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機雷掃海の危険性と戦えない掃海艦艇、自衛隊の掃海任務が注目される理由

自衛隊の機雷掃海群が世界屈指の能力を有している事に関しては以前お伝えしましたが、安保関連法案の審議に伴い、日本の機雷掃海活動に大きな注目が集まっているようです。

しかし、機雷掃海と一言で言っても簡単ことではありません。機雷は非常に強力で、掃海の手法も絶対に安全と言えるものではありません。また、あまり理解されてはいませんが、自衛艦とはいえ掃海艦艇の戦闘力は極めて低く、海上保安庁の艦艇並と言っても過言ではないです。

一度戦闘になれば、あっさりと壊滅してしまう戦えない掃海部隊が何故これほどまでに注目されているのでしょうか?

本記事では、機雷掃海部隊の能力から少し離れた観点から考えてみたいと思います。

海上自衛隊
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機雷掃海部隊の敵は軍艦ではなく機雷

機雷掃海艦艇の装備の大半が機雷掃海に関するものだけで、敵を攻撃する事が出来る装備は機関砲だけです。小さな機関砲なので、小型ボートくらいは沈められますが、少し大きな船になると穴を開けるだけで精一杯です。イージス艦の管制能力なら、それでもミサイルや戦闘機を落とすことが出来ますが、掃海艦艇では本当に海賊と戦うぐらいしか出来ないでしょう。

また、船体も他の艦艇が金属製で作られているのに対し、掃海艦艇は木製かプラスチック製です。当然、攻撃を受けたらあっさり壊れたり、火がついたり、熱で解けたりします。攻撃力も防御力も極めて低いのが掃海艦艇なのです。

それも当たり前の事。掃海艦艇の敵は敵艦ではなく機雷であり、機雷が艦艇に向けてミサイルを発射する事はありません(魚雷を発射するタイプはある)し、機雷を破壊するのにわざわざ魚雷やミサイルを装備する必要はありません。

機雷掃海艦艇に搭載している機関砲も、自衛や戦闘のためと言うよりは機雷を撃って破壊するための装備であり、どちらかというと機雷掃海(掃討)用の装備と言えるでしょう。

木製やプラスチックの船体も、金属が帯びる磁力に反応する磁気機雷に対抗するためであり、安いから(実際にはより高価になる)そのようにしているわけではありません。

機雷掃海艦艇は、その全てが機雷と戦うためだけに作られています。

機雷戦能力の代償、危険海域での作戦行動


(ダイバーを使っての機雷掃海_機雷掃海群

機雷と戦う能力を得ようとすれば、それ以外の戦闘力が著しく損なわれます。つまり、機雷掃海部隊は戦場では無力なのです。

それが意味するのは、機雷掃海部隊が敵のいる戦場に赴くなら物々しい護衛が必要になるということです。一方で、護衛部隊を機雷から護るのは機雷掃海部隊であり、機雷があるかもしれない場所では護衛部隊より前に出て掃海活動を行わなければなりません。

言ってみれば、護衛艦隊のために先に機雷を除去するのであれば、機雷が敷設されているような戦場で敵の攻撃を真っ先に受けるのは機雷掃海部隊です。敵を先に捕捉できれば別ですが、そうでない場合、機雷掃海部隊が攻撃されてから少し離れたところにいる護衛艦隊が反撃して敵を倒す形になります。いくら護衛艦隊が強力でも、機雷敷設海域で活動できるのは掃海部隊だけであり、機雷掃海部隊はどの部隊よりも命がけで任務を遂行することになるのです。

しかし、現実問題として機雷も敵も両方いる場所に無策に突撃していく艦隊はありません。機雷にかからない場所から護衛艦隊や航空部隊が敵を殲滅し、その後で機雷掃海部隊が活動すると言う形になります。また、現代の駆逐艦や護衛艦の能力であれば多少なりとも機雷を発見して破壊する能力があるので、敵の攻撃を受ける可能性がある海域に機雷掃海部隊を真っ先に送り込むことは実際にはまず無いでしょう。

機雷掃海部隊は機雷戦能力の代償として戦闘能力を失ったため、基本的には安全な海域でしか作戦行動を取れません。

(次ページ: 戦えない自衛隊と掃海部隊)

戦えない自衛隊と掃海部隊

そう言う側面から機雷掃海を見た場合、現代の機雷掃海という作戦そのものが比較的「安全」な海域で行われるという事であり、機雷掃海活動によって他国との戦闘行為が発生しない事がポイントになります。

相手がテロリストや海賊ならまだしも、自衛隊は他国の軍隊と簡単には戦えません。ところが、機雷掃海であれば敵と戦うことはまずないのです。これは、自衛隊の海外派遣を検討する上で最もやりやすい点と言えるでしょう。

ただし、一見すると戦闘行為には見えない機雷除去も、場合によっては戦闘行為に準ずる行為であると解釈されてしまうこともあります。例えば、敵国が自身の港湾や領海を守るために敷設した機雷を取り除く事は、いわば自国の領空を守るために設置したミサイル基地を攻撃する事とあまり変わらず、極端な話、海中に展開している「無人兵器」を破壊しているのと同じです。

そのため、機雷が設置されている場所や目的、情勢に応じて機雷掃海の可否は大きく変わってきます。自衛隊が掃海活動を行う場合、その複雑な情勢が確定し、戦闘状態に陥ることなく、安全に活動できる事が分かった場合のみ掃海活動が可能になるということです。

その行為そのものが、「集団的自衛権」か「個別的自衛権」かという判断はともかく、「掃海部隊が戦えない」からこそ「戦えない自衛隊」の活動として注目を浴びていると言えますね。

海上自衛隊と機雷掃海の展望

自衛隊は戦争が出来ない軍隊であり、掃海部隊も戦闘が出来ない部隊です。

そう言った点で見れば、機雷掃海と言うのは海上自衛隊の海外派遣の可能性の中では、唯一現実的と言える道筋かも知れません。

物資輸送の支援や海賊からの護衛任務で海外に出る事も出来ますが、諸外国が一番やって欲しいのは「危険な任務」です。米国や英国、中東の諸国が危険を犯して、自国のために様々な作戦を展開している隣で、裕福な国の軍隊が安全な場所で悠々と作戦行動を行っているのは腹立たしいことでしょう。

中でも機雷掃海は戦わない割には危険な任務であり、自衛隊も今までに数十人の殉職者を出しています。その大半が戦後十数年で殉職した方々で、近年に機雷掃海で殉職した自衛官はいません。しかし、機雷掃海に慣れていない諸外国の部隊が機雷掃海をやるとこうは行かないでしょう。

自衛隊としても諸外国の利益に貢献し、日本の力をアピールしたいところですが、憲法や法律の関係上活動できる範囲が限られています。その中で、諸外国が代わって欲しい任務が「機雷掃海」であり、戦えない自衛隊が戦わずに出来る数少ない国際貢献なのです。

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