「世界の通常動力型潜水艦を徹底比較!(ランキング編)」では、そうりゅう型がトータルで見ると潜水艦として高い能力を持っている事が分かりました。しかし、その理由については細かく触れられていません。また、得点表を掲示していましたが、その得点になっている理由も説明していませんでした。
本記事では、世界でもトップレベルの通常動力型潜水艦3種「そうりゅう」「212」「ラーダ」について、細かく説明していきたいと思います。
それに加えて、米国の原子力潜水艦バージニア型の特徴についても簡単に解説していきます。
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そうりゅう型-日本
(そうりゅう型_JMSDF)
そうりゅう型の性能分析は、以前「そうりゅう型潜水艦は、ドイツの216型やフランスのシュフラン(バクラーダ)級に勝てるのか?」でも行いましたが、比較対象が開発予定の潜水艦であり、あくまでも「オーストラリアのニーズ」から見た分析ですので、純粋な性能分析とは言えません。
今回は純粋に現行レベルの潜水艦として評価してみました。
では、順番に性能を見てみましょう。
隠密性「8」
AIP機関であるスターリング・エンジンは十分に静かなエンジンなのですが、静音性や熱量の発生という点で燃料電池には劣ります。しかし、電池航行時のそうりゅう型に関しては様々な技術革新により非常に高いと考えられており、電池航行時のみを考えれば満点評価でも良いでしょう。
潜水能力「9」
AIP機関の性能や船体に使われている高張力鋼の性能により、かなりの潜航能力を確保していると考えられます。連続潜航時間は3週間と言われていますが、最大潜航深度については公開されておらず、前型「おやしお」の推定潜航深度や「潜水艦救難艦」の性能、中国の軍事評論家の推定などからはおよそ500-600m程度と見積もられています。
行動範囲「10」
そうりゅう型は現行の通常動力潜水艦では最大級であり、航続力はトップクラス。浮上と潜航を繰り返しながら、無補給で長時間活動することが出来ると推測されます。オーストラリアやインドなど広い領海を持つ国家が本型に注目している最大の理由でもあります。
戦闘能力「7」
米国の原潜クラスの高性能ソナーを搭載し高い索敵能力を誇り、米国製対艦ミサイルや国産魚雷などを搭載しています。しかし、対空攻撃の手段が無く、VLSも搭載していないため、大型の巡航ミサイルなどは運用できません。
拡張性(9)
そうりゅう型は大型艦であり、改修の余地はかなり残されています。特に、4基もあるスターリング・エンジンは後期型では取り外される予定であり、そこに「リチウムイオン電池」や「燃料電池」を搭載する事で大幅なアップグレードが可能になります。今後の性能向上が最も期待できる艦であると言えます。
総評
そうりゅう型のポイントは、「隠密性の高い大型艦で、改修でさらなる高性能化の余地がある」という点にあります。日本製ということもあり、かなり高価な潜水艦ではありますが、世界トップレベルを誇る潜水艦と言っても間違いはなさそうです。
「212型」 - ドイツ
ドイツが開発した212型潜水艦はドイツ海軍とイタリア海軍で採用されており、諸外国からは世界最高の潜水艦とも言われています。そうりゅう型と比べるとかなり小型であり、作戦行動範囲は狭いもののその範囲内では圧倒的な戦闘力を発揮するでしょう。輸出型で性能を落としたものが214型であり、韓国やギリシャ海軍など多数の西側諸国の海軍で運用されています。
隠密性「10」
AIPには水素を使った燃料電池を採用しているため長時間の静粛航行が可能であり、音も熱も殆ど出しません。さらに、先端技術の活用でモーターの駆動音なども極めて抑えこまれており、世界最高峰の隠密性を実現した潜水艦だといえるでしょう。
潜水能力「10」
上述の燃料電池の性能や船殻の丈夫さもあり、3週間以上の連続潜航に最大潜行深度700mという圧倒的な性能と潜水能力を誇っています。212型が海中深くに潜ったら、発見するのは非常に困難です。
行動範囲「7」
ドイツやイタリアの領海は狭く、元々沿岸防衛を目的に作られていたため、作戦行動範囲はあまり広くありません。しかし、浮上してのディーゼル航行と燃料電池の併用でかなりの航続距離があり、防衛任務であれば何の問題もなくこなせるでしょう。
戦闘能力「7」
高性能ソナー搭載で高い索敵能力を誇っているだけではなく、機雷敷設能力に加え、対空攻撃も可能なミサイルを搭載しているのが強みです。ただ、対地攻撃は出来ず、ドイツ・イタリア製兵器しか扱えない仕様であり、米国製の長距離対艦ミサイルなどが扱えず、攻撃範囲がやや狭いのが欠点です。
拡張性(7)
船体が狭く、既に完成されていると言って過言ではない性能なので拡張性はあまりありません。大型の216型の開発が始まっていることもあり、改修しての長期運用は望めません。しかし、214型然り輸出用モデルには多数のバリエーションがあり、拡張性は低くありません。
総評
圧倒的な隠密性と潜水能力を誇り、潜水艦や水上艦が212型と遭遇したら生き残るのは容易ではありません。数少ない欠点としては作戦行動範囲の狭さがあり、母港を遠く離れた外洋で長期間作戦行動を行うのは難しいでしょう。
(次ページ:ラーダ型とバージニア型)
「ラーダ型」 - ロシア
(ラーダ型_wikipedia)
ロシアの傑作潜水艦キロ型の後継で、輸出用にアムール型が作られています。ロシアは原子力潜水艦も運用している国家であり、原子力潜水艦に装備されている兵器もオプションで利用できるため、高い作戦行動能力を誇っています。また、ドイツの212型と同様に、幅広いニーズに応える多用途艦にもなっています。
隠密性「9」
キロ型が高い隠密性を誇っていたのは世界的にも知られており、その後継である本型もそれ以上の隠密性を持っているとされています。必要であれば燃料電池の搭載も可能で、高い隠密性を保ったままで長時間の作戦行動が可能です。隠密性に関しては世界最高水準と言って良いでしょう。
潜水能力「8」
燃料電池がオプション化されているので、非搭載型の連続潜航能力はかなり限られたものになってしまいます。また、正確な数値ではないとは言え、公表されている潜航深度も300mとかなり控えめなので、212型やそうりゅう型に比べると潜水能力はやや劣ると見られます。ただ、燃料電池搭載型の連続潜航能力はかなり高くなるでしょう。
行動範囲「7」
船体が比較的大型で、あらゆるニーズに応えられるように輸出用のアムール型では小型のものから大型のものまで数多くのバリエーションがあります。小型のものでは限定的ですが、大型のものであればそれなりの行動力があるようです。
戦闘能力「10」
大型モデルであれば、魚雷以外にも機雷、対空・対艦・巡航ミサイルなど潜水艦が運用可能なあらゆる装備を運用可能で、攻撃可能範囲も非常に広いです。戦闘能力に関しては、ラーダ(アムール)型の右に出る潜水艦はないでしょう。ただ、原子力潜水艦を保有するロシアが、敢えてラーダ型の大型モデルを作ってまで巡航ミサイルを搭載するメリットは薄そうです。
拡張性(8)
輸出用にサイズや装備にバリエーションがあり、用途に合わせてアムール型を作る事を前提に開発されているため、様々なニーズに柔軟に対応できるでしょう。拡張性も高く、基本設計はそのままに長期間の運用に耐えうる設計です。
総評
キロ型から発展させただけあって、高い隠密性と戦闘能力を兼ね備えた汎用性の高い艦となっています。単独で敵地に潜入してもよいですし、艦隊と共に行動しながら火力を提供する事もできるでしょう。
「バージニア型原子力潜水艦」-米国
原子力潜水艦は主に攻撃型と戦略型に分けられ、戦略型は弾道ミサイル運用が前提となっているので潜水艦や水上艦と戦う能力は限定的です。攻撃型は通常動力型潜水艦と似たような任務を目的に作られており、哨戒・攻撃・破壊活動など様々な任務に利用可能です。
原子力潜水艦バージニア型は攻撃型であり、空母機動部隊の最前線で哨戒を行ったり、単独での長期作戦行動も可能です。高価なシーウルフ型には劣りますが、原子力潜水艦としてはトップレベルの性能を誇っており、高い静粛性と戦闘能力を有しています。
隠密性「7」
原子力潜水艦は原子炉を搭載しているため、動力を完全に止める事は出来ません。スクリューなどを止めても、原子炉周辺で駆動している機器の音を完全にゼロにすることは出来ず、どうしても音が出てしまいます。また、発生する熱量も膨大で、赤外線の探知装置に発見されるリスクも高いです。原子力潜水艦としての欠点があるものの、それでもバージニア型は他の原子力潜水艦と比べると非常に高い隠密性を持っているとされています。
潜水能力「12」
潜航可能深度は300-500m前後で、潜水可能時間は無制限です。また、速度も30ノット以上あるとされており、大半が20ノット前後しか出ない通常動力型と比べると圧倒的な潜水能力があるといえるでしょう。とは言え最新型の通常動力型潜水艦は静粛性の高いAIPを使用して長時間の潜水が可能となっており、潜水能力の差は以前と比べるとかなり小さくなっています。
行動範囲「15」
原子力潜水艦の行動範囲は殆ど無制限と言って良いでしょう。強いて言えば乗組員の食料補給が必要であり、一般的な運用であれば半年に一回程度は食料などの物資補給が必要になります。
戦闘能力「12」
対空ミサイルこそないものの、魚雷・機雷・対艦・巡航ミサイルの運用が可能であり、無人潜水艇を使っての工作活動も可能です。巡航ミサイル用のVLSは12基もあり、幅広い作戦に従事する高い戦闘能力があると言えます。
拡張性(6)
船体寿命限界まで使用できる核燃料棒を搭載したことでメンテナンスの煩雑さが減り、部品をモジュール化した事で改修やアップグレードも容易になっています。新規建造も2030年頃まで続くと見られており、長期間使用出来る十分な拡張性を持っていると言って良いでしょう。
総評
原子力潜水艦ということだけあって圧倒的な性能です。しかし、実際の戦闘では静粛性の低さがどの程度影響するかが未知数です。通常型の1.5倍近い速度が出るので一撃離脱が出来そうに思われますが、速度を出せば音で見つかってしまうため、付近に敵がいる時に高速航行は行いません。水上艦の目は欺けても、同じ深海に潜むより静粛性の高い通常動力型潜水艦との戦闘になれば苦戦は必至でしょう。
トップクラスの潜水艦
そうりゅう型、212型、ラーダ型、バージニア型は潜水艦の中でも最高峰の潜水艦です。これらの潜水艦が戦闘を行った場合、どれが勝ってもおかしくありません。ただ、追尾魚雷を使用するような潜水艦同士の戦闘は今まで起こっておらず、今後もまず起こらないだろうと見られています。
そんな中で潜水艦に求められるのは、ある意味「見えないままでそこに居続けること」かも知れません。
敵から見えない隠密性、水中を縦横無尽に移動する潜水能力、広い海のどこにでも出没出来る行動範囲、いざという時に戦える戦闘能力。これらを有する潜水艦がどこかにいる。その恐怖を敵に与えることこそが、潜水艦の使命とも言えるでしょう。