『スター・ウォーズ』以降、映像作品やポップカルチャー、そして一般に広く知れ渡るようになったのが「空間内に飛び出す映像」。平面のスクリーンではなく、空間内に立体的な映像が投影される場面は、今でもよく知られている場面のひとつです。
そこから40年以上が経った2020年の現在、立体や奥行きの要素を備えた映像表現はさまざまな形で実現され、発展を続けています。
VRは今や広く知られた用語となっていますし、空中に映像が浮かんで見える3Dホログラムや、立体物の面に正確に映像を投影するプロジェクションマッピングを使った表現はさまざまなイベントに使われています。
立体的な要素を組み合わせた映像という点で共通しているこの3者ですが、具体的には何がどう異なるのでしょうか。本記事では、それぞれの技術の違いをそれぞれ見ていきましょう。
2023年7月29日加筆
立体的に見えるとは?
人間が物体を見て「立体的に見える」と感じる理由は大きく分けて2つ。
1つ目は、左右の目で微妙に違う映像を見る「視差」があるケース。テレビや写真は平面なので左右の目で見ても同じものが見えますが、現実世界の立体物は見る角度が違えば少し違って見えます。この場合、人間の目は実際に立体物を見ている時と同じ情報を得ています。
2つ目は、現実世界の「背景」が映像の背後に見えたり、左右に回り込めば物体の「左側」や「右側」が見えたりすることで、映像が浮かび上がって見えるケース。実際には平面の映像を見ているにも関わらず、ある種の先入観のようなものが働いて立体的だと感じています。
どちらのケースでも立体物を見ているわけではないのですが、人間の目や脳を上手に勘違いさせることで映像を立体的に見せています。
ホログラムと疑似ホログラム
立体映像といえば「ホログラム」という単語が思い浮かぶでしょう。ただ、ホログラムを使った技術について説明する前に、最初に用語そのものを解説する必要があります。
ホログラムという用語には、この記事で解説するような空中に浮かぶ映像全般を指す場合と、光のもつ3次元情報を保存した図像を指す場合とがあり、本来は後者を指す用語として作られました。
光の3次元情報とは強度(明るさ)、波長(色)、そして位相のこと。写真には強度と波長の情報だけが記録されており、位相の情報は記録されていません。位相は光の位置情報のようなもので、この情報が失われてしまうと3次元映像は作れません。
ところが「ホログラフィー」という技術を利用すると、位相に関する情報まで保存した上で、再生時にその位相の情報を駆使して本物の立体物と同じように、見る角度によって見え方の違う光を作ることができます。これによって見える像が「ホログラム」です。
かなり高度な技術なのですが、使い方によっては特定の角度からしか見えない映像を作ることもできます。それがお札のホログラムです。見る角度によって見え方が違い、特定の角度から見るとキラキラとした像が浮かび上がります。
ここから転じて映像を立体的に投影する技法全般がホログラムと呼ばれる様になりました。場合によってはホログラフィー技術を使った像を狭義のホログラム、それ以外のものを疑似ホログラムと呼ぶこともあります。
ただ、実際に市場で使われているホログラムのほとんどが疑似ホログラムであり、ホログラムという単語が厳密に使われるケースは稀です。そのため、ここで紹介する技法は疑似ホログラムに当たりますが、ここでは区別はしていません。
疑似ホログラムは技法としては古くからあるもので、古典的なものから最新の技術まで幅広い手法が存在します。 これらはどれも視差ではなく、平面映像でありながら立体的に感じられるように投影方法を工夫しています。
ペッパーズゴースト
板ガラスを2枚、45度の角度で配置するというシンプルで古典的な手法。ガラスを使っているので背景が透けて見え、それぞれのガラスに映像が反射することで浮かび上がっているように見えます。
スモークスクリーン投影
平面のシートや壁ではなく、人工的に発生させた霧や専用のネットをスクリーンとして使うことで空中に映像を投影。ネット自体にLEDが組み込まれ、あらかじめプログラムした通りに発光して映像を投影するものもあります。
スピニングミラー
回転するミラーに上から映像を投影し、360度方向に反射させることで、角度を変えると映像の見え方も変わる立体的な映像投影を行います。ミラーの角度に合わせて360度に物体が回転している動画を投影するだけのシンプルなものですが、実際の応用例はまだ少ないのが現状。
回転ロッド式サイネージ
回転するファンの表面にLEDを設置し、回転に合わせて光らせることで空間に浮かび上がるような映像を作り出します。
これは比較的新しい技術ながら、上記のスピニングミラーとは違って、HYPERVSNという製品がすでに市場に投入されています。これはデジタルサイネージとして活用され、ファンの数を増やすことで巨大な映像を作り出すことも可能。
リアプロジェクション
透明スクリーンの背後から映像を投影し、映像を浮かび上がっているように見せる技法。複数の映像をスクリーン上で組み合わせることでより立体的に投影することができるようになります。
初音ミクのライブで利用されたことで注目を集め、類似の技法が「Gatebox」にも応用され、市場に広く出回るようになりました。
VRの原理
奥行きのある映像を作り出すVRは視差を利用した立体映像技術です。原理としては左右の目に別々の映像を送る立体メガネと同じですが、VRでは二つの映像を二つのモニターで直接左右の目に投影します。
問題はこの映像をどうやって作るかです。答えは非常にシンプルで、2台のカメラを使い、右目で見る映像と左目で見る映像を別個に撮影するのです。
カメラ位置が少しずれると撮影された映像にも微妙なズレが生まれるもの。それを片目ずつで見ることで、現実の風景を見ているような奥行きが現れます。
360°動画の撮影も同じ理屈で行われます。
右目と左目に対応させたカメラ2個を1組として、それを環状あるいは球状に配置することで全方位を撮影します。映像を右目と左目で別々に見ることで、頭を動かせば映像内での向きも変わり、かつ視差効果で奥行きを感じられる映像ができるのです。
プロジェクションマッピングについて
プロジェクションマッピングは「浮かび上がる」ホログラムとも「奥行きのある」VRとも少し違いますが、立体物と映像を組み合わせた手法として活躍の場を広げています。
プロジェクションマッピングの要点は、出力する映像の加工です。
平面や曲面がさまざまに組み合わさった建築物に違和感なく投影するため、映像を適度に歪ませるのがその基本。技法自体は以前からあるものですが、活用の幅が広がったのは比較的最近のこと。
映像制作にコンピューターが普及し、加え巨大な面に投影できるプロジェクターが登場したことがその背景にあります。
さっぽろ雪まつりのプロジェクションマッピングは毎年話題になっています。
姫路城や奈良の川原寺でもこれを活用したイベントが開催されるなど、文化財の振興にも一役買っています。
まとめ
立体的な映像を作り出す技術には、本当に様々なものがあり「ホログラム」「VR」「プロジェクションマッピング」と言っても、時と場合によって別の技術を指すことが少なくありません。
映像というのは本質的には平面です。それを人間が立体的に感じてしまうのは突き詰めると「勘違い」なのですが、勘違いのさせ方にも色々あるということです。それを上手に使って動画を作ると、今までにない魅力的なコンテンツが生まれます。
動画という媒体は19世紀に誕生し、20世紀を通じて芸術や産業の中で確たる地位を得てきました。21世紀の映像は技術が進歩するにつれて銀幕の中だけにとどまらず、奥行きや空間といった次元にも進出してきているのです。
2020年代以降はイベントや広報だけでなく、産業分野への実用的な応用も進んできています。
2022年、医療用画像処理で組織や臓器の構造を立体的に表示できるTrue3DホログラムPreOPというデバイスが日本で医療機器認証を受けました。
これはMRIやエコー映像など従来の画像診断で得られた画像から臓器を3D映像で再現し、それをホログラム表示するというもの。手術のシミュレーションに活用することで、治療のリスク軽減につながることが期待されています。
他にもリモートワークの普及とともに注目を集めたテレプレゼンス技術に3Dホログラムを応用する企業も出てきています。
テレプレゼンスとは、ロボットや映像を使って、遠くにいる人の存在感をその場に再現するというもの。
カナダに拠点を置くARHT Mediaという企業は、リアルタイム映像を配信できるホログラムディスプレイを開発。販促やミーティング、リモート対談などのソリューションを提供しています。