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石炭が未来の燃料に? 技術の進歩で注目される安価で豊富な化石資源

石炭についてどのようなイメージをお持ちでしょう?

黒い塊、煤が出る、古くさい燃料で、石油にとって替わられた……等々、身近な燃料として石油が普及しきった現代にあっては、もう過去の物という印象があってもおかしくないかもしれません。

ところが実は、石炭は今でも世界各地で広く使われているのです。それどころか、少なくとも日本では、10年先になっても相当の需要が見込まれる燃料なのです。

この記事では、石炭そのものについて、エネルギー資源としての立ち位置について、そして今後の石炭産業が乗り越えるべき技術的ハードルについて解説していきます。

そもそも石炭とはなにか?

石炭とはそもそも何なのでしょうか?

一言で言えば、地中に埋もれて数億年かけて変質した植物の化石です。

枯れて倒れた樹木や植物はふつう菌類や微生物が分解してしまい、石炭にはなりません。しかし湿原や湿地では、倒れた植物は酸素の少ない水中に沈んでしまいます。酸素がないため微生物の活動が抑えられ、分解されずに残った組織が石炭へと変化していくのです。

また、古生代の石炭紀と呼ばれる時代には樹木の繊維を分解できる菌類が少なかったため、当時の巨大な木々の多くが形をとどめて地中に埋もれました。そのため石炭紀の地層からは大量の石炭が採掘できるのです。

そうして埋もれた植物の組織は、圧力を受けながら地熱によって熱せられ、長い時間をかけて変化していきます。

植物を構成する繊維は主に炭素、酸素、水素から構成されますが、圧力と熱を受けて酸素と水素がだんだんと減小します。そうして炭素の割合が83~90%まで上がったものが、一般に石炭と呼ばれるものなのです。

エネルギー資源としての石炭

石炭が燃料として広く使われるようになったのは、18世紀の産業革命がきっかけです。

産業革命当初は、まだまだ薪や木炭が主流の燃料でした。薪や木炭は木を切った分植樹して森林資源を回復させるところまでワンセットで活用していましたが、工業が大規模化した結果、森林資源の回復が追いつかなくなるほどに燃料消費量が増大したのです。

ここで、工業用燃料として石炭が注目されました。

さらに時代が進んで蒸気機関が普及し、石炭を蒸し焼きにして作られるコークスを活用した製鉄技術が確立してからは、石炭は工業に欠かせない存在となったのです。

しかし20世紀に入ると、石炭の地位は石油に脅かされるようになります。

各地で油田の開発が進み、石油が安く手に入るようになると、1)石炭より運びやすい、2)発熱量が高い、3)煙が出ないといった利点のある石油が産業の主役へと躍り出たのです。1910年代からは各国の軍艦の燃料が石油に切り替えられ、1940年代には蒸気機関車に替わるディーゼル機関車の運用がアメリカで本格化。日本を見ても、1970年頃には火力発電用燃料の約70%が石油という状況でした。

この石油一強状態は、オイルショックを経た1980年代に突然覆ります。

日本は工業・発電用燃料としての石油の割合を減らし、燃料内訳の多様化を推進。こうした流れの中、石炭に再びスポットが当てられるようになりました。

その理由は、低価格と安定供給です。

ペルシャ湾岸のわずか6カ国の産油国が原油価格引き上げを発表したことで起きた第1次オイルショック、そしてイランの政情不安が原因となった第2次オイルショックは、いずれも石油の主要な生産地域が中東に偏っていたことが遠因となりました。オイルショックは石油価格の高騰だけでなく、一部地域の事情で価格が大きく変動してしまう石油に依存することへの危機感を呼び起こす結果となったのです

一方の石炭は、世界各地である程度均等に算出されることに加えて、石油より埋蔵量が多い燃料です。こうした特徴が低価格と供給の安定につながり、石油よりも安価でリスクの少ない燃料として見直されるきっかけとなりました

今後求められる技術革新

こうして復権した石炭は、今でも日本で多く使われています。

日本のエネルギー生産は2015年度時点で、約31%を石炭に依存。経済産業省が平成27年に策定した長期エネルギー供給見通しによると、今後は化石燃料依存を減らして再生可能エネルギーの割合を増やすことが計画されていますが、それでも2030年時点で発電量に占める石炭の割合は26%となる見込みです。

