「歯」は食べ物を噛み砕く器官でしたが、その中で歯を健康に保つために唾液が重要な役割を果たしていたこともわかりました。しかし、唾液と言えば忘れてはいけないのが、消化剤として、円滑剤としての働きです。
唾液はあくまで唾液腺からの分泌液ですので、消化器官と言うわけではありません。とは言え、唾液腺について語ることは唾液について語る事と同義です。ですので、本記事では唾液の働きについて扱っていきます。
毎日1リットル以上分泌される液体
唾液は一番人が使いやすい分泌液の一つと言えます。
推奨される使い方かどうかは置いておいて、
チラシやビニール袋を開ける際に指に湿り気を与えるために使うこともあれば、怪我をした時に傷口に塗りつけることもあります。口に入った異物を唾液に含めて吐き出したり、子供であれば単に飛ばして遊んでみることもあります。
人が意図して出せる分泌液は非常に少ないため、唾液ほど本来の用途以外に用いられている分泌液はないでしょう。
では、本来の目的とは一体何なのでしょう?
大きく分けると以下のようになります。
- 円滑な嚥下を行うための補助
- 口内を殺菌し、雑菌の繁殖を防ぐ
- 食物を消化し、吸収を助ける
- 口内の物理的保護や味覚の補助
- 歯の保護と修復
これだけ見ても、かなりの作用があることが分かります。
唾液は99.5%が水分で構成され、残りの0.5%に上述した作用を持つ物質が含まれています。非常に少ない様に思われますが、殺菌作用などを持つ物質は少量で強い効果を持つため、唾液に限らず濃度は非常に低く抑えられているものです。そもそも、血液でさえも9割が水分なので、生物が持つ液体は大体9割以上が水分なのでしょうね。
「歯の保護と修復」に関しては、「歯」についてのトピックで扱っているので割愛しますが、簡単に説明すると、唾液は虫歯菌が作る酸を中和し歯を守り、損傷した歯を再石灰化によって修復する作用を持っています。
唾液の粘性、口内保護と嚥下の補助
食べ物を噛んだり、食べ物を食べようとしたり、お腹が減った時に唾液は自然と分泌されます。
唾液を出してみれば何となく分かりますが、唾液は舌の付け根や頬奥の唾液腺から分泌されます。それが食べ物と混ざり、緩やかなまとまりとなって飲み込みやすい形状になるのです。
この時に重要になるのが唾液の粘り気、粘性です。この粘性は食べ物に混ぜ込んで、飲み込みやすくするだけではなく、人体を傷つけないような保護の役割も担っています。
ムチンと呼ばれる物質がその粘性を生み出しており、粘り気の素、粘素とも呼ばれるこの物質は、唾液以外に人体各所の粘膜で活躍しています。口内以外の全ての消化器官で見られ、鼻孔や眼球表面にも含まれているのがこの物質です。
また、唾液は保水成分としても役立っており、唾液によって喉を乾燥から保護できるようになっています。
他には、唾液が舌にまとわりつくことで、味蕾と呼ばれる味を検知する小さな器官を保護し、唾液を通して味覚成分を知覚することができるようになっていたりと、口の中のありとあらゆる器官の保護に役立ちます。
炭水化物の消化、糖類の分解
唾液には消化成分も含まれていますが、唾液は炭水化物(米やパン)だけに効く消化液です。
炭水化物とは、米やパン、蕎麦やうどんのに多く含まれ、小麦などの穀類に多く見られる栄養素です。
米やパンを噛んでいると、どんどん小さくなっていったり、甘く感じられるようになるのは唾液に含まれる「アミラーゼ」と言う酵素のお陰です。この酵素のお陰で、唾液は炭水化物に含まれる糖類を細かく分解することが出来ますが、この酵素は胃に入ってしまうとその機能を失ってしまいます。
つまり、胃で炭水化物は分解されないのです。
酵素と言うのは性質や機能によって活発に働ける環境が違い、中性で働くものもあれば酸性じゃないと働かない物もあります。そのため、歯を守るために中性に保たれている口内では、「アミラーゼ」が活発に働きますが、酸性の胃の中では働きません。そして、胃液の中に含まれる「ペプシン」と呼ばれる酵素は、酸性の胃でなければ活発に作用しないのです。
上手く役割分担されているので安心かとおもいきや、胃は非常に強い殺菌能力や消化能力を持っているにも関わらず、人間の最大の栄養源である糖類を分解する能力を持ちません。
つまり、お米は胃で消化できないので、「ご飯はよく噛んで食べなさい」と言われるのですね。
ごはんやパンをそのまま飲み込んだら消化されずに排出されるのか、と言うとそういうことではありません。
炭水化物は、十二指腸で分泌される最強の消化液「膵液」によって再度分解が行われます。しかし、十二指腸は膵液を食物と混ぜ合わせるだけの器官であり、そこで確実に消化されるわけではないのです。膵液と混ぜあわされた食物は、小腸を進みながらゆっくりと消化吸収が進み、主要な栄養が吸収されるようになっています。
膵液は、人体に必要な主要な食物の大半を消化できる消化液ですが、口や胃で十分に紹介されない固形物は当然消化に時間がかかります。その分、大量に膵液が作られたり、小腸が余分に活動したり、十分に吸収されなりまま排出されることになります。
とは言え、昔の人が唾液の作用を知っていたにしろ知らなかったにせよ、「噛む」と言う作用そのものが消化液の分泌を促したり、食物の破砕の役割を持っている以上、炭水化物云々に関わらず、食べ物はよく噛んで食べるのが良いのは間違いありません。
唾液の殺菌作用、体内の入り口を守る最初の関所
唾液にはもうひとつ重要な作用が存在しています。
それが、殺菌作用です。
実に十数種類もの殺菌作用を持った成分を含み、それらが口内に入り込んだ様々な細菌やウイルスを殺してくれています。
それじゃあ、口の中は清潔なのかというとそうではありません。唾液は口の中を保護する成分を含んでいるため、「口の中に長時間残る」のです。そのため、口内や歯を破壊する胃酸のような強力な殺菌成分は使えませんし、飲み込んだら胃酸で破壊されてしまうのに、白血球のような「免疫細胞」を置いておくわけにも行きません。
唾液の殺菌作用は、口の中に入ってくる雑菌にとって無視できないほどに強力ではありますが、その全てを殺しきれるほど強力なものではありません。
この結果、「唾液は汚い」と言われるように、口内の唾液は非常に多くの雑菌を含んでいます。ただ、唾液腺から分泌される唾液が汚いのではなく、口内で繁殖を続けている細菌類が唾液と混ざると汚いので、分泌された直後の唾液は清潔であると言えます。
時折、舌の下にある唾液腺から勢い良く噴水のように唾液が吹き出すことがありますが、それはそれほど汚くないでしょう。欠伸の際などに誤って唾液腺から唾液が飛び出してしまったとしても、普通に吐き出す唾よりは遥かに清潔なので気にしすぎない方が良いでしょう。
唾液と混ぜられた食物は食道を通して胃へ
唾液は食物と混ぜられた後に、食道を通って胃に向かいます。
食道はかなり細く、大きな食べ物は通りません。さらに、食道を通る前に、食べ物は「喉」を通過します。喉には食道と隣接するように気管が存在しており、気管は一切の固形物を通しません。
大量の固形物を通す食道と、気体しか通さない気管。この二つはどのようにして共存しているのでしょうか?