アヒル型?チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸機フィラエが探査機ロゼッタから投下される

今年の8月に探査機ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に追いつき、彗星の核の写真を撮影してきた。この写真がアヒルの玩具のようだと話題になったが、来月11月には彗星の地表に着陸機(ランダー)のフィラエを投下する。

 これまでに彗星に近接して写真を撮ったり、彗星にモノをぶつけてみたりしたことはあったが、着陸機を着陸させたことはなかった。もし、フィラエが無事に着陸に成功し、彗星表面の物質を採取・分析し、その結果を地球に送ることができれば、彗星の構造や成り立ちについての研究に大きな進展が見られることになる。

果たして、フィラエは無事に着陸に成功する事ができるのだろうか?

彗星と小惑星の違い、彗星への着陸は世界初

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彗星と言えば、これを思い浮かべるだろう。長い尾を引く流れ星・・・とは違うのだが、綺麗に尾を引きながら宇宙を飛ぶ天体と言うイメージだろう。

流れ星は数センチや数ミリの天体が地球に落ちたときに大気との摩擦で発光しながら落ちるので、尾を引いて落ちていくように見えるのだが、彗星は全く違う原理で尾を引いている。

逆に彗星と小惑星は別物であると考えられがちだが、小惑星と彗星の定義は尾を引いているか引いていないかぐらいの差しかなく、かなり近い天体ということになる。分類法によっては同じ天体と見なされるが、あくまでその軌道や大きさによって判断されるもので、天体を構成する物質は大きく異なると推測されている。

小惑星の材質に関してははやぶさがイトカワへの着陸に成功しており、僅かながらも小惑星の物質を持ち帰っている。しかし、彗星に関しては直に着陸して天体の調査をするという試みが行われたことはなく、フィラエが世界で初めて彗星への着陸を試みる着陸機となる。

小惑星は尾を引かないが、これは彗星とは天体の構成が異なるためだ。彗星の尾は太陽の光や太陽風(太陽が飛ばしている小さな粒子の流れ)を受けた天体の表面が蒸発したり剥がれ落ちたりして、チリやガスの尾が出来る。上の写真で二本の尾が見えるのはその為で、ガスとチリの尾は別々の尾を作る。

太陽が飛ばしている光や粒子によって尾が生まれているため、流れ星の様に尾が伸びている方向の反対側に彗星が進んでいるとは限らない。つまり、上の図であれば、一見すると下に向かっているように見えるが、単に太陽が下の方角にあって、下から圧力を受けているだけなのだ。勿論、見る角度によってはその方向が一致する場合もある。

表面が剥がれ落ちて尾を引いているため、小惑星と違って彗星は消滅してしまうことがある。

アヒル型のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星

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左がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星で、右がアヒルの玩具だ。彗星は尾を飛ばし、アヒルの玩具は口から水を飛ばすことが出来る。

いや、まあ・・・似ているといえば似ているのかもしれない。

尾を引いている彗星の写真がこんなに綺麗に撮れるのか、とか、ガスやチリの尾を引いている彗星に着陸できるのかとも思うかもしれないが、彗星の尾は太陽の力で発生しているため、太陽から遠くはなれている時は尾を引かない。

つまり、太陽から遠い時は写真を綺麗に撮ることも出きて、着陸も出来る。とは言え、太陽光で発電している探査機も、太陽から離れているとエネルギー切れになるので、ギリギリのタイミングを見計らわなければいけない。

しかし、タイミングを逃せば太陽光を受けて表面にガスやチリが発生し始める。そうなっては着陸は難しい。万が一そんなことになれば、次の機会は二度と訪れないかも知れない。

ロゼッタとフィラエのミッション

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 (上図はフィラエの着陸イメージ)

はやぶさとは違い、今回のロゼッタのミッションは、天体の物質を持ち帰るサンプルリターンミッションではなく、現地でサンプルを採取して調査した情報を地球に送ると言うミッションだ。

ロゼッタはハヤブサの倍はある巨大な探査機で、かなり距離のある彗星の調査ということもあり、サンプルを持ち帰るミッションではESA(ヨーロッパ宇宙機関)の予算が付かなかった。サンプルを地球に持ち帰り、安全に大気圏に突入させると言うのは非常に難易度が高く、技術的なハードルも高くなる。そこまでしなくても、着陸機を使って材質を調べることは出来る。

フィラエには足がついていて、着陸時の衝撃を吸収することが出来る。同じ着陸機に分類されるものの、彗星の表面を破壊する事が前提のインパクターとはその性質が大きく異なる。内部には実に10種類の装置を内臓し、着陸後に彗星の表面を剥ぎ取り、顕微鏡やX線などを使って彗星の構造を調査する。

しかし、その着陸の道のりは非常に遠い。

探査機ロゼッタで接近したとは言っても、その距離は実に20km近くある。旅客機より高いところから、彗星に降下するのだ。とは言え、重力も殆どない天体なので、降下速度は秒速1m(時速3.6km)。人が早歩きで早くようなものだ。

それでも、フィラエの100kgの体はそれなりの重さではある。早歩きで勢い良く壁にぶつかればそれなりの衝撃だ。脚部で衝撃を吸収しなくてはいけない。着陸時に無線装置が破損しないかどうかが最大の鍵だ。

観測装置は種類は異なれど沢山あるので、無線が使えれば何らかの情報が手に入ることだろう。

10年の歳月と莫大な予算がつぎ込まれた彗星探査は、あとはフィラエに委ねられている。