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虫を食べない?食虫植物の不思議な共生関係の秘密

動物同士、あるいは植物と共生する動物がいます。ディズニー映画『ファインディング・ニモ』でも描かれたクマノミとイソギンチャクのように、生存率を上げるための戦略として自然界ではたびたび見られます。

そうした事例を見ていくと、虫を捕まえて「食べる」食虫植物の中にも、虫や哺乳類と共生する種類が見つかります。特にウツボカズラという食虫植物は、さまざまな種類の生き物と共生する例が見つかっている、いわば代表格。

この記事では、他の生き物と共生するウツボカズラについて見ていきましょう。

2023年7月22日加筆

哺乳類コモンツパイとの共生

まずはひとつ例を挙げてみましょう。

ボルネオの高山に住むシビンウツボカズラは、そこに棲息するコモンツパイという哺乳類と共生関係にあります。

ツパイとは、原始的な姿形を残した哺乳類の一種。リスのようでリスではない、ネズミのようでネズミではない、木の上に住んで昆虫や果実を食べる生き物です。

(出典:東京ズーネット

まずシビンウツボカズラは蜜を蓄え、コモンツパイを誘い出します。そして蜜に誘われたコモンツパイはその近くでフンをしていきます
動物のフンに含まれる窒素は植物の栄養源。この場合はお互い相手に食べものを与え合っている関係ができているのです。

コモンツパイは甘い蜜が飲めて、ウツボカズラの方は成長に欠かせない栄養素を得られる、まさにウィンウィンの関係で、これは双利共生と呼ばれます。

なぜ虫を食べ、なぜ共生するのか

植物でありながら、どうして虫を捕まえるものが存在するのか。そして虫を捕まえられる食虫植物が、なぜ他の生き物と共生するのでしょうか。

食虫植物がわざわざ虫を捕るのは、そもそも土の栄養が少ないから

土の栄養素は微生物のはたらきによって蓄えられます。地上に落ちた木の葉や生き物の死骸は土の中の微生物によって、窒素やリンなどの物質にまで分解されます。それが土の中に蓄えられることで栄養のある土ができあがるのです。

ところが食虫植物の多くは、沼地のように土が水につかった場所に生息します。水につかった土では微生物の働きが鈍く、したがって土に栄養がたまりにくくなります。そのため普通の植物のように根を使って土から栄養を得るのは効率が悪く、生き残る上では不利になります。

そのような環境では微生物による分解をすっ飛ばし、虫を自分で捕まえて直接栄養を取る植物が栄えました。これがすなわち食虫植物です。

虫を捕るという行動は、もともとできた方法で栄養を取れない環境に適応した結果。共生行動を取る食虫植物も、同じ論理で進化したものです。

先に書いたシビンウツボカズラの例を見てみましょう。この種の生息地は虫の少ないボルネオの高山地帯。土から栄養を取れないのに、さらに虫も捕れない過酷な場所です。

そんな中で虫だけを待ち続けるよりは、新しい別の生き物からも食料を得た方が最終的に得をすることから、共生関係ができる種が栄えたのです。

ボルネオには他にも、さまざまな生き物と共生するウツボカズラが存在します。バリエーション豊かなウツボカズラの世界を少しのぞいてみましょう。

コウモリのフンを食べる共生

Hardwicke’s woolly batというコウモリは、ネペンテス・ヘムスレヤナというウツボカズラを寝床として使います。中で寝ようと入ってきたコウモリはそこにフンを落としますが、これもコモンツパイの例と同じで、ウツボカズラの貴重な栄養源なのです。

興味深いのは、ウツボカズラの方がコウモリを呼び寄せている点。

(出典:Merlin Tuttle’s Bat Conservation

コウモリは超音波を放ち、その反射を聞き取ることで周りの状況を察知する生き物です。

このウツボカズラは独自の形状に進化しており、反射した超音波からコウモリが「快適な寝床だ」とわかるようになっているのです。ウツボカズラ自体は動けないながら、このように独特な自己アピールでコウモリを呼び寄せているのです。

アリに掃除を任せる共生

食虫植物と虫が同居するという不思議な事例です。

C. schmitziというアリはネペンテス・ビカルカラタという種類のウツボカズラの蔓の中に巣を作りますが、なんと巣を作ったウツボカズラの消化液の中を泳ぎ、そこに落ちた虫や草の蜜を食料として集めるのです。

不思議なことに、このアリを住まわせているウツボカズラは大きく育つことが知られていました。

実際に調査してみたところ、このアリはウツボカズラの「掃除」を行うことで、栄養の摂取効率を上げていることがわかったのです。

実はこのアリの他にもウツボカズラの中に住む虫がいます。現地に棲息する蚊やハエの一種は幼虫時代をウツボカズラの消化液の中で過ごしますが、その蚊は成虫になると飛び立っていってしまいます。これはウツボカズラにとっては獲物を逃がしたのと同然。

C. schmitziはそうした蚊やハエを狩って暮らしていますが、必ずしも狩った獲物を全て食べきれるわけではありません。アリの食べ残しの死骸やフンは栄養となるため、ウツボカズラの栄養状態改善につながっていたと結論づけられたのです。

クモの食べ残しを頂く共生

これは、カニグモと呼ばれるクモの一種がウツボカズラと共生する事例です。

これは上記のアリと同じく、ウツボカズラの内部に潜んで暮らす例。ある調査によってウツボカズラとの共生関係について詳しいことがわかっています。

研究では、2種類のカニグモについて実験を行いました。調査の結果、カニグモは近くを飛ぶハエを捕まえ、その食べ残しをウツボカズラの内部に捨てていくことで結果的にウツボカズラに栄養を与えていることがわかったのです。

まとめ

植物でありながら虫を捕まえるという、驚きの行動を進化させた食虫植物。それは元々の植物が、過酷な環境に適応した結果でした。

では、より過酷な環境に置かれた食虫植物は? その結果が、他の虫や動物と共生するという、さらなる驚きの進化を経た食虫植物の発生だったのです。

このようにユニークな食虫植物ですが、いま起きている気候変動や土地開発などの影響で、世界の食虫植物の約1/4が絶滅の危機に瀕しています。

ここで紹介したように動物と共生しているような食虫植物がいなくなってしまえば、当然動物の暮らしにも影響が出てきます。やがては周辺の生態系全体に影響が出ることでしょう。

こうした状況を受け、国際食虫植物協会は複数の保全プロジェクトを推進しています。このほかにも、地域レベルでの保全運動や啓発運動も行われています。

こうした努力が功を奏し、遠い未来にもこのようにユニークな植物を目にすることができれば素晴らしいことですね。

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