しかし石炭には、石油よりもCO2排出量が多いというデメリットがあります。

日本がパリ協定に批准し、排出量削減が叫ばれる現状で、このデメリットは無視できるものではありません。

そこで、石炭発電の高効率化とCO2排出量削減に向けて様々な技術開発が進んでいます。今後有望とされるものとしては、IGCC(Integrated gasification combined cycle、石炭ガス化複合発電)とケミカルルーピング燃焼(Chemical Looping Combustion)があります。

石炭をガスに変えるIGCC

IGCCとは一口に言えば、「石炭を天然ガスのように使うための技術」と言えます。

天然ガスはガスを燃やしてガスタービンを回し、続いてその排熱を利用して水を沸騰させ蒸気タービンを回すことで、無駄なく2段階の発電を行うことができます。

これをコンバインドサイクル発電と言いますが、IGCCは石炭でコンバインドサイクル発電を実現するための技術なのです。

石炭は微細な粉末にした上で加熱すると、メタンガスと炭素分子とに分解されます。その炭素分子が酸素と反応して一酸化炭素になり、メタンガスは酸素や水蒸気と反応して一酸化炭素と水素を発生させます。この反応を持続させると、やがて水素と一酸化炭素を多く含む燃料ガスが完成します。

こうするとコンバインドサイクルによる高効率の発電が可能なだけでなく、石炭ガス製造時にCO2を分離回収することで排出量削減にもつながります

さらに、石炭をガス化させる過程で発生する水素を利用した燃料電池による発電も複合させたIGFC(Integrated gasification fuel cell cycle、石炭ガス化燃料電池複合発電)という技術も現在開発が進んでいます。前述のコンバインドサイクル発電に燃料電池を加えた3段階の発電で、さらなる高効率化が期待されています。

日本では2013年から、IGCCを導入した勿来発電所10号機が商用稼働を開始。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるIGFCの実証プロジェクトが現在進行中です。

CO2排出量を減らすケミカルルーピング燃焼

火力発電所ではCO2排出を削減するため、燃料を燃やして出るCO2が大気中に放たれないよう回収して隔離しています。

しかし空気中には酸素以外の気体が混ざっているので、空気中で燃料を燃やして発生した煙にはCO2以外の窒素酸化物などが多く含まれます。CO2排出量削減を効果的に行うためには、そうした不純物からCO2だけを効率よく分離・回収するための技術が必要となるのです。

ケミカルルーピング燃焼は、「酸素しかない環境で燃料を燃やせば、燃えて出てくるのは大部分がCO2になって回収が簡単になる」という、いわば逆転の発想が元になっています。

そんな条件をどうやってクリアするのでしょう?

その鍵となるのは酸化金属、つまり錆びた金属です。

錆びた金属は、金属原子に酸素原子が結びついた状態です。ケミカルルーピング燃焼は錆びた金属がもつ酸素原子を利用して燃料を燃やし、残った金属を別の炉に戻して再び酸化させるループを作り出すことで継続的に燃料を燃やし続けるものです

こうすれば、燃料を燃やして出る煙の大部分はCO2と水蒸気だけになります。水蒸気は温度が下がれば水滴になって落ちてくるので、残りはほぼ純粋なCO2だけの気体となり、回収が非常に楽になるというわけです。

オハイオ州立大学は酸化鉄を使用することで、水蒸気から水素を作ることもできる試験用の石炭ガス発電機を開発。従来の火力発電装置より10~20%効率が上がっただけでなくCO2の100%回収に成功しました。石炭ガスを使ってのコンバインドサイクル発電に加え、鉄と水蒸気が反応してできる水素を使って燃料電池を使った発電も追加で行うことができるのです。

ここで見てきたように、近代産業の黎明期から使われてきた石炭は、今でも意外と身近で活躍しているのです。

自然エネルギーの活用が増えていくこれからの時代でも、石炭は一定量使われ続けることでしょう。これからも高効率化と排出量削減を目指し、絶え間ない技術革新が続いていくのです。

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