「社会性・対人障害」、「言語・コミュニケーション障害」、「反復行動・異様な執着」などが症状の特徴として現れる自閉症ですが、今まで原因も症状に関しても良く分かっておらず、様々な俗説に溢れていました。
「自分の殻に閉じこもった人」「冷蔵庫マザーに育てられた、愛情の足りない子供」「うつ病や統合失調症の一種」などなど、おそらく同じような誤解をしている人は少なくはないはずです。しかし、これらは全て間違いで、自閉症と言うのはうつ病や統合失調症などとは違い、後天的に発症するものではありません。
ここ数年の研究で広く支持される様になりましたが、自閉症は生まれた時から持っている先天性の障害なのです。
誤解が広まった理由
原因は沢山ありますが、その一つは「自閉症」と言う文字でしょう。漢字は表意文字であり、見ただけで何となく意味がわかるようになっているのですが、これに関しては完全に悪い方に出てしまったと言えます。
まず、「自閉」と言う文字自体が、どこか後天的な障害を匂わせています。「自分を閉じる」と書き、能動的にその人の人格や周囲の環境によって発症するような症状に思えるからです。
何故このような名前になったのかというと、実はこれを最初に発見し、名前を付けた精神科医(1940代の米国の精神科医レオ・カナー)自身がそう考えていたからなのです。その精神科医は、自閉症を統合失調症における「自閉状態」と言う「他人の干渉を避けようとする症状」に似ていたことから、この名前を付けました。
自閉症でも確かに似たような症状が出る場合がありますが、これは統合失調症の様に外的ストレスに起因する自己防衛などの行動とは違い、「発達障害により、他人との接し方が上手くいかない・分からない」症状であり、統合失調症とは別の治療法・対処法が必要な別の症状なのです。例えば、外国人が日本人の文化が分からず戸惑うように、自閉症患者は人間社会の文化に戸惑っているということも出来ます。
1940年代に認知されて以来、20世紀の間はずっとそれが後天的なものであると信じられていました。そのせいで、自閉症児の母親は子供愛さない、育て方に問題がある「冷蔵庫マザー」として差別されるようになり、社会問題に発達しています。
さらに、うつ病や神経障害などをさして「自閉症」と呼ぶような用途も広がり、誤解はどんどん広がっていきました。実際の治療現場でも自閉症が後天的な症状だと考え、愛情を与える治療などが試されましたが、全く効果がありませんでした。
自閉症の患者が年々増え続けていった事も誤解に拍車をかけ、技術や社会の変化とともに取り上げられるようになり、テレビの見過ぎ・育児の放棄などと繋げられて報道されることもありました。
自閉症の本当の原因
しかし、ここ数年の研究で、自閉症は先天性の脳機能障害であり、遺伝子異常に原因があるということが分かっています。自閉症にどの遺伝子が関わっているかの特定も進みつつあり、ヒトゲノム研究が進むと同時に自閉症にまつわる謎も明らかになってきています。
現在、自閉症児を産んでしまう可能性が高い環境要因は以下の5つ。
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- 父親の高齢化
- 体外受精による出産
- 妊婦の喫煙
- 乳幼児期の栄養不足
- 紫外線の強い時期(夏)の妊娠
父親の高齢化との関連性は、2013年の論文で明らかになり、近年大幅に自閉症の患者が増えている理由を説明する手助けとなりました。他にも、不妊治療や喫煙などによる妊娠時・胎児期・乳幼児期などの、成長の極初期の環境が原因で遺伝子に異常が出て、自閉症になると考えられています。
遺伝子の異常が大きな要因になっているため治療は困難であり、現在は環境適応の訓練などで生活の負担を減らすための努力しか出来ず、根本的な解決方法は存在しません。
ダウン症のような先天性疾患に関しては、出生前診断により早期発見が可能ですが、自閉症に関わっている遺伝子は完全には解明されておらず研究段階であるため、早期発見も今のところは出来ません。
ただ、X染色体における機能不全が原因であることが分かっていて、XX染色体を持つ女性はX染色体の一つの機能に異常が出ても異常が起こらない一方、XY染色体の男性はX染色体の異常がそのまま染色体異常となり、男性が自閉症を発生しやすい原因だと言われています。現在、男性と女性の自閉症比率は4:1であり、男女で発症に偏りが出る原因となっています。
症状の見分けにくさ
原因は遺伝子にあっても、脳に障害が出るのが自閉症。今までの誤解や名称からの誤解を避けるため、自閉症であっても、より広義の「広汎性発達障害」と呼ばれる様になっています。
広汎性発達障害とは、コミュニケーション能力や社会性獲得における障害をひとまとめにしたもので、自閉症・アスペルガー症候群・各種知的障害・その他(具体的に分類出来ないが症状的に含まれるもの)がそう呼ばれています。
これは、自閉症と各種発達障害の区別が非常に難しいためで、自閉症と一口に言っても非常に種類が多いです。
代表的なものは以下の3つ。
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- 小児自閉症
- カナー症候群
- 高機能自閉症
小児自閉症は幼児期に顕著に見られる言語障害や奇行などの症状で分類され、カナー症候群は昔から言われる自閉症で対人関係構築や言語障害などが顕著に現れます。そして、高機能自閉症は、言語障害やコミュニケーション不全などが見られるものの高い知能を有していて、一種の個性などのように見られることがあります。
ただし、全ての症状に共通しているのは、
①社会性の障害
目を合わせない。協調性が低い。他人に対する無関心。人間関係の構築が出来ない。
②コミュニケーションの障害
言葉が上手く話せない。会話が長続きしない。長い文章で話せない。
③物事に対する異常なまでの執着
単純作業に熱中する。反復動作する物体(扇風機など)を見続ける。慣習的動作に固執する。
であり、程度の差はあれど、必ずこの3種類全ての症状の特徴があります。
非常に漠然としているため判別が難しく、統合失調症やアスペルガー症候群などと同一に扱われしまうことが多いです。しかし、原因と対処法(自閉症の治療は不可)が異なり、統合失調症と間違えられて副作用の強い向精神薬などを投与される可能性もあるため、これは大きな誤診と言えます。
自閉症との付き合い方
先天性の遺伝子疾患である以上、治療は出来ません。
親や周囲の人間の理解と助けを得ながら、言語やコミュニケーションの訓練などで少しずつ健常者とのギャップを小さくしていく他はなく、それも容易な事はないでしょう。
とはいえ、介護がなければ生きていけない疾患ではなく、統計的に見て犯罪者が多い疾患でもありません。何も知らない人から軽度の自閉症患者を見た際には、「健常者よりコミュニケーションが苦手でどこか変わっているだけ」と、言うこともできます。
そして、何よりも自閉症について理解されなければいけないのは、それが「先天的なもの」であり、「親や本人に責任はない」と言う事。ここを周囲が誤解してしまい、親の教育や子供の努力が足りないなどと考え、差別してしまうことが一番の問題となります。
敢えて言うほどのことではありませんが、身体の不自由な人に助けが必要な様に、見た目だけでは分からない不自由を背負っている人はたくさんいます。そう言った人々を理解し、手助けしていけるような世の中を作っていけたら良いですね。