※本記事は、未成年の猟奇殺人、佐世保事件と過去の未成年殺人を比較する【前編】の続きとなる、後編にあたる記事です。
佐世保女子高生殺人事件は、過去の未成年による猟奇殺人事件と多くの共通点がありました。
前編では、「酒鬼薔薇聖斗事件」や「会津若松母親殺害事件」で、遺体をバラバラにしているという点に着目し、犯行に至るまでの過程、犯人の性格などで多くの共通点があることが分かりました。
後編にあたる本記事では、この佐世保女子高生殺人事件が、快楽殺人であるという点や十代の少女によって行われているという点に着目し、比較していきたいと思います。
※非常にグロテスク・暴力的な表現があるため、苦手な人は続きを読むことをお控え下さい。
快楽殺人
これらの猟奇殺人につきまとうのが、「殺してみたかった」「殺すことで興奮した」と言う動機。
前述の二つの事件はもちろん、その他の事件にも同様の動機で殺人を行った未成年がいる。豊川市、西鉄、山口の事件の全てが2000年に行われており、豊川市の事件がきっかけとなって連鎖的に西鉄バスジャック事件も発生している。これらの事件は狂気に満ちた重犯罪であるにも関わらず、少年法で加害者は守られ、十分な刑罰が下されなかったとして少年法改正のきっかけとなっている。
今回の佐世保事件との共通点は、やはり「誰でも良かった」「殺してみたかった」と言う動機にある。
豊川市主婦殺人事件
当時17歳の高校生が、全く面識のない主婦の家に押し入り、主婦を40箇所以上刺して逃走。さらに、逃走時に主婦の夫と遭遇し、主婦の夫に対しても怪我をさせている。しばらく逃走していたものの、付近に落ちていた鞄などから犯人は特定されており、逃走に疲れて少年は自主した。
特異な点として、「人を殺す経験をしようと思った。殺人や、それを行なう自分の心理がどういうものか経験して知ることが必要だと思った」と言う供述である。元々真面目な性格だったことが災いし、どうやら人を殺すという経験そのものに強い興味を抱いてしまったようだ。犯行後も反省している様子で、未来ある人を殺したくなかったと60代の女性を選んでいる点から、バラバラ殺人のような事件と比較すると狂気性はないものの、少年の歪んだ好奇心がどうして生まれてしまったのかが焦点となりそうだ。
少年は幼い頃に両親が離婚し、父親に引き取られていた。離婚後は祖母を母親と呼び、本当の母親の愛情を知らずに育ったようだ。離婚した実母は小学校に上る前にランドセルや辞典などをプレゼントしており、母親として息子を気にかけていた事を伺える。しかし、それらのプレゼントは母親からのものだと言われずに与えられ、以後少年と実母は関わりがなくなっている。父親は教育熱心で、息子に勉強ばかりさせていたようだ。少年の行動を縛るような教育方針が何らかの精神的なストレスとなってしまった可能性は拭えない。
西鉄バスジャック事件
これも同じく17歳の少年による犯行。佐賀駅から出発したバスを牛刀でジャックし、高速道路に入るまでに3名を斬りつけた。この一人が出血多量で死亡している。その後、無線が通じなくなったバスを不審に思った会社が通報し、事件が発覚。高速を規制した警察がバスを包囲し、犯人を説得しながら機動隊が突入し、犯人を逮捕する事件となった。
この事件は、上述の豊川市の事件の二日後に事件が起きている。犯人の少年が残した手記で、豊川市の事件の犯人を褒め称えていた。さらに、酒鬼薔薇聖斗事件の犯人を神だと崇めるなど、少年の精神状態には強い狂気性が伺われる。
2ちゃんねるで様々な書き込みをしたことでも話題になっているが、事件の一番の原因と考えられているのいじめだろう。元来真面目な生徒だったようだが、いじめを境に不登校になったり、いじめによるストレスを家庭内で晴らすような精神状態になり、大きく心のバランスを崩していたことが伺える。最終的な引き金となったのは、少年を手に負えないと感じた母親が少年を強制的に保護入院させたことにある。外泊許可を得た直後、いじめを受けた学校で大量殺人をして自殺するつもりだったと供述していることから、殺人をストレスのはけ口として捉えていたことが伺える。
山口母親殺害事件
