※本記事は「はやぶさ2」の解説(前編):ミッション工程一覧と打ち上げから小惑星接近までのハイテク装備の後編にあたる記事です。
はやぶさ2が小惑星に接近するにあたり、圧倒的な燃費を誇るイオンエンジンとイージス艦にも使われるような最新のアレイアンテナを搭載している事は先の記事でご説明しました。
本記事では、小惑星にたどり着き、サンプル採取するまでのハイテク装備についてご紹介します。世界最先端の小惑星探査機であるはやぶさ2には、一体どのような装備が搭載されているのでしょうか?
サンプル採取の流れ
小惑星の成り立ちを調べるためには、小惑星が何で構成されているのかを知る必要があります。地球に似ているのか?火星に似ているのか?それとも、遥か遠くから来た隕石由来なのか?
小惑星の構成は遠くから見ただけでもそれとなく推測する事は出来ますが、やはり実際に小惑星に接触してサンプルを採取してみないことには詳しい構成はわかりません。彗星探査機のロゼッタは着陸機フィラエを飛ばしてサンプルをその場で調査する選択をしましたが、着陸機に十分な姿勢制御装置を搭載できなかったため、綺麗に着陸できなかった事が分かっています。
はやぶさシリーズは、子機であるミネルバシリーズを飛ばして写真を撮って回りつつ、はやぶさ自身が着陸する事ができるので、サンプルを回収した上で地球に帰還する事が出来ます。一応、小型の簡易版ではありますが、ヨーロッパ製のMASCOTと言う着陸調査機も搭載しているので、フィラエの様にその場でのサンプル調査も出来るようになっています。
さて、サンプル採取と言うと、もしかしたらスコップを使って、ザクッと小惑星表面に金属のヘラを突き立てる光景をイメージするかも知れませんが、そうではありません。そんなことをすれば、小惑星にスコップを突き立てた反動で、はやぶさがバランスを崩して転倒する可能性もあります。
宇宙のサンプル採取と言うのは言うほど簡単ではないのです。かと言って、小惑星表面の砂を撫でるだけでは十分な情報が集まりません。
では、どうするのでしょうか?
今回、はやぶさ2は二つのステップを通して、小惑星の内側部分までに渡るサンプル採取を行います。
ステップ1: 小惑星に砲弾をぶち込み、クレーターを作る。
ステップ2: クレーターに着陸し、サンプルを採取する。
クレーターを作るのは小惑星表面の砂や土は太陽光の影響を受けて変質している可能性が高いからで、クレーターを作った直後の土や砂にこそ本当の小惑星の情報が隠されていると考えられています。
「えっ?はやぶさ2って、砲撃も出来るの?」と思うかもしれませんので、これから解説いたします。
クラスター爆弾にも使われた戦車も壊す自己鋳造「鍛造」弾頭
(JAXA)
実は、はやぶさ2には「自己鋳造(訂正)鍛造弾頭」と呼ばれる特殊な砲弾が搭載されています。
これは発射と当時に金属が変形し、砲弾の形になりながら目標を破壊する弾頭なのですが、実はクラスター爆弾の小爆弾にも使われ、戦車や装甲車も破壊できる代物です。はやぶさ2に搭載されているのは、兵器利用を目的としたものではないのですが、大きなクレーターを作れるほどには強力な代物です。
以下、その威力が分かる動画です。(JAXA提供)
なかなかの威力がありそうな事がわかります。
実はロケットランチャーなどにも使われている成形炸薬弾の一種(ロケットランチャーとは(訂正)に使われている弾頭とは別の原理を使っているものの似た分類になる)で、普通に弾丸を発射するより効率よく弾頭にエネルギーを伝えつつ高速で金属を飛ばすことが出来るのです。
以下がその金属が変形していく過程になります。
「クラゲのような物体」が発射された砲弾が変形していく過程を描いたもので、左の箱にある「皿の様に歪んだ板」が発射される前の砲弾なんです。
何故これが普通の砲弾より強力なのかというと、火薬の爆発によるエネルギーの伝達効率に大きな差があるからです。
