1960年当時、石油の「可採年数」は40年間ほどだといわれていました。可採年数というと、「あとどれだけ取れるか」を表した数字のように思えます。そこから50年ほど経った2013年のデータを見ると、石油の可採年数は53.3年となっています。なくなるどころか、可採年数は延びています。
何十年も前から「石油はあと〇〇年でなくなる」ということが言われ続けてきましたが、2013年から数えても、石油は今後しばらく足りそうに思えます。このズレは一体何が原因なのでしょうか?
それを理解するためには、「可採年数」という用語の意味を理解する必要があります。この記事では、石油の残量を表すため使われる埋蔵量と可採年数という言葉について解説し、アメリカの事例を参照しながらそれぞれの数字の関連性をみていきます。
用語の解説
「石油はあと○○年でなくなる」の誤解を解消するには、用語の確認が不可欠。
一番重要になるのが、埋蔵量と可採年数という言葉です。
埋蔵量
最初に理解しておくべきは埋蔵量という言葉。これは地球にある石油の量ではなく、見つかっていて、かつ掘り出せば儲けが出る石油の量を指しています。
新しい油田が見つかっただけでは埋蔵量が増えません。その油田から石油を取ることが技術的に可能であり、かつ掘り出して利益が出るという状況になって初めて埋蔵量が増えるのです。
例えば、今の技術では掘り返せないような岩盤の下にある油田、あるいは採掘設備が届かないほど海底深くにある油田は採掘することができないため、たとえ発見されたとしても埋蔵量にはプラスされないことになります。
さらに、埋蔵量の数字は原油価格によっても変動します。
さっきの定義を思い出してください。技術的に可能であり、かつ掘り出して利益が出る石油だけが埋蔵量にカウントされるのです。
たとえば、ある年に50ドルかけて掘り出した分の原油が70ドルで売れたとします。その年は20ドルのもうけが出るので、この油田にある分の石油は埋蔵量としてカウントされます。
その次の年に原油価格が下がってしまい、50ドルかけて掘っても売値が40ドルにしかならない計算になったとします。見ての通りこれでは赤字で、埋蔵量の条件を満たしてはいません。ということで、この油田の石油は埋蔵量にはカウントされなくなります。
可採年数
可採年数とは、埋蔵量を年間生産量で割った数字です。
埋蔵量がいろいろな要因で変動することは上に書いてありますが、それにともなって可採年数も変動していきます。
可採年数 | |
埋蔵量+ | 増える |
埋蔵量ー | 減る |
年間生産量+ | 減る |
年間生産量ー | 増える |
ここからは、2010年前後から埋蔵量と生産量が大きく変わったアメリカを例に、実際に埋蔵量と可採年数が移り変わる様子をみていきましょう。
アメリカのタイトオイル開発
意外に思う人もいるかもしれませんが、現在世界一の産油国はアメリカなのです。
アメリカの原油産出量はこの10年ほどで急伸。それを支えたのは、シェールと呼ばれる堆積岩の中から取れるタイトガスと呼ばれる原油の開発です。
アメリカのタイトガス産地のひとつは、バッケン頁岩層と呼ばれる地層です。
バッケン頁岩層が発掘されたのは1952年のこと。実はそこに石油があることは当時からわかっていました。しかし当時の技術では採掘コストがかかりすぎ、たとえ掘っても採算が取れなかったのです。
発見されても採算がとれないので、埋蔵量の定義に照らし合わせるとこの段階ではプラスマイナスゼロとなります。
そこから時を経た2000年代後半になると、採掘技術の進歩によってタイトガス採掘コストが抑えられるようになりました。この頃になると利益を出す見込みが出てきたので、2006~7年を境に、アメリカの各地にある頁岩層で油田が作られ始めます。
バッケン頁岩が蓄えていた石油は、ここでようやく埋蔵量としてカウントされます
2011年時点での計算によれば、そのその量はおよそ20億バレル。当時のアメリカの年間原油生産量のおよそ1年分に相当する量です。
バッケン頁岩の開発が始まった頃は、アメリカの原油生産量の伸びがまだ穏やかでした。年間生産量がこれまでと変わらず、埋蔵量がそれと同じだけ増えたということは、バッケン頁岩の蓄えた石油が埋蔵量にカウントされただけで可採年数がまる1年伸びたことになります。
これ以降アメリカでは各地でタイトオイルの開発が進められ、10年ほどで国内の埋蔵量はほぼ倍増します。これは当時日本でもシェールオイル革命として話題になり、タイトオイルはこのアメリカのエネルギー戦略の要となったのです。
2006年時点でアメリカの原油埋蔵量はおよそ210億バレル、年間採掘量はおよそ20億バレル。2017年時点での採掘量はおよそ34億バレルで、埋蔵量はおよそ391億バレル。
これをもとにして可採年数を計算すると、どちらもおよそ10年という結果になります。10年の可採年数が10年経ってもそのままという不思議な状況ですが、埋蔵量と採掘量の計算を当てはめると間違いではないのです。
まとめ
原油はあと○○年取れるという言葉も、最近は以前ほど聞かれなくなりました。
石油の生産量が増えていること、また代替エネルギーの開発が進んでいることが関係しているのはもちろんでしょう。しかしそれだけではなく、この言葉の裏には少し複雑な技術的、経済的概念が関係しており、シンプルな言い方ではその実態を見誤るという状況もあるように思われます。