当時16歳の少年が、自身の母親を金属バットで複数回に渡って殴り殺害した。きっかけは母親との言い争いであり、衝動的に殺害したようにも思える。しかし、逮捕後の精神鑑定や出所後に起こした「大阪姉妹殺害事件」から、少年のモラルがこの時点で完全に崩壊していた事、暴力行為に対して性的な興奮を抱いていたことが明らかになっている。
少年の精神・嗜好に問題があったにも関わらず、裁判では、「母親の行動や家庭環境にも問題があり、情状酌量の余地もある衝動的な犯罪」と判断し、少年法の関係も僅か3年2ヶ月で出所している。結果、出所して一年足らずで、さらに凶悪な「大阪姉妹殺害事件」を起こすことになった。その事件では既に成人していたこともあり、死刑判決が下され、既に刑は執行されている。
情状酌量の余地があるとされた家庭環境とは、犯行の5年前に亡くなった父親が少年に暴力を振るっており、さらに母子家庭となってからも非常に貧しい暮らしが続き、学校でもいじめられるようになっていたと言う環境だ。確かに酌量の余地があり、精神的な歪みは本人の責任ではない事は明らかだ。しかし、そう言う環境に置かれた子供が正常に発育することは難しく、間に合ったかどうかは置いておいても、正しい教育・指導を受け直させる必要があったことは間違いない。
長崎男児誘拐殺人事件
中学1年生の12歳の少年が、4歳の男児を騙してビルの屋上に連れて行き、男児を裸にした上で暴力を加え、ビルから突き落とし殺害した事件。特筆すべき点は、男児の性器をハサミ等で複数回に渡って傷つけたという点で、少年の性器に対する強い執着が伺える。防犯カメラの映像から犯人が推定され、逮捕に至った。
殺意があったかどうかは明確にはなっておらず、監視カメラの存在に気付き、泣きだした男児をどうすることも出来ずパニックになって、突き落としたとしている事から、強い殺意があった事件とは言えない。殺害に興奮していたと言う事実もなく、猟奇殺人に分類される事件ではない。しかしながら、少年は以前から男児を連れ出して裸にするという行為を繰り返しており、少年が持っていた異常性癖や性器に対する異常な執着が事件に繋がったとして比較事件に追加した。
家庭環境としては、母親の過剰なまでの過保護な指導、過激な教育は近所でも評判となっており、後の精神鑑定でも母親に対する強い恐怖が存在していたことが明らかになっている。犯行後のコメントでも、子供の事件に自分は関係無かったと言う態度をとっている。この母親の存在が年の精神面に強い影響を与え、精神のバランスを崩す原因になったのは言うまでもない。
<共通点>
これらの事件と、佐世保の事件で共通している点は2つ。
一つは、前述の「殺人」「暴力」「強い執着・興味」が猟奇事件へ発展したと言う点。
二つは、教育環境が異常、もしくは片親であったこと。
豊川市の事件では「殺人への興味」。バスジャックでは「暴力衝動やストレスの発散」。山口の事件では「暴力衝動・性癖」。長崎の事件では「性器への執着」。それぞれが事件の直接の原因となっている。
佐世保の事件でも「殺人への興味・強い執着」があったことが分かっており、こう言った精神・嗜好の異常性が、これらの事件に大きく関わっていることが分かる。
忘れてはいけないのが、精神・嗜好の異常成長に繋がる原因。
多くの事件で少年少女の異常行動に関する原因が取りざたされてはいるものの、必ずと言って良いほど関わってくるのが教育環境の問題だ。
豊川市の事件では「両親が幼い頃に離婚」。バスジャックでは「学校でのいじめ、両親の諦観」。山口の事件では「父親の暴力、母子家庭」。長崎の事件では「身勝手で過保護な母親」。
同様に、佐世保の事件でも「母親の死」が精神の不安定さを生む重要なファクターとして取り上げられており、決して無関係とはいえないだろう。
女生徒による犯行
次に、今回の事件で注目されているが、少女による犯行という点。
佐世保女子高生殺人事件は、僅か15歳の少女によって引き起こされた。
これは、「佐世保小6女児同級生殺害事件」と、「京田辺警察官殺害事件」で共通している。
注目すべきは、本事件も含め、これら3つの女子生徒が起こした事件全てに、父親の影響が強く見られることである。
佐世保小6女児同級生殺害事件
これは、同じく佐世保で起こった事件だ。
小学6年生の女生徒が、被害者となる同級生の女子児童の言動・ネットでの書き込みなどに腹を立て、学校に呼び出し、首や手をカッターナイフで斬り付けて殺害した。
驚くことに、首筋のカッターによる傷口は最大10センチに達し、手の甲に付けられた傷は骨が見えるほどだったという。これが意味することは、小学生の女生徒が、全く躊躇いなく、全ての力を込めて、まだ普通に言葉を交わせた友人を斬りつけたと言うこと。
しかも、犯人の女生徒はその後、遺体を踏みつけるなどして遺体に暴力を加えていたと言う。
怨恨による殺人とも分類できる事件だが、傷口の深さや加害女生徒のサディスティックな嗜好があったことが明らかになっているため、猟奇殺人ともいうことが出来る。
そして、加害女生徒の父親が、自身のストレス発散のために女生徒に虐待を加えていたと言う事実があり、女児と両親とのコミュニケーションが上手く行っていなかったと言うことが、女児の精神のバランスが崩れた原因として指摘されている。
京田辺警察官殺害事件
この事件は、本事件と同年代の16歳の女子高生による犯行だ。自分の父親である警察官の父親の首を、就寝中に手斧で斬り付け殺害した。
「女子高生が手斧で寝ている父親を斬りつけた」と言う点が、どこかのドラマやアニメのワンシーンを連想させるが、紛れも無い実話である。
この父親は長い間、女生徒の母親以外の女性と関係を持っており、その事実は母親も承知していた。そして、母親が父親の女性関係について娘である女生徒に相談したり、女生徒自身も父親のパソコンなどからその事実を確認できるような家庭環境であった。
殺害の動機として、「父親の女性関係に疑問があった」としていることから、父親の問題が原因となっている事は明らかだ。しかし、これは単なる怨恨による殺人とは言い切れない。
この女生徒は、「凶器はギロチンが良かった」と言う供述もしており、そこから猟奇的な嗜好を元から持っていたことが分かる。さらに、父親は警察官であり、女生徒に対して厳しいしつけを行っていた。にも関わらず、父親自身が倫理に反するような行動を取っており、それらの矛盾が女生徒の精神を蝕んでいったようだ。
父親の教育と行動により生まれた異様な家庭環境と、女生徒の猟奇的な嗜好が合わさって起きた事件と言える。
<共通点>
前述の様に、3つの事件全てにおいて、父親がキーパーソンとなっている。
佐世保事件の女生徒場合も、母親の死後すぐに父親が再婚していると言う点が、何らかの遠因になっている可能性を指摘されている。
女生徒自身は、「母親の死や父親の再婚自体は何も関係が無い」としているが、直接の原因にはなっていなくとも、他の例を見れば、「父親の行動が女生徒の精神のバランスを崩してしまう原因」となっている事は十分明らかであるように思える。
他の事件は全て少年による犯行であり、父親がキーパーソンとなっていた事件は少ない。むしろ、母親が原因になっているケースが殆どだ。子供達は、「同性の親を手本」とし、「異性の親を支え」としながら、成長していく傾向が強いと言われていて、これらの事件でもその傾向が見て取れる。
総括
バラバラ殺人に関しては、人体に対する興味・性癖、自己顕示欲。快楽殺人に関しては、殺人や暴力そのものに対する興味。加害者の性別に関しては、親の影響が重要なファクターとなっていることが推測できそうだ。
何がきっかけで異常とも言える精神状態・性癖を抱いてしまうのかははっきりしていないが、そのきっかけ自体は誰にでも経験のあるものと言える。小動物の死や解剖実験、友人達の喧嘩や小さないじめ、対人関係におけるちょっとした齟齬。始まりはどれも小さなもので、おそらく少年少女の精神状態に問題が無く、バランスがとれていれば、印象に残った経験として克服出来ていた筈のものだ。
小さなきっかけと、不安定な指導環境が重なった時、徐々に子供たちの精神は蝕まれていく。
教育環境と言えば学校を想像するかもしれないが、紛れも無く「教師より親」の方が子供に与える影響は大きい。一緒にいる時間も、その関わりの深さも段違いなのだ。
無論、親といえど万能ではなく、全ての未成年犯罪に関して責任があるとは言えない。
しかし、何らかの形で親の存在が子供の精神に関わっていることは疑い様が無く、凶悪事件であればこそ強い影響を受けていることが多いと言える。
異常行動は子供が助けを呼ぶ悲鳴であると表現されることがある。
まさしく、これはその最たるもので、日本全国に響き渡る非常に声の大きな悲鳴だといえるのではないだろうか。