小さな砲弾に火薬のエネルギーを伝えようとすると砲弾が火薬の爆発を受ける面積が小さいため、時間を掛けてエネルギーを伝えていかなければ高速な弾丸にはなりません。そのため、戦車の砲身は長くなり、砲身の中でゆっくり爆発のエネルギーを受けて加速しながら、高速の砲弾を発射します。
ところが、自己鋳造弾は普通より広い面積で一度に爆発のエネルギーを弾頭に伝えるので、長い砲身は要りません。平べったくて薄い金属板がそのまま進んでいったら、空気抵抗で失速してしまいますが、発射した直後に金属が変形して縦に細い砲弾の形になれば失速する事はありません。宇宙で空気抵抗は関係ないですが、薄くて平たい板のまま目標にぶつかっても、威力が分散するのでクレーターが作れないので自己鋳造弾が最適です。
重量制限のあるはやぶさ2では、戦車のように長い砲身などもっていけないですし、ロケットランチャーも自己鋳造弾より重くなってしまう上に、目標のすぐ側で爆発するので爆薬がサンプルに混ざってしまう可能性があります。
そこで、はやぶさ2は自己鋳造弾にタイマーをセットして発射地点に放置し、自身が安全な場所に隠れてから発射させる方式にしました。これは、世界初の試みであり、上手くいけばよりコンバクトで軽い砲弾を使ってクレーターを作れるようになります。
さて、クレーターが作れてからが最大の難関です。
クレーターを作った後は、クレーターが出来た場所で小惑星のサンプル採取が必要になります。
サンプリング装置(SMP)
はやぶさ2のサンプリング装置は初代はやぶさと外見自体はあまり変わりありません。
方式も基本的には変わりなく、象の鼻のように伸びたノズルで舞い上がった小惑星の粒子を吸い込むようにして確保する方式です。
問題はどうやって小惑星表面の粒子を舞い上がらせるかですが・・・やはりショベルようなものを使う事はありません。小惑星探査で実際に着陸するようになったのはつい最近のことなので、実際に接地してサンプルを確保する方法は確立されておらず、今回でもそう言うやり方は行いません。そこで、昔から使われている方式として、地面に弾丸を打ち込んで衝撃で舞い上がった粒子を確保すると言うやり方が使われます。
「え? 最初に砲弾を撃ってクレーターを作った時に舞い上がったモノを回収すれば?」と、思うかもしれません。
昔は本当に小惑星にバカでかいクレーターを作ってサンプルを回収していましたが、安全のために距離を取らなければならず、確実性が低くて、うまく行っても少量のサンプルしか回収できません。
はやぶさシリーズのように、接近して小さな弾丸を使って回収する方法の方がより沢山のサンプルを確実に回収できるのです。ちなみに、「初代はやぶさ」は弾丸打ち込みに失敗していますが、上の写真の様に着陸の際に舞い上がった粒子がほんの少し装置に入り込んでいたので回収自体は成功しました。銃弾は小さく、はやぶさ2の本体は数百キロあるので銃弾の発射で大きくバランスを崩すこともありません。
さらに、今回の装置では改良が加えられて複数回のサンプル回収が可能になっており、クレーターがある場所とない場所でサンプル回収ができるようになっています。少し難しいかも知れませんが、ミネルバチーム(全3機)が興味深い場所を発見すれば、その場所でサンプル回収を行うと言うこともあるかもしれません。
それから、前回のように銃弾が発射できなくても、ノズルの先っぽに返しを付けてサンプルを引っ掛ける事が出来るようになりました。つまり、ノズルをグサッと地表に差して引き上げれば、それだけでサンプルが回収できてしまうのです。小惑星の重力が小さいため、引き上げている最中に急に止まれば、勢いでノズルの先に引っかかったサンプルがノズルの上に登って行って回収ボックスに入ってしまうと言う寸法です。
万が一に備えて様々な対策を取っていた「初代はやぶさ」ですが、その精神は「はやぶさ2」でも健在のようですね。
参考文献:ファン!ファン!JAXA!(http://fanfun.jaxa.jp/countdown/hayabusa2/index.html)