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潜水艦乗りの過酷な戦い(1):楽しみは食事だけ?蒸し暑くて臭い!毎日が極限状態の海中の密室

潜水艦と聞くと皆さんは何を想像しますか?

水中に潜り息を潜め、誰にも知られずに一撃必殺の魚雷を発射するカッコ良い忍者のような存在だと思うでしょうか?

流線型の美しい船体が静かに海に潜るその姿は、確かに外から見るとカッコ良いかもしれません。ですが、その中での生活はみなさんが思うほど格好の良いものではありません。昔に比べれば随分良くなりましたが、潜水艦乗りの生活と言うのは本当に過酷なのです。

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あなたは乗れる?潜水艦乗りの適性

実は、潜水艦乗りと言うのは訓練すれば誰にでもなれるというものではありません。潜水艦乗りには適性と呼ばれるようなものが存在しています。

そして、日本に限ったことではなく、潜水艦を保有する大部分の国で、潜水艦乗りになるための適性試験が存在します。一体何を試験するのかというと、「狭い密室で長時間他人と共同生活を行えるかどうか」の試験です。もちろん、国によってはその他にメンタル的な試験はあるようですが、基本的にはこれが試されています。

似たような試験は宇宙飛行士の訓練でも行われていますね。宇宙飛行士の適性がある人は、おそらく潜水艦乗りの適性もあるでしょう。

何故かというと言わずもがな。
潜水艦は、長時間海に潜った状態で乗組員達が協力しあって活動するから。

実は、これだけでも非常に難しいことなんです。潜水艦は一見大きく見えますが、艦内のスペースの大部分が航行や戦闘に関わる機器に占められており、人間が活動できるスペースは極僅かです。

考えて見て下さい。
狭い密室。太陽も見えず、窓も無い。外の新鮮な空気も吸えず、物音一つ立てない様に狭いベッドで寝起きする。それに加えて高温多湿とくれば、殆ど監獄同然です。多分、生活環境としては監獄の方がマシかもしれません。

そんな中で長期間生活するのです。強靭な肉体はもちろん、精神的にも性格的にもそう言う生活をこなせる「適性」が必要になりますよね。

潜水艦乗りの身だしなみ?

潜水艦内では真水が貴重です。海水から真水を作る事はできますが、貴重な電力を消費します。

なので、真水は基本的には飲料水となります。無論、そうりゅう級のような最新の大型艦であれば、大きな貯水タンクもありますし、真水を生成する装置の電力消費も微々たるもの。というか、戦時でもないので、貯水タンクが空になるほどの長期航行を行いません。

ですが、大戦時はかなり酷かったようです。真水で体を洗ったり顔を洗ったりすることはできませんでした。海水用石鹸を使って海水で体を洗い、タオルでこすって汚れを落としていたようです。衣類の洗濯はもっての他で、髭剃りや歯磨きも殆どしなかったようです。潜水艦乗りは「物乞いより酷い見た目をしている」と言われたほど。

当然、体臭はかなり酷かったようです。

臭い。。。潜水艦内の空気

潜水艦は海の中にいます。海の中には空気がありません。当然、潜水艦内の空気は限られています。

ということは、換気が出来ない密室に大勢の人間が生活しているので、当然二酸化炭素が増えていきます。さらに、水分の逃げ場もありませんので、湿度もグングン上がっていきます。

二酸化炭素(炭酸ガス)除去装置や除湿機を使えば?と、思うでしょう?
海の中では燃料補給も限られているので、電気の無駄遣いが出来ません。しかも、それらの装置から発生する騒音も潜水艦にとっては致命的です。

そのため、多くの場合は人が生きていける(もしくは士気を保てる)ギリギリのラインに留めています。最近は潜水艦の性能も良くなっていて改善されつつありますが、少し前まで室温30度で湿度100%が当たり前の世界でした。

当然、艦内はカビだらけ。さらに密室空間に燃料を燃やすディーゼル機関があるので、その排気も少しだけ漏れてきます。そして、前述したように体を洗わない上に、衣類も洗いませんので体臭が酷い

さらに、そこに輪をかけるように空気を汚しているのが、人が出すゴミや汚物です。もちろん、可能な限り隔離はしているのですが、臭気が逃げない密室である以上、どこからともなく匂いが漏れてくるようです。第二次世界大戦時には、潜行中はトイレが使えなかったために汚物缶(ただのフタ付きバケツ)で用を足したとか。

他にも色々理由はあるようですが、今と昔で程度の差こそあれ、かなり色々な匂いが混じりあってかなり臭いというのが大部分の潜水艦に共通する事柄のようです。

しかし、実は上記の殆どの事項が当てはまらない潜水艦があります。それは原子力潜水艦です。

なぜなら電気が使い放題なので、真水も作り放題、酸素も水から電気分解で作り放題、二酸化炭素も除去し放題、トイレの換気も電気をふんだんに使って完璧にこなせてしまいます。水から酸素を作りながら、二酸化炭素を除去し、空気を常に清浄し続けている原子力潜水艦は世界で一番空気が綺麗な場所だというジョークも存在するほど。

とは言え、原子力潜水艦は普通の潜水艦より遥かに長い時間(数ヶ月)潜りっぱなしなので、それくらい快適じゃないとキツいのでしょうね。

ちなみに、現代の潜水艦は衛星やレーダーの監視から逃れるために潜ったら潜りっぱなしになることが殆どですが、レーダーや衛星が発達してなかった昔は、飛行機も飛べず視界も利かない夜には浮上してのんびり外の空気を吸えたみたいですね。実際のところ、昔の潜水艦は潜水艦と言うよりは「可潜艦」と言う扱いで、殆どは水上を航行していたらしいです。

潜水艦での一番の楽しみは食事・・・なんだけど

原子力潜水艦はともかく、大部分の潜水艦はかなり過酷な環境での生活を強いられます。そんな中、唯一の楽しみは食事。

昔から世界中の海軍において、潜水艦乗りの過酷な環境には気を遣っていたらしく、陸海空どの部隊よりも優先して食料が配給されています。食料不足が嘆かれた大戦中の日独でも、野菜やフルーツはもちろんのこと、肉類もふんだんに支給されていたようです。

とは言え、生鮮食品は潜水艦内の高温多湿で過酷な環境では傷みやすく、冷蔵庫や密閉された保管庫だって電気消費の関係で大した量は保管できません。そもそも艦内スペースが狭いため、食料庫以外にもありとあらゆる余剰空間を使って食料や物資を保管していたのです。暫くは、生鮮食品を使って美味しい料理が食べられますが、ある程度時間が経つと保存食ばかりにならざるを得ません。

それでも艦内の専属調理兵が工夫を凝らし、ドライフルーツなどを使って時折美味しい食事を作っていたみたいですね。

そうは言っても、世界大戦中の汚物もろくに処理できない潜水艦では、もはやカビと汚物と体臭の匂いが混じりあって、食事の味など殆ど分からなかったそうです。まあ、それこそ船の任務や性能、環境によるのでしょうが・・・味が分からなくても、それが以外に楽しみは無かったかもしれません。

でもやっぱり原子力潜水艦は例外で、巨大な冷凍庫を平気で使える上に、電気を使う調理装置も惜しげも無く使えるので食事も美味しいみたいです。

そうりゅう級の様な最新型は?

こう言った潜水艦の過酷な環境も技術が進歩すると共に随分とマシになっていますが、それでも過酷な環境は潜水艦の宿命とも言えます。

原子力潜水艦はともかく(しつこいようですが・・・)、そうりゅう級のような通常動力潜水艦では電気消費は最小限にしなければなりません。空気清浄装置(炭酸ガス除去装置)や空調も省エネになっているとは言え、多少の事は我慢しろと言うことで無意味にガンガン使ったりはしていません。そもそも、私達は普段汚れた空気を全部外に放出していますが、本来汚れた空気を綺麗にするにはかなりのエネルギーを必要とします。換気扇を回すのも、窓を開けるのも、単に匂いの元を外に追い出しているだけで空気を綺麗にしているわけではありませんからね。

ちなみに、体臭に関しては、わざわざ真水を使わずとも最近ではウェットタオルなどで一定の効果が得られるようです。加えて、戦時でもないので真水の使用もそこまで控えません。とは言え、原子力潜水艦のように無制限に使えるわけではないので、シャワーもトイレも控えめです。あと、驚くべきことに居住エリアは禁煙ではないので、タバコの匂いも酷いみたいですね。

そんなこんなで、現代の潜水艦乗りもやはり臭いようですよ。

どうやら最新鋭の潜水艦も匂いには勝てません。さらに、そうりゅう級はディーゼル機関を搭載している上に、AIP推進に燃料を使うスターリングエンジンを使っています。浮上中はもちろん、潜行中にもスターリングエンジンの排気が若干漏れ出して匂いがしてしまうこともあるようです。元々排気の少ない方式なので、大きな害は無いようですが。

匂いが最大と敵みたいに説明してしまいましたが、狭い艦内で限られた資源を使った共同生活と言うのは、想像するだけでも辛そうです。

今回の記事では戦闘などの軍事的な側面について全く触れていませんが、潜水艦乗りの大変さは日々の生活だけではありません。軍事的な側面でも、潜水艦乗りの苦労は昔から殆ど変わっていないのです。

第2回に続く

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