外国人には日本で生活保障を受ける権利がない。
2014年7月18日。当たり前のようで当たり前になっていなかったことが、最高裁判決で確定した。
現在、生活保護は日本国籍を持たない外国人にも与えられているが、この判決が出たからと言って、彼らへの生活保護の支給が急になくなると言うことはない。単に今まで通りに、「国は保障しないから、自治体レベルで自由にやってくれ」と言うことがはっきりしただけだ。
今後増えてくるであろう外国人労働者を、自治体レベルでサポートし続けることは出来ない。法改正が行われない限り、日本国は外国人に対し、「安心して暮らしたければ日本人になれ」と言う選択肢を突きつけることになる。
今の日本で、外国人が日本人として生きる事が、本当に出来るのだろうか?
日本の法律と外国人の生活保障
この最高裁判決は、永住資格を保つ中国国籍の女性が、大分市で生活保護が棄却されたことが違法だとして訴えた裁判で確定したものだ。
人々が安心して暮らせるようになるための社会保障は、日本国民にのみ法律で権利として与えられているが、外国人には与えられない。しかし、外国人であっても、永住資格を持ち、日本に納税をし、日本の発展に貢献している人はいる。ましてや、日本人以上に日本で暮らし、日本の事をよく知り、日本のために働いてきた人達だっている。
その人達が何らかの事故やアクシデントで生活に困窮したとしても、日本が国を挙げて彼らを助ける義務はない。義務がないだけで、助けられないわけではない。事実、2012年度の厚生労働省の統計では、7万5千人の外国人に生活保護が支給されている。日本全体で215万人が受給されている事を考えれば僅かな数字にも見えるかもしれないが、人口対支給者の割合で見ると、日本人の倍の数だ。
当然の事ではあるが、日本の文化や日本語に習熟していない外国人の方が、日本人よりも日本の中で暮らしていくのは大変なことだ。権利があるかどうかはともかくとして、外国人の方が、日本人よりも生活保障が必要な環境にある。
さらに、生活保護は自治体負担である以上、裕福な自治体とそうでない自治体で大きな差が出ることは明らかた。基本的には永住外国人と日本人を区別せずに生活保護を支給すると言うガイドラインがあるものの、自治体によっては法的根拠が無いことから、外国人であるかどうかを考慮して支給している可能性は十分にある。
少なくともこの判決によって明らかになったことは、日本で働くことは外国人にとって一定のリスクが確実にあるという事だ。
いまさらそんな・・・と言う話ではある。
諸外国の法律を見ても、「外国人でも永住者であれば国民と同等の保障が受けられる」としている国も、オランダなどの非常に限られた国だけです。
しかし、外国人に対する社会保障の仕組みが、法的になにも揃っていないと言う国は、先進国の中では珍しいです。ヨーロッパでは、そもそもEU間での人間の行き来が多く、どの国でも国民と同等ではないにしても、何らかの社会保障が用意されています。多民族国家であるアメリカにも外国人が受けられる保障制度と言うのは存在し、ある程度であれば保障が受けられる様になっています。
確かに、生活保護に掛かる費用は莫大です。日本国民と全く同じ権利を与えると言うのでは、不満がある人もいるかもしれません。しかし、全く何も用意がないというのでは、少子高齢化社会で労働人口が少なくなっていく日本と言う国の将来が不安になってしまいます。
外国人労働者が安心して暮らせる環境に無いのであれば、外国人に日本人になってもらうしか無い。つまり、日本に帰化してもらうしか無いわけですが、それは簡単なことなのでしょうか?
永住資格と帰化
日本で暮らす外国人は、大きく分けて以下のように分類出来ます。
- 「旅行などによる一時的滞在者」
- 「留学など、学問を目的とした長期滞在者」
- 「仕事など、労働を目的とした長期滞在者」
- 「永住、定住資格を持った住民」
- 「不法滞在者」
ザックリとした分け方なので、もっと他にも色々な理由が存在します。さらに、帰化した「元外国人」は含めません。
この中で、⑤はそもそも論外ですが、①-③に関してはその目的に応じた権利が保証されており、国民健康保険などに加入することもできます。しかし、定期的に目的に沿った活動をしているかどうかのチェックが入り、それ以外の活動をすることは許されていません。
一方で、④の住民資格、特に永住資格を持つ外国人に関しては、基本的にはほとんど日本国民と変わらない活動を許されています。ただし、参政権や社会保障などの権利に僅かな差異があります。
そして、②-④の外国人には、条件を満たしさえすれば、日本人に帰化して日本国人になると言う選択肢も存在し、そうすれば、名実共に日本国民として、日本人と全く同じ権利を与えられ、自由に生活することが出来ます。
そして実を言うと、「永住権」よりも「帰化」の方が容易なケースもあるのです。
◯永住資格取得の条件
日本人や永住資格者の配偶者、子息でない場合には、大まかに以下の3つの条件が必要になります。
(参考:永住許可に関するガイドライン)
- 犯罪歴、犯罪の可能性がなく、日本の法律を順守する人物であること
- 一定の収入、財産があり、生活が保証されていること
- 10年以上連続して在住歴があること
◯帰化の条件
日本人の配偶者、子息でない場合には、大まかに以下の条件が必要になります。
(参考:法務省、国籍Q&A)
- 5年以上連続して在住歴があること
- 20歳以上であり、母国においても判断能力があると認められる年齢であること
- 犯罪歴、犯罪の可能性がなく、日本の法律を順守する人物であること
- 一定の収入、財産があり、生活が保証されていること
- 無国籍であるか、帰化と同時に母国の国籍を失う事、二重国籍にならないこと
- 日本の憲法を順守できる人物であること
以上の様な条件になっており、基本的には、「法律を守り、生活力があり、日本の文化をよく知っている人物」であれば、日本の住民になることができ、日本国民として認められるということになります。
永住資格と帰化の条件の間にある大きな差異としては、20歳以上であり、国籍を捨てられるかどうかが一番のポイントになります。肝心の在住歴のハードルは帰化の方が低いというのが意外です。
国籍破棄の条件は帰化である以上当然だとして、年齢の条件に関しては、「国籍を選択する上で、一人の国民として権利を主張するだけの条件を満たしているかどうか」と言うことで、成人の縛りがあるのでしょう。
実は、永住資格を得られるほとんどの外国人は、日本に帰化することが可能と言うのが、今の日本の法律なのです。
ですから、外国人に生活保護を与える義務がないと言う判決は、そのまま「日本国民になれば、国は生活保護を与える義務がある」と言っているのと等しいのであり、永住外国人自身の判断で、社会保障を受ける権利を放棄していると言う解釈もあり得ます。
では、何故・・・永住外国人は、日本に帰化しないのでしょうか?
母国を捨て、日本人になるということ
帰化して日本人になるということは、母国を捨てるという事を意味します。
多くの永住外国人は、両親のどちらか、もしくは両方が外国人であり、帰化するという事は、その両親との繋がりを捨ててしまうということにもなります。
野球選手・監督として、世界的にも有名なプロ野球選手、王貞治氏は「台湾人」です。中華民国国籍であり、日本国籍は持っていません。誰よりも日本に貢献し、日本を良く知る人物でさえ、父親の国を捨てるような事はしませんでした。
それは、王貞治氏だけではなく、他の永住外国人にも言えることです。日本に暮らし、日本を愛し、日本で死ぬまで暮らすつもりでいても、自分の家族や親が守ってきたもの、残したものを捨てたくないと言う気持ちはあるでしょう。
訴えを却下された中国国籍の女性は日本生まれで日本育ち、中国語はほとんど話せません。80年以上日本で暮らしてきたそうです。
そういう人々に、国籍を捨てろと言えるでしょうか?
王貞治氏は、外国の記者に「私は紛れもない日本人だ」と語っています。同じく、この82歳の中国国籍の女性も「日本人のつもりで生活してきた」そうです。
日本国籍を得ることは、それほど難しいことではありません。少なくとも、絶対に5年間日本で暮らさないといけないということではありません。日本国籍を持つ人物の配偶者になるだけで、日本国籍を得ることが出来ます。人によっては、生まれた時から好きに選ぶことも出来ます。
日本国籍と持つことと、日本人であることは、少し違うことなのかもしれません。
日本で安心して暮らせる権利は、日本国籍を持つ人と日本人、どちらに与えるべきなのでしょうか?
とはいえ、そんなに簡単な問題では無いのですけどね。