての啓発が急務なのは間違いないでしょう。

もちろん、個人に対する啓発も重要ですが、人工知能の利用環境整備に向けた組織的な動きも重要になってきます。例えばリクルートホールディングスの対応としては、まずは人工知能の専門家を業務に当たらせる、次に専門家の人数を増やし、各部署に配置してのコワークを進める、最後にシステム化を行うことで、社員全員が人工知能を使える環境を構築するという3段階の組織改革を進めています。

同研究発表での有識者調査では、AI実用化と導入を進める政策を取るべきとする意見が過半数を占めるなど、企業や政府の取り組みの重要性もこれから増してくることでしょう。

AIが人間の仕事を奪うかどうかそれ自体については様々な研究が発表され、統一した見解というものは存在していません。
しかしだからこそ楽観論に飛びつかず、個人個人が一定程度AIの知識習得や活用アイデアの案出に努め、政府や企業主導のリソースを最大限に活用していくことが、AIと人間のよりよい未来に向けて重要になってくるのではないでしょうか